第8話 王都。

「ひどい目にあった……」

「汝があそこまで熱愛宣言するのが悪いんじゃ」


 文句を言いあうアルフォートとステアの二人は、門への列に並んでいた。


「だが、悪い気分では無かったのじゃ」


 ステアは顔を真っ赤にし、アルフォートの左側の手にしがみつく様にしている。

 何というか純情ドラゴン様というか、危ないというか……そんな庇護欲が湧いてくるアルフォートであった。

 さて、門番の順番になって、


「冒険者カードを」

「はい」

「ドラゴンライダーレベル二? みたことが無い職業だが、今回はギルドの依頼とのことか。問題ないだろう、通れ。但し、ちゃんと自分の従魔の面倒はみること、忘れるなよ?」


 いつの間にかレベルアップしていたらしい。確かに返して貰うと、ドラゴンライダーのレベルが二に上がっている。出発するまでは一だったのに。


「ドラゴンライダーのレベルってどうやったら上がるんだ?」


 ダメ元でアルフォートが聞いてみる。


「我は知らぬ。人間のジョブシステムなど、当然、判る訳ないじゃろ?」


 よじよじと背中を登るステアからごもっともな回答で返ってきた。


「何故、背中に登るのかな?」

「そっちの方が、周りが見やすいのじゃ。汝も我を見失わない方が良かろう」


 今まで乗ってきた分だと言わんばかりに駄々をこねるステア。だがそれすらも可愛く感じるアルフォートはキチンと背負う態勢に入る。

 傍から見たら、親子のようにも見えるだろう。

 実際は、婚約者同士なのだが。


「ともかく、ギルドに急ごう」

「そうじゃの」


 街の真ん中にある王宮より少し手前に、その建物はあった。町で見るより門構えが二回りほど大きく、尊厳さがある。

 中に恐る恐る入ると、人の悪さというのは無いが、プレッシャーを感じる。若者が何をしに来たのだと。全員がほぼ七レベル以上の上級者だ。自分なんぞは中級者(料理人スキルを除く)であり、喧嘩を売られたら勝てないのは百も承知だ。


「あの……」


 と受付に声を掛けると、


「あん? あんたみたいな若造にだす依頼は無いよ?」


 目つきの悪い受付さんがそう言ってくる。

 恐らく冒険者カードを観なくてもある程度の実力が図れる、オープンステータスの魔法を取得しているモノと見た。


「いえ、これを渡すように依頼されておりまして」


 っと封のされた、手紙と冒険者カードを取り出し、渡す。


「……確かに、ローワンの街の書状だなぁ。よほど急ぎの案件? ちょっとまってろ」


 と蠟での印を確認し、そう読み解く彼女。どうやら、蝋印にはそれぞれ意味があるもようのようである。


「ちょっと、ギルドマスターが会いたいと言ってる。来い」


 戻ってくるや、僕とステアを奥に呼び出す受付の人は、扉を開け中に僕らを入れると去っていく。

 そしてそこにはゴツイ男の人が居た。顏自体は柔和だが、体つきや発するオーラが段違いで強者の匂いがする。

 ステアも「うううう」と警戒するように叫んでいる。

 いつもの六歳児っぽさはなく、ドラゴンである本能で叫んでいる。


「あら、そんな可愛い子に警戒されるなんて、私もまだまだね」


 だが、その警戒はオカマ口調一発で崩壊した。


「安心して欲しいわよ、貴方がたにどうこうしようって訳じゃないから」

「どうだか!」


 ステアがそれでも警戒を解かない。


「ステア、ちょっと落ち着くんだ」

「ならぬ、こいつからは同胞を殺した匂いがする」


 同胞……つまり、ドラゴンスレイヤーというヤツだろう。


「昔の話よ。ドラゴンのお嬢ちゃん」

「⁈」


 ステアママの偽装が見破られている。

 僕もその時点で臨戦態勢にはいろうと、空間収納を展開する。

 料理人スキルレベル八だ、あがくことぐらいは出来るであろう。


「そう警戒されると、ワチキも悲しくなっちゃうわよ?」

「いえ、いきなり、ワイバーンではないと気付かれたらこうもなるでしょう。ドラゴンは良い素材になるし、ドラゴンスレイヤーという名前は貴方がその地位につくのに十分な箔だったでしょうし」

