第14話 おでこへのキス。
「王都にまた行けと」
「はい、申し訳ないんですけど……」
ロックバードの件と上級者ダンジョンの許可の件もあり、王国に問い合わせが必要なのは判る。そのために僕らを使うのも判る。
「報酬が安くないですか?」
「別に遅くなってもいい書面ですので~」
ニコリと受付さんは言う。
アルフォートたちの書面だから、ご自由にという感じである。
「ゴゴリ……」
「フフフ……」
アルフォートが喉を鳴らし、受付さんが意味深に笑みを浮かべる。
アワワワと二人の間で慌てているステアが可愛い。
「仕方ありません、お受けいたします。
どうせ一日しかかかりませんし、往復二日として、帰りも銀七十枚手に入るとしたら日銭としたら破格ですから。万一の滞在費は……まぁ、親父の家に泊まればタダですしね」
「あら、親御さんとは和解されたんですか?」
「えぇ、ステアという可愛いフィアンセを見せたのと、自活していることを証明したらあっさりと」
それは脅しではなかろうかと受付さんが思うが、実際のところはそうではないからなんともやらである。
「よくやってると、褒められました。褒められたのも初めてで……」
ワナワナと震え始めるアルフォート。
この前、事情を知った受付さんは、そのアルフォートを観て、
「銀貨十枚、追加してあげます。お祝いとでも思ってください」
と笑顔と良心を見せてくれる。
「ぇ、あ、ありがとうございます!」
「私としてもアルフォート君の精神状態は料理、すなわち私の昼食や晩御飯に直結するのでサービスです!」
「そういえば、お昼にこれをば」
と昨日のロックバードの照り焼きを皿ごと取り出す。
「うーん、だから大好きなんですよ。アルフォート君は」
「イライラ」
ステアが受付さんに褒められているのを観て、嫉妬心をわかす。
アルフォートの右手をギュッと強く握る。
「受付さんの好きは、ライクだよ。ラブじゃないから安心していいよ」
慣れたようにステアに微笑みかける。
痛い右手だが、ステアの嫉妬心を思うともはやご褒美だと思えるアルフォート君は重症なのかもしれない。
「それでもじゃ! この雌からは、発情の匂いがプンプンするのじゃ!」
「は、発情って⁈」
するとステアが自分のモノだと主張するようにヨジヨジとアルフォートの頭に登る。狼狽える受付さんをよそに、皆がホンワカし、
「うんうん、こういう擦れてない関係っていいよな」「そうだよなぁ、金貨一枚借りたぐらいで一ケ月もたたずに取り立ててくるパーティーメンバーとかよりはずっといい」「お前は借金をはよかえせ」
との例のように各々が茶番を繰り広げる。
そしてアルフォートとステアは一日かけて、王都へと舞い戻るのであった。
既に夕日が落ちた遅い時間につくがギルドは空いており、ギルドマスターに会うことができた。
「よう、この前振りじゃないの。手紙は見させてもらったわよ、上級者ダンジョンの許可よね? こればかりはちょっと手間がかかるわね、四日ほど欲しい。ロックバードの報酬はこっちが支払っておくわねん、金貨十二枚。一人上級冒険者もやられたらしいわねぇ……キャジのヤツ、性根は腐ってたが腕は確かだったんだけどねぇ」
なんというか、キャジの件は僕たちのやらかしなのだが、収入が増えるのは良いことだ。十二金貨もあれば、親父のところに行かなくても一週間は王都で暮らすことができる。あとロックバードや他の魔物の要らない部位を売ることで十金貨を得ることができたのも大きな収穫だ。
とはいえだ、和解した親父に遠慮するなと言われているので、【パワーフィールド亭】にお邪魔することにする。
「よう、早かったじゃないか! 今度からは王都の地下ダンジョンでも探索するのか?」
尋ねると親父が迎えてくれて、
「いや、そうじゃなくて上級者ダンジョンの許可を取りに来たんだ。その間、四日ほど滞在させて貰いたい」
「構わん構わん。たが、タダでは泊めさせんぞ?」
意味深に親父の顔がニッコリと光る。
