第12話 村に戻りて

「お帰りなさい、さすがに空を飛んでくると早いですね」


 受付さんにそう言われつつ、ギルド長からの手紙を渡すアルフォート。

 そしてステアの事情だったり、自分の名前の変化などを報告する。


「ふむふむ、なるほど。判りました。

 ステアちゃんも冒険者になったのですね」

「ステア、冒険者~!」


 と六歳児がグーをして空に向ける。

 ギルドの皆がホンワカした。


「しかし、既に中級レベルの実力はあるご様子で。パーティの方針とか決めてますか?」

「出来ればステアと二人で中級レベルダンジョンで先ずは慣らしですかね。僕も料理人スキル以外は中級者レベルを超えれてませんから」

「賢明です」


 と受付さんが同意してくれるので心強く感じる彼。


「そういえば、キャジさん達、モンスターに襲われて食べられてしまったみたいですね」

「あぁ、そうなんですね……僕としてはありがたいというか何というかですが」


 食べた本人は私とステアですとは言えないアルフォート君は苦笑いするしかない。


「他にもいくつかパーティーが食い荒らされてますし、あのキャジさん達が倒されるとなると上位モンスターが徘徊していると注意はしてください」

「他にも……?」


 アルフォートらが間違いなく食べたのはキャジ達だけである。


「えぇ、中級者パーティから初級者パーティーが喰われて惨殺される事態が起きているんですよね~。ギルドカードでも死因は確定しているんですが、どうも広範囲でつかめなくて……厄介な話です」

 

 受付さんが地図を広げながら、複数のバツのついた部分を指す。


「主に村の郊外、ダンジョンから出てきた所を狙われているようですね」

「盗賊や魔物遣いの可能性は?」

「それならそれで死因が冒険者によるって出るんですよね。飼いならされた魔物でも同一です」


 物騒な話である。


「なので、アルフォート君も注意してください。とはいえ、ステアちゃんが居ればそんな問題も無いかと思いますが」


 ドラゴンとバレているのでそれを言われているのだろう。


「アルフォートは私が守るぞよ!」

「ありがとう、ステア」


 っと、ヨジヨジとアルフォートの頭に登ってくるステアが可愛い。

 さておき、中級ダンジョン……ステアと出会ったダンジョンに先ず入ってみることにする。

 とはいえ、モンスターが出てこない。

 おかしいぞとレンジャースキルで探知をしてみると、ステアを範囲にして逃げまどっているようである。どうやらモンスターたちにはドラゴンであるという事が一目瞭然のようだ。

 なんともやら。


「ステア、ドラゴンの出す気を抑えることはできないか? モンスター達が恐れおののいて襲ってこない」

「りょーかいなのじゃ」


 ステアがそうふんすと、気合をいれると周りのざわつきや戸惑いが止まった感じがある。どうやら正解のようだ。

 ゴブリンたちも僕たちを獲物と見て、徒党を組んで襲い掛かってくる。


「とりあえず、お手本を見せるよ?」


 四匹ほど、料理スキルで材料に分解して見せ、空間収納にしまい込む。


「ぉお、凄いのじゃ」

「ステアは格闘家だから普通に殴る感じでいいかなぁ」

「じゃぁ、こうじゃな?」


 右側の突きでゴフっという音共に、ゴブリンの心臓が貫かれた。

 その次にステラの尻尾で弾き飛ばされると、ゴブリンが怯みだす。


「逃がしたら厄介だから、殲滅するよ?」

「了解なのじゃ!」


 とあっさりと二人で合わせて全滅させてしまう。


「うーん……」


 しばらくするとアルフォートは悩んでいた。

 中級者ダンジョンの出現、モンスター自体にはドラゴンの家族が来た以前と変化がない。ゴブリン、オーク、吸血蝙蝠……ステア等ドラゴンが居た時は、彼女らの魔力にあてられたモンスター達が狂暴化して上級者が探索必要なダンジョンと化していたが、今はその見る影もない。

 狂暴化したままだろうと見越していたからこそきたのであって、このままでは狩るのが効率が悪い。

 これぐらいならアルフォート一人でも、オークは苦戦するモノの、何とかなるレベルで留まっている。なお、オークは今、ステアが頭を握りつぶしたので、アルフォートが胴体を解体して材料として空間収納に入れている所である。