「じゃぁ、先ず、言っておくわ。敵対の意思はない。冒険者カードに賭けて、これでいい?」


 そう彼が自身の冒険者カードをアルフォートに投げてくる。

 拳闘士レベル九、レンジャーレベル八、なと多々あるスキルが驚愕な数値で表示してくる。

 その意味が理解出来ないステアがアルフォートを観てくる。どうしたものかと。

 つまり、これは約束を違えれば冒険者カードを捨て去り、今の身分を手放すと言っている暗示なのだ。

 ただステアが知らないのは仕方ない。


「信用しましょう」

「悪かったわね。いきなりドラゴンのお嬢ちゃんなんて言って警戒させちゃって……この王都では知っての通り、多くの種族がいるの。ワイバーンと偽っている理由を聞きたくて、ついね、ごめんなさいね?」

「それは自衛の為です。僕が弱く、そしてステアも四百九十歳と若い竜だから、狙われやすいので」

「なるほどなるほど……で、そのお嬢ちゃんが中級ダンジョンに現れた異変だったわけだ」

「な、なんでそれを?!」

「さっきの手紙は報告よ」


 受付さん⁈ ドラゴンとバレてたのは知ってたけど、報告をあげるために渡したのか⁈ 裏切られた気持ちでアルフォートの気分が闇落ちしそうになる。


「中級者ダンジョンの生態変化に対しての回答。それはドラゴンあるいはワイバーンが現れてそれにより魔力による強弱関係が変異。結論、あなたがそこのステアが婚姻したことにより、終息。こう書かれてたの。それが今回の手紙の主たる内容」


 ことの起こりは確かにその通りだ。

 僕らの死んだ仲間たちと調べた報告書で、間違いがない。ドラゴンの件は隠してくれてたらと受付さんを呪いはしたが。


「知ってるでしょ? ダンジョンが変化したら初級者ダンジョンがいきなり上級者ダンジョンになって、たくさんの死人が出たりとか、そういうのは真っ先に報告するのがギルドでの掟なの」


 確かにアルフォートは知っている。自身がそれにあったことがあるからだ。

 雑魚ばかりと聞いていた所に、ゴブリンキングが現れ、たくさんの同胞が死んでいくさまを観た。彼が助かったのはレベル八の料理人スキルを持っており、また、無限に近い空間収納のレアスキルを持っていたからに相違ない。


「そのあとに、追記があったのよ。

 ステアはドラゴンの可能性大、保護してくださいと」


 受付さん! ありがとう! と一瞬で手の平を返すアルフォートである。


「確かに、ドラゴンは冒険者の垂涎たる目標よ?

 でもね、公国の指針では友たるドラゴンやデーモンに手を出してはならない。そう決まっていても手を出してくる奴らが居る。だから、貴方の冒険者カードに細工をさせてもらったの」


 と返してくる。

 観ればワイバーンとの記載には変わりは無いが、ステアママがかけた偽装ではなく、ちゃんと正規の印字になっている。


「これは特別な措置であり、王の命令でも決まってることだから、ありがたくおもってちょうだい!」

「ありがとうございます!」


 ペコリと頭を下げると、ステアも何か判らぬまま、その赤い髪の毛を下げる。

 そしてアルフォートの安心した姿を観て、ステアも臨戦態勢を解く。


「ところで、そのドラゴンって母親と一緒にいたんでしょ? 母親は?」

「ママ様はまた他の子を産みにパパ様を探しに行ったと思うのじゃ」


 どういうことだろうか、良く判らん。


「なるほど、それなら討伐対象にしなくても良さそうね。

 貴方みたいな六歳児に変化させる技術と人知をちゃんと教える知能を持っているのなら、特に害にはならないだろうし」


 暗に言えば、野生のドラゴンが、狂暴かつ非友好的であればギルドをあげての討伐対象にしていたということである。


「……一つ、出来るか出来ないかで聞きたいんですが、ステアに冒険者カードを発行させてあげることはできないですか?

 少なくとも冒険者になれば、他の冒険者からは殺されにくくなるんで」


 キャジとのことを思い出してだ。

 万が一があった場合、冒険者ギルドの保護を受けていることを証明できれば、ステアの安全は守られる。


「んー……難しい事をいう、お嬢ちゃん、歳何歳?」

「四百と九十歳じゃぞ!」

「人間換算すると十五歳の上という所ね……判ったわ、特別に用意してあげる。種族はワイバーンでいいかしら?」

「ぇえ、お願いいたします」

「おねがいします」


 頭をまた下げる。ギルド長様々万歳の状態である。これで少しは僕に何かあった時にステア一人でもなんとかなるだろうという狙いがある。


「一日かかるから、その間、実家にでも帰ってご飯でも楽しんだらどうかしら? パワーフィールド君。報酬は渡しておくから」


 と、最期にそういわれたアルフォートは口元をバッテンにせざる得なかった。

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