「ちゃんと、料理を手伝ってもらうからな! レベル八とはいえ、十分貴重な戦力だ。一人でもコックは多い方が良い!」
という訳で、レベル一の作業である皿洗いから始めさせられるのであった。そしてすぐに料理の前菜を任せられるようになった。勘さえ取り戻せば、これぐらいは毎日やらされていた作業である、問題ない。
「難しいのじゃ……」
「そうそう、そこで一旦とまって、挨拶。腰は六十度ぐらい、足は曲げない!」
「ぬぅ……」
一方、ステアはというと、アルフォートの母親が丁度いいおもちゃとばかりに人間文化の作法を学ばせている。
アルフォートとしては大変ありがたい話である。
ステアは、モンスターとしては理性的だが、まだまだ全然、人間的ではない部分が多い。今後を考えて、爵位を取得していくのならステアも人間としてのフェアレディになる必要がある。
何故ならば、爵位持ちはパーティなどへの参加や王都への参列など、多々、することが多い。これは勿論、夫人となるステアもだ。
パワーフィールド家も爵位こそないモノの、料理の腕前をかられてよく貴族のお屋敷に往来するのでそう言った点では、母親が良く弁えている。
無礼があれば、妻がしたことでと許されるという訳でも無いのだ。
その点では重ねて非常にありがたい。
今のステアでは、力加減すら危ういからだ。
「疲れたのじゃー」
「僕もだ……久しぶりの厨房の戦争はダンジョンよりつらい……」
二人そろってバタンとアルフォートの部屋、ベッドに二人で横になる。
そしてどちらからともなく、手を差し伸べて繋ぐ。
「でも、アルフォート。人間の礼儀、ドラゴンと全然ちがうのじゃ……義母様もよく根気よく付き合ってくれるのじゃ、有難い話じゃ」
と、前向きにステアが熱心に僕を観てくる。
「ステアがそう前向きで居てくれて嬉しいよ、僕は」
「えへへへ」
「もし、ステアが嫌なら言ってくれ。爵位なんて放り出してでも君を選ぶから」
「そんなことしない。旦那様の願いかなえるのが、伴侶の役目なのじゃ」
と、早速、母親の教育が聞いてきたのか、そう赤い眼でアルフォートをジーっとみてくるステアが可愛い。
六歳児なのに、やはり顔が整っている。これからが期待できるのが良く判るし、居間ですら赤い髪の毛は艶やかで男を誘うような色気がある。
「……ねぇ、アルフォート」
ステアが言う。
「ステア、アルフォートの役に立ってる?」
「あぁ、十分に役に立っている。というか、居るだけで可愛いと思うし、僕にとっては必要不可欠な存在だ」
「なら、キスして……」
誰が仕込んだのだろう。どうせ、母親なのが透けて見えるが。
「義母様が言ってたの、愛し合うモノは求愛の証として唇をまじあわせるんだって……さっき、義母様と義父様もやってた」
あの万年ラブラブ両親めがと思うが、ステアの赤い眼は熱心に燃える様にアルフォートを捉えている。
「判った、でもな、僕等の関係はまだ早いからこれで簡便な」
っと、照れを隠せないチキンハートなアルフォートは、ちゅっとステアのオデコにキスをした。
「それ……ドラゴンでは求愛の証……」
「ぇ⁈」
文化の差がここで出た。
確かにドラゴン同士が口でキスするような場面は思いつきもしない。
想像できたとしてもお互いに首をこすり付けある猫のような動作ぐらいだ。
「嬉しい……ステア……こんなにもアルフォートに好いて貰えて……」
そしてチュッとアルフォートの金髪の裂け目、おでこにチュッとステアが返す。
「ふふ、ママ様には内緒ね」
それはどう意味があったのだろう、と不安になるアルフォートだった。しかし、すぐにスヤスヤと安心気に眠りにつくステアを観て、この子のことが好きだと再認識できた。そして安心して眠りにつけた。
ドラゴンと人間と双方の考えで一歩ずつでも前に進もう、アルフォートはそう思えたのである。
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