第11話 王国内にて。

 あの後、酔いつぶれた親父たちを寝床に押し込んだアルフォートは自身の部屋だった場所にステアと一緒に寝たが特に問題はなかった。

 問題と言えば、ドラゴン大の大きさに客席床が歪んでいたのはご愛敬である。

 親父は朝から大工を呼び込み、昼までのランチに間に合わせたというから凄いというか何というかである。

 さてアルフォート達は、冒険者ギルドに約束のモノを取りに来ていた。


「ほら、この娘の冒険者カードよん」


 そう渡されたカードを受け取るステア。

 スキルなどは格闘家レベル五、飛行(竜)レベル五と表示されるが、肝心な種族の部分だけはワイバーン(人化)と表示される。


「中級冒険者レベルではすでにあるじゃない。アルフォートもレンジャー五だし、ちょうどいいパーティだと思うわよ」


 そうギルドマスターが言う。するとアルフォートとパーティを組めると嬉しそうに綻ぶステアが可愛い。


「しかし、おっかないドラゴンが冒険者ねぇ……たまに人に化けてるヤツは王都でもみるが、初めてのケースだと思うわよ?」


 呆れる様にギルドマスターが言うが、守り切れない可能性があるアルフォートが悪い。そればかりは仕方ないのである。


「これでアルフォートの紐にならずにすむのじゃ!」

「紐というのは男の人が女の人に養ってもらう単語だから違うぞ」


 と突っ込みをいれる二人の掛け合いが微笑ましく感じられるギルドマスターなのであった。


「そういえば、ギルドカードの氏名の性を父親の元のモノに変えたいのですが」

「ん? どうした、パワーフィールド家はここいらじゃ有名だからいいと思うんだけどぉ?」

「ドラゴニル家にして欲しいんです。貴族を目指すために」

「ぬ……なるほどぉ。お前の親父が諦めたモノをお前が目指すという訳なのね?」

「親父が諦め……?」


 初めて聞く話に疑問符を投げかけるアルフォート。自身が目指していたなどとは一言も言っていなかった。


「そう、あいつも元々冒険者なのよぉ。

 レンジャースキルが高いのはそれが理由なのよねん。

 けれども、子供が出来、料理スキルで店をやっていかざるえなくなった際に婿養子に入ったという訳よん。元のパーティには私もつるんでたことがあるわよん」


 何かを思い出すようにニヤリと笑うギルドマスター。


「あいつの飯は旨かったし、空間収納も覚えてたからねん。レンジャーとしても優秀だったし」

「親父が僕と同じことを……」


 ちょっと想定外の話であった。親父も最初からはドラゴニル家を捨てる気は無かったのだと、むしろ僕の様に再興しようとしていたのだと知って胸が熱くなってくるのが判る。


「アルフォート君、ところで王国空中兵団は目指さなぃ? それなら出世は間違いないわよん」

「竜騎兵のことですよね……確かに、それも考えはしたんですが……」


 言いづらそうにするアルフォート。


「確かに兵卒としては厚遇されるとは思いますし、何か大きな戦などが起きて大きな手柄を立てたら、男爵などにもなれる可能性はありますが……けれども、ステアを道具として使うというのは違う気がしたんです。婚約者ですからステアと共に道を見つけていきたい、そう考えましたので」

