第5話 ドラゴンライダー。
キャジは面白そうに倒れた味方を観ながら、アルフォートに興味を示す。
「料理人レベルで戦えるとはねぇ、本当は前衛をやらしておいた方が良かったのかもしれんな。こいつらみたいに使えないことはないだろうし」
「お生憎ですが、僕はレンジャーなので……」
「お前の作った飯が上手かったからな、パーティにいれてやったが……それをこんな形で使えるとは思わなかった」
ボキボキと手首をならすキャジ。
確か覚えているだけでは戦士レベル七、レンジャー六の上位冒険者のツワモノだ。いくら料理人スキルのレベルが彼よりも大きくても二つも中ランクを超えている前衛相手に戦える訳がないのだ。
「シャァア!」
先に動いたのはキャジだった。
素早い動きの拳だ、それをまな板を出してガードするが、それごと持っていかれ吹っ飛ばされる。
思いっきり岩にぶつけられ、血反吐を吐く羽目に陥るアルフォート。
「っ!」
やはりダメかと思い始めるアルフォート。
親父ならこんな相手でも倒せるだろうにと思うが、生憎、アルフォートは親父ではない。自分でこの状況をどうにかしなければならない。
「アルフォート!」
ステアが彼の名を叫ぶ。
「来るな!」
「ハハハ、笑えるねぇ。こんな小さな女の子に心配されるようじゃあぁな!」
拳が来た!
アルフォートはかわす! しかし、バコンと後ろにあった岩が砕かれる。
こんなものを人体が喰らったらと思うとぞっとするほどの威力だ。
もしかしたら、キャジの戦闘レベルは自分の知っているよりもレベルアップしている可能性がある。
アルファートはそう考えながら、横に転がり、立ち上がることに成功する。
しかし、足が震えてしまっている。
「おっと、ちびりそうなのか? ぉい?!」
今度はフライパンを出したが、完全にそれごと鳩尾に喰らってしまったアルフォートの膝が崩れ落ちる。
「ほらほらどうした!」
「アルフォート!」
キャジから追い打ちされる蹴りを何とかしようと、ステアがアルフォートの身体を庇う様に覆いかぶさる。
「くっ!」
苦悶の表情をあげたのはキャジであった。
それもそのはずだ、少女の姿を取っているとはいえ、ステアはドラゴンだ。
生物としての格が違う、人間に対しての攻撃など効かぬどころかはじき返す。
そしてそれは視覚でも現れた。
「くそ、やっぱしドラゴンじゃねーか! 良い儲けが出来るな!」
ステアが人化の術を解いたのだ。
三メートル近いドラゴンがアルフォートを抱きかかえて守るように現れた!
「我に蹴りを入れたな、許さぬぞ、貴様!」
ドシーンと大きな音と共に、尻尾をキャジに叩きつける。
しかし、それでも彼は倒れなかった。なんと受け止めていたのだ。
「な!」
「悪いがな、子ドラゴンに負けるような奴がリーダーしてるわけじゃないんだよなぁあああああ!」
と、キャジが腰につけていたポーションを飲む。
「後での反動が怖いが、儲け話にはしかたねーよなぁあああああ!」
「ぐう!」
ズドーンと、鈍い音がステアの腹元から聞こえた。
何トンもありそうな巨体がぐったりと倒れ伏す。
「ステア!」
「お前も黙っとけ!」
ついでだとばかしにキャジは容赦なくアルフォートに蹴りを入れ、ステアに叩きつける。
「どうにかできないか、どうにか……」
「アルフォート、我に乗るのじゃ!」
そうステアが焦ったように言う。
「なんだ? なんだ? 飛んで逃げるつもりか?」
挑発だ。ここで逃げられでもしたら、パーティを失ったという事実だけでも損であるキャジはそれだけは阻止したかった。
「そうではない、汝なぞ、我とアルフォートで倒して見せるのじゃ!」
「ほう、なら乗ってみろよ、ほらほら」
面白そうに笑いながら挑発してくるキャジ。
