第13話 ミーアという存在。
「お手柄ですね」
と受付さんに言われるアルフォート。
「ロックバードが犯人だったなんて、それもお二人で倒してしまうなんて流石です……キャジさんもきっと仲間だった貴方に仇を討ってもらって浮かばれている筈です……」
ロックバードのモンスターレベルは六とされているが、空を飛ぶため厄介な扱いをされており、時たま対応策を持たない場合は上級者も狩られたりする。
「あはははは」
笑ってごまかしておくアルフォートだ。
あんまり下手な事を喋ってキャジの件は巻き返されたくない。
「当然なのじゃ、あんな鳥共にこのステアが負ける訳も無かろう!」
フンスと、鼻を鳴らすステアが可愛い。
「所で上級者ダンジョン許可出ますかねぇ……今日行ったら、全然楽勝で……手応えが無かったんですよね」
「二人でですよねぇ……冒険者カードを確認させてもらえますか?」
と、渡す際に自分でも観て観るとレンジャースキルが六、つまり上級者のレベルになっていた。
また、ドラゴンライダーのレベルも三になっている。
「私も私も!」
とステアが渡すと、騎乗(竜)が五レベルになっている。
そのスキルは騎乗されても上がるのかと、アルフォートは内心驚きを隠せずにいる。
「……ちょっと判断しかねるので、王都に問い合わせてからですかねぇ……報酬の件も今回は依頼という形ではありませんでしたし、後払いです」
「頼みます。急ぎでは無いので」
「はい、頼まれました。いつも美味しい料理を頂いておりますので、精一杯できる限りは」
そんな二人のやりとりにムーっと、頬を膨らませるステア。
「ステアもステアも、アルフォートにかまって欲しいのじゃ!」
「ステアは可愛いなぁ……嫉妬だよね?」
「ふん、可愛い可愛い言っておけばいいと思うんじゃないわい♪」
アルフォートが頭を撫でてあげると、尻尾がバシバシと床を割らんばかりに叩く。そんな様子をニコヤカに見つめるギルドにいる面々。
「お熱いことで……ダメですよ? 六歳児相手に手を出したら?」
「といっても、ステアの方が年上なんですけどねぇ」
「種族感の差別ですよ、それは」
そう窘められてしまうアルフォートであった。
そんなやりとりをして、【水たる猫亭】に戻る二人に待っていたのは、ミーアだ。
「ご飯くれにゃ……おにゅしが王都に言ってる間、自炊したけどまずかったのにゃ……」
「たからないでください、従業員」
と、軽くあしらうアルフォートだが、そんなに無下にできる関係でも無い。厨房を借りて矢で仕留めたロックバードを取り出す。
そして、料理人スキルで食用部を摘出し、あとの使えない部分は空間収納に戻す。使えない部分は使えない部分でギルドに引き取ってもらうことができる。
出汁を取ることも考えたが、手間がかかる上に、手持ちの野菜が足りないので、骨はギルド行きだ。
「さて、何を作ったモノか……」
と自分に確認しつつ、アルフォートは手を動かしながらミートハンマーで肉を叩いていく。
「ジューシーで濃い味のがいいのじゃ!」
「よし決めた」
ステアの一声で、料理は決定した。
まず、手頃のサイズに切ったもも肉を四枚用意し、後は空間収納行き。
それを先ず、しっかりと焼き目をつける。特に皮はパリパリになるまでやくのがコツだ。
そして裏返して蓋をして、魔力コンロに通す魔力を弱めにして裏返して二分焼く。焦がさないように注意しながら、以前王都で買った醤油、酒、砂糖を四:二:二のバランスでミックスしたモノをかける。そして煮詰めていけば照り焼きだ。
後はそれをフライパンから取り出したら、一口大に切っていき、皿に盛れば完成となる。
「うにゃ~、うまそうなにおいにゃ~」
ダメ猫耳店員のミーアさんが匂いに釣られてやってくるので、一つを空間収納に納めて、パンとキャベツを添えて頂くことにする。
「「「頂きます」」」
「あああ、美味しいい、やっぱりアルフォートの料理は最高なのじゃ……」
とウットリと、上品にジューシーさを噛みしめるステアも可愛い。
「ああああああ、うまいにゃあああ、いつにもましてうまいにゃあああああ!」
反して猫耳店員はこんな感じだ。