「立派な冒険者の考え方ねん」


 ギルド長はニヤリと笑みを浮かべて、アルフォートを観てくる。


「アルフォート……そこまで我の事を考えて……」

「そりゃ可愛いステアの為だもの」


 と抱き着きあう、六歳児と十六歳の少年に、暑いねぇとチャチャをいれるギルド長であった。


「そういえば、ローワンの街にはすぐ戻るのん?」

「はい、そこで中級者ダンジョンに潜りつつ、ステアの冒険者としての資質を観て観るつもりです」

「なら、これを依頼であっちのギルドの受付に渡して欲しい。報酬は先払いで金貨二枚、急ぎではないんでね、申し訳ないが」

「いえ、ありがとうございます!」


 そんなやり取りがあって、ギルドを出てくるステアとアルフォートである。

 冒険者カードの名前もパワーフィールドからドラゴニルに代わっており、清々しい気分だ。

 さて、あと何をするかというと、


「そういえば、市場でスパイスとかを観ないとなぁ……」

「市場とはなんじゃ?」


 と、ステアが問うので、アルフォートはニコリと笑って


「楽しい所だよ」


 返すのであった。

 そしてすぐにそれはステアが理解出来た。


「凄い人だかりでひしめき合っているのじゃ!」


 色々な人種がひしめき合い、両サイドの店を見て回っている。

 リザードマンやママーンは勿論のこと、珍しいホースマンやバードマンなんかも居る。


「迷子にならないように、僕の肩に乗ろうか、ステア」

「わかったのじゃ!」


 いつものようによじ登り、定位置だと言わんばかりにアルフォートの肩に乗るステア。

 一応、魔力のつながりがあるのでキャジの時みたいに離れても判ると思うが念のためだ。


「あ、あれ……! 一つ、五十銅貨とかかれているのじゃ」


 とステアが指さすのは林檎の屋台だ。

 折角だからと二つ買い、ステアに一個、僕に一個で昼ごはん代わりに食事にしてしまう。


「ここはね、お金で何でも買える場所なんだよ。と言っても、人身売買は禁止だし、ご禁制の品を出したりもできない?」

「ご禁制?」

「医者スキルの必要な麻薬などの薬草、あるいは危険な食べ物とかだね。後はドラゴンとか高いモノはここでは売られることは先ずない」

「ドラゴンも売るのか?」


 恐々と聞いてくるステアが可愛い。

 そりゃ、人間相手に負けそうになったのがトラウマになっているステアだ、万が一にもと考えてしまうのが当然だ。


「売る人も居るね。大抵はワイバーンだったりが関の山だけど。本当にドラゴンなら商人ギルドの方が買い取りに来て、ウチの店みたいのに問屋流しする」

「なぜ、ドラゴンを売るのじゃ?」


 ステアの純粋の問いに、アルフォートは少し考え、


「色々なモノに使えるからね、多くの人が欲しいんだよ。爪だって、人間が使えば強力な武器になる。内臓だって親父が料理したらとてつもない逸品が出来る」

「なるほどなのじゃ、我はワイバーンで冒険者だから大丈夫ということじゃな?」

「今はそうだね。冒険者同士の殺し合いは原則禁止だからね……」


 キャジさんら五人を食べたアルフォートは複雑な顔をする。


「普通は死因が冒険者カードに乗るから、人間が殺害するとバレちゃうんだ。だから、僕も殺すのをためらった訳だしね」

「我がカード事、すべて食べてしまえば問題なしという訳じゃな」


 と自信満々に言うステアが頼もしい。

 とはいえ、仲間が死ぬなんて噂が立つと今後は新しくパーティを組んでくれる人が居なくなるので、あまり使いたくない手段ではある。

 あれは正当防衛、正当防衛と、アルフォートは心を落ち着ける。


「で、僕が見たいのは……こっち」

「何か粉が一杯売られておるのじゃ、一ビン、金貨五枚?! 高いのじゃ」


 と、子供に言われ不機嫌そうにする店主。


「これらはスパイスというモノで、肉に振りかけることで臭みを消したり、味を足したりできるんだ。金貨五枚なら特価品だよ」

「……なるほど、美味しいモノが高い訳じゃ」


 と、昨日、暇なときにウチのメニューを観て驚いていたステアが理解する。

 ドラゴンステーキ、五百金貨とか見た時には、泡拭いてた。


「ウチの親父は特に妥協無いからね……とりあえず、一瓶下さい」

「あいよ……そこのお嬢ちゃんはしっかり見といてくれ、ウチの店はかなり安く売っているのじゃから高いと言われると……客が引いてしまう」


 悪いことをしたなぁ、とアルフォートは弱気になりながら、


「あははは、確かに。いつもお世話になっているのに申し訳ないです。あとソース系は何かありますか?」

「いつも通りのリンゴやトマトを煮込んで作ったのなら一瓶十銀貨じゃよ」

「この前、これで料理したら喜んでくれた方が居るので、今後も作るのをお願いします」

「あいあい、わかった……二十瓶で一金貨でもっていくかい?」

「いいんですか?」

「売れる時に売らないとねぇ、在庫を抱えすぎても抱えなさ過ぎてものバランスが重要なんじゃよ」


 と老婆はいいつつ、二十瓶渡してくれるので十八銀貨を渡すアルフォートであった。他にも、塩、酒、砂糖、ワサビなどと冒険者らしからぬ料理人としての売買を進めていくアルフォートであった。

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