アルフォートは何とか立ち上がり、ステアに言われるがまま乗ろうとするが、
「じゃぁ、乗るのを助けてやんよ!」
アルフォートを上に蹴り飛ばしすキャジに妨害される。そして同時に、ステアを殴り飛ばしにかかり、虚を突いた。
だが、ステアはその渾身の一撃を耐えた。
こんなところで、こんな最初のところで夫と死ぬわけにはいかぬと、そう彼女自身に言い聞かせ、耐えたのだ。
結果、打ち上げられたアルフォートがステアの上に乗ることには成功した。
「よし、やるぞ! 本当のドラゴンライダーの姿を見せてやるのじゃ!」
ステアが光出す。
すると、ステアの身体が魔力に分解されアルフォートに吸収されるような形で収まっていく。
「な、なんだこれは⁈」
『これがドラゴンライダーじゃ!』
そう叫ぶ彼女、いや彼は真っ赤に燃える炎を身にまとい変身した姿。
顏はドラゴンのように険しくなり、手や足に爪が生えている。
そして体中に鱗が生えている。
男の身体だ。
「そんな子供だましがぁ!」
キャジの威力を伴った攻撃がバキン! と大きく鳴った。
しかし、それでは威力不足だ。
何度も何度も、渾身の一撃を入れるが、ピクリとも動かない。
『なんだ、これは……』
驚いたのはアルフォートも一緒だった。
先ほど自信めいた口からとは思えぬ、言葉がその化け物から疑問が漏れた。
『これは愛のカタチじゃよ、アルフォート。結婚を約束したツガイと文字通り一体になる秘術じゃ!』
今度は自信満々のステアの声だ。
「つ、そんなの聞いてねぇぞ!」
『この国の国王も使っていたというのに、知らぬとはなぁ!』
一発だ、一発でキャジが吹っ飛んだ。
そして、トドメを刺そうとし右腕を大きく振りかざした。
しかし、左腕がそれを止める。
『そんな風に殺したらダメだ』
『不殺の心得や縛りでもしておるのか?』
と、聞くのはステアであろう。モンスターであるステアにそんな容赦は覚えがない。弱肉強食こそが全てだ。
『人間は食べ物にならないから、面倒なんだ』
『ふむ?』
『証拠を残してみろ、疑われるのは僕だろう? 人間や冒険者カードは殺しても空間収納にいれることは出来ないし……さっきの四人も含めてどうしようかと考えたら、はぁ……』
と、アルフォートが物騒なことを言い始める。
彼は彼でオツムのネジが外れていた。
つまり証拠が残らない殺し方をすると言っているのだ。
「ひぃ……、助け、助けて下さい」
『なら、簡単じゃ、我とアルフォートでこやつ等を食べればいい。そうすれば骨も残らず魔力となって取り込まれる』
『なるほど……?』
アルフォートは考え、
『それは……人肉の味を知ろということかい?』
『そう言う事になるな。
アルフォート、お主は人で言う所の人外鬼畜に落ちるというわけじゃな。その覚悟はあるか?』
一瞬の躊躇い。
さすがのアルフォートも人を辞めるか、そして人喰いという死罪相当の罪を犯すか、悩む。
確かにドラゴンは人を喰う。
人どころではない、魔物すら喰う、食物連鎖の頂点だ。
それについてこいというのだ。
『アルフォート? もしせぬのならば、飛んで火口にでも放り込めばよい』
折衷案が飛んでくる。
確かにそれは問題ない殺し方だ。
だが、アルフォートは彼女と共にあると決めた。
そして、料理人として人の味を確かめたいという欲もあった。
だから、
『……問題ない、君と生きると決めた時点でその程度の事を怖がってどうする?!』
自身に言い聞かせるように、強く言うアルフォート。
そして口元がニヤつくのはステアの仕草であろう。
『あぁ、それならば思う存分、楽しもうぞ!』
この日、一つの高レベルパーティー、五人の消息が不明になった。
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