「嬉しいがうるさい、少しは落ち着いて食べろ」
「これ、ロックバートの肉じゃないかにゃ? 買ってきたん?」
「ハントの意味で狩ってきた、矢で撃ち落としたんだ」
「ぇ、マジで? よくそこまで強くなったにゃ~……」
うんうんと感心を示すミーア。
「知ってるかい、ステアちゃん。このアルフォートは最初、ゴブリンにすら負けて帰ってきてたのにゃ」
「やめろ、その話は……」
「聞きたいのじゃ、聞かせてくられミーア」
「冒険者になったばかりのころ、ゴブリンキングに追い回されてゴブリンどもを村まで連れてきちまって……そこの通りで倒れちまったんさ、あんときはまぁ、おもしろかったにゃ」
「あの時は感謝してます。退治して頂けましたし、宿もタダで提供していただけましたし」
「そりゃ、料理スキル八なんてみたら保護するに決まってるにゃ。金の匂いも料理の匂いもプンプンしたからにゃぁ。聞けば王都のパワーフィールド家の次男坊というじゃにゃいか。そんで戦闘指南から色々世話をやいたのが、私、ミーアというわけにゃ」
「ミーア強い?」
「奉仕者四レベルの雑魚にゃ」
と冒険者カードの一部を指で隠して言う。
「その隠している部分、気になる……」
「そうだよねぇ、気になっちゃうよねぇ! 実はミーは魔王四天王の一人で、人間世界に偵察に来ている先兵にゃのだ!」
「嘘をつけ、嘘を……」
アルフォートはいつも聞く話だとばかりに、否定する。
「ぉお、魔王四天王……! 強そうなのじゃ」
「実際、強いのは確かだしなぁ」
「って隠している部分は、この通り、盗賊レベル九とレンジャーレベル八にゃ」
手を離すと出てくるのは、超上級者レベルである。
あまりこのことを知られたくないのか、僕以外に冒険者カードを見せている姿は見たこと無いし、冒険者ギルドや盗賊ギルド(裏のある仕事を請け負うギルド)の依頼を受けていることも見たことは無い。
「たぶん、この人が、この街で一番強い。あのキャジよりも」
「ニシシ、そんにゃに褒めるにゃよー。キャジは余りのアルフォートの扱いの悪さにボコボコにしたことあるけどにゃ」
「だから、ちゃんと恩を返すために晩御飯を用意している……というわけだ」
「餌付けされた猫……?」
ステアの言葉が全くもってその通りなのでミーアからの反論はない。
「これでも真面目に仕事してるんですにゃー! いつもいつも小うるさい、魔王様に報告書を送るのでテンヤワンヤなんですにゃー! やれサインが無い、やれ報告書が遅い、やれ記載が少ない、そんなの木っ端にやらせとけばいいのにゃー!」
「はいはい、そうだね」
とアルフォートとミーアのいつも通りの会話だ。
そんな風に二人で和気あいあいとしている二人を観て、ステアがムーっとふくれっ面になり可愛い。
「ミーア、ちょっとこっちを観て」
「にゃ……にゃにゃにゃにゃ、にゃんだこの子は!」
ステアが言うので笑みを浮かべてミーアが振り向くと、恐ろしいモノを観たかのように慌てだす。
ステアは笑っていた。
しかし、口の中の牙を隠さず、ドラゴンの尻尾を叩きつけて、真っ赤な眼をしてミーアを観ていた。
「アルフォートを独占するのは我だけじゃ……!」
嫉妬であった。
それを観たアルフォートも、一瞬、うっとプレッシャーを感じるが、やはりそういう所も可愛いなぁと感じてしまうほど、ステアに惚れてしまっているのである。
「ミーアさんならいいか。実はこの子、僕のフィアンセはドラゴンの娘だよ」
「ど、ど、どらごん?! ワイバーンじゃなくて、まさか……いや、今の気配は間違いなくドラゴンのモノ!」
ミーアがナイフを抜き、構える。
「ミーアさん、大丈夫ですから、抑えて! 抑えて!」
アルフォートが叫ぶ。
冒険者として最上格のミーアならば、下手するとドラゴンキラーしかねない。
あるいはミーアが負けるかで、惨状にしかならない。
「大丈夫、アルフォートさえ取らなければ傷つけないのじゃ」
「……魔王様に誓って手を出さないにゃ」
そういうと和やかな食事に戻るのであった。
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