「ステア、ステア」

「なんじゃ?」

「これぐらいのダンジョンは余裕だよね?」

「余裕も何も少しの間とはいえ、ここに住んでいたのじゃから」


 ペロリと手についたオークの血を舐めながらそう言うので、方針の切り替えが必要だと感じる。ステアの戦闘技術の高さは流石ドラゴンというモノである。

 野性味あふれすぎるが、相手の急所は確実に抑えていく姿は、赤いドレスが返り血に染められ、更に赤みを増す。美しいとすらアルフォートは思った。

 同時に、正直、自分が足手まといになるなぁ、っと自己評価になったアルフォートがため息をつく。


「アルフォート?」

「ステアはどれくらいの魔物迄、狩れる? というか捕食してきた?」

「サイクロプスあたりまでは、タイマンでいけるのじゃ」


 サイクロプス、つまり一つ目鬼の事である。

 モンスターランクにして七レベル相当であり、上級者の域に達せねば倒せない相手だ。

 ちなみにモンスターランク十には当然、大人ドラゴンが含まれる。というか、人間が決めた指標は十までだが、それ以上は同じ区分にされており、差が大きい。


「キャジと同じレベルと考えるべきか……」

「あやつと同じとは心外だぞ!」


 プリプリと頬を膨らませて怒ってくるステアも可愛いなあと和むアルフォート。

 とはいえ、実際、この子ドラゴンであるステアを追い詰めるレベルであったし、他四人も含めれば上級者ダンジョン組だったパーティだった自分らだ。サイクロプスと同等のモンスターランク七、ギガンティスという大巨人をぶちのめしていたりもしていた。


「上級者ダンジョンかなぁ……」


 アルフォートとしてはあまりいい印象が無い。

 完全に荷物持ち扱いされており、レンジャースキルでの索敵しかさせて貰えなかった。特に戦ったこともなく、観ていることしか出来なかったのだ。

 対モンスター戦においても、料理スキルは有効で、何処を刈り取れば部位に分解しやすいとかは判るが、単純に膂力が足りていない自分が悲しい。

 継続的な戦闘は望めないだろう。

 一日、数体を入口で倒して、ステアの戦闘経験を積ませつつ、自分のレンジャースキルをあげるのが良さそうだ。


「一旦、切り上げよう。今日はそろそろ夜になる」

「判ったのじゃ、そしたらドラゴンオーラをオンにするのじゃ」


 そう二人でピクニックが終わった時のような雰囲気で和やかになる。

 そしてダンジョンを、手つなぎで出ていく二人。

 だが、ダンジョンを出ようとした瞬間、


「っ!」


 アルフォートのレンジャースキルが危険を感知した、上だ!

 ステアを抱きしめる様に転がる。


「なるほど……これが中級者殺しか……」


 ロックバードが六体。

 モンスターランクとしては六。


「あぁ、あやつらはワシらが寝床にしておった所に元々、巣を作っていたからママ様がどかしたのじゃ。恨まれとるようじゃな、我が」


 と、ノホホンというステア。

 そりゃ、ボスがロックバードからステアとステアママに入れ替わって、その魔力に影響されて中級者ダンジョンが狂暴化する訳である。その変化確認の依頼に上級者パーティだった、キャジ達に依頼が来た理由もよく理解出来たアルフォートであった。


「つまり、巣を追われたロックバードが、冒険者たちを餌に新しく巣をつくっているってことかな……」


 正直、相手は空を飛んでいるのでやりづらい相手である。

 アルフォートだけだと、どうにもならない。


「ステア、乗らせてもらっていいか! 空中戦も経験しておきたい」

「よいぞ!」


 町の近くということもあり、ワイバーンに変身するステア。

 一匹を先制の弓矢で喉を狙い潰すと、落ちていく。


「流石に、僕でも相手になるか……!」


 遠距離戦は不利とみたか、近距離戦に持ち込んでくる。


「甘いのじゃよ! 堕ちぬよう、気をつけろアルファート!」

「了解、ってええええええ」


 近付いてきたロックバード相手に爪を食い込ませるステア。その後ろ、アルフォートを狙いにロックバードが来るが、一匹は狙撃で眼を潰す。

 しかし、もう二匹がアルフォートを狙いに来る!


「やらせぬわ!」


 炎の柱が上がったとは、後での村人からの言葉だ。

 大きな炎竜巻が上がり、周りのロックバードたちを一瞬にして丸焦げにした。

 アルフォートはというと、ステアの加護で無事であった。

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