第4話 冒険者ギルドにて。

「受付さん、今日は何かいい依頼、ありますか?」


 と、昨日作ったオーク肉のカツサンドを渡しつつ、アルフォートは話しかける。


「お昼用に早速、有難うございます。そうですねぇ、レンジャーレベル五……つまり中級レベルとなるとやっぱし、護衛任務が多いんですよね……今は。移動には山賊などのリスクが多いですし」


 受付さんは、リストを広げ悩む。


「どうです? ドラゴンライダーを活かして、輸送任務とかやってみるのは?

 探してみますよ?」

「そうですね、それはステアと相談してみます」


 一人で来たので即答できずに保留して貰うことにする。

 それは何故かと言うと、


「良く生きて帰って来たな」


 っと、からまれるが無視をすることにするアルファート君。

 こういう事が想定されていたからだ。


「キャジさん、接触禁止ですよ!」

「まぁまぁ、いいじゃないか。仲間が帰って来たんだ、少しぐらい話をさせてくれや」


 アルフォートはメンドクサイと感じた。

 キャジと名乗った男は筋肉質な大きな体をしていた。覚えている限り、ワイバーンの子供ぐらいなら余裕で倒している。


「僕は話したくもありませんがね」


 そして当然だ、自分を生贄にして脱出しようとした人間の言葉なぞ、誰であろうと耳を貸したくも無いだろう。

 本来なら、それがバレた時点で冒険者カードをはく奪される。

 だけどアルファートはあえてそれをしなかった。

 生きて帰った後に問題になることを危惧したからだ。

 冒険者カードを無くしたモノがどうなるかなんかタカが知れている。

 ごろつきだったり、半端モノだったり、闇商売を始めたりなんかしはじめる。そして冒険者カードを奪った理由を作った人間に逆恨みするというのも良くある話だからだ。


「あのドラゴンはどうした?」

「ワイバーンでしたよ、そう報告した筈ですが?」


 アルフォートは淡々という。


「ほう? それでもお前が生きて帰れる訳無いんだがな?」

「つっかかりますねぇ、ギルドに報告した通りですよ」

「ワイバーンの娘と婚約したって話か」


 ハハハとキャジがこれは面白いと笑い始める。


「そうですよ、僕の大切な婚約者です」

「笑いモノにして悪かった。よくもまぁ、そこまでして生き残りたいと思ったもんだ! 俺なら御免だがね!」


 何が言いたいのだろう、この男はと、いぶしむアルフォート君。

 彼にとって悪意を向けてくる対象は憎悪しか向けることしか出来ない。


「キャジさん! もうそれ以上は話しかけたら警告だしますよ!」


 っと、受付さんが仲裁に入ってきてくれる。


「悪い悪い、雑談もダメだとは思わなかったんでな」

「人を探る様なことまでやるのは雑談に入りませんよ!

 今度やったら、ペナルティですからね!」


 悪気が無かったかのように手を振って去っていく元パーティーのリーダー。正面切っての戦闘はアルフォートには分が無い、何故なら、相手は戦士七レベルにレンジャー六レベルだ。バリバリの前衛職なのだ。

 だから、受付さんにアルフォートは謝る。


「ありがとうございます。無視しきれなくて申し訳ございませんでした」

「いえ、いいのよ、アルフォート君は悪くないんですから」


 と、庇ってくれる受付さんの好意が嬉しく思える。

 それが愛とか恋とか、そういう感情ではなくてライクであっても嬉しいと思えるのは彼の今までの半生がある。

 ずっと料理修行してきた彼にそれを教えるモノが居なかったからだ。

 さておき、


「ステアを連れてきますので、ちょっと待っててください」

「はい、判りました~」


 と、ギルドの建物から出て真っすぐに『水たる猫亭』に帰る。

 しかし、結論から言えば、ステアは宿に居なかった。

 勝手に出るなと言ってあったはずなのだが……。


「ミーアさん、ステアを観ませんでしたか?」


 看板店員に声を掛けると、


「ステアちゃん? さっき、アルフォート君が組んでいたパーティーの人が用があるからって連れて行ったにゃ。私も知ってたし、問題ないかと思ったんだけど……マズかったにゃ?」

「ちっ!」


 しまったと思った。

 裏切られた話は、前述の通りもあり話していない。ミーアさんにも話す必要が無いからだ。

 冒険者としての名前に傷がつかないように、そして復讐されないようにと危惧した結果がこれだ。

 

「くそ!」


 アルファートは自身の不覚さを呪いながら走り始めた。

 熱い魔力、契約で培わされたそれが、ステアの位置を教えてくれるかのように迷わずはしることができ、街の外れ、草木の生い茂る草原で追いついた。


「ステア! こっちに戻ってこい!」


 キャジが居ないことを確認し、よし! と声を掛けるアルフォート。


「あ、アルフォート!」


 四人とステアがその声に振り替える。

 愚策だと思われるが、ステアはドラゴンだ。眠らされていない限り、彼ら四人に手を打つ手段はない。だから、安全の確認を優先したのだ。


「まぁ、待てよ。アルフォート」


 ステアの首筋に、ナイフが掛けられる。

 それは問題にならないことが判っているアルフォートは言葉を続ける。


「なんで言う事を聞かなかったんだ!」


 怒りというか、何というか、どういう感情だろうか、これは。アルフォートは複雑な感情を絡め、怒気と悲し気さを混ぜてステアに問う。


「この人達、ダンジョンで見たことあったし、アルフォートの仲間だって言うから! ついて来いって言われて……」


 ちゃんと教えなかった自身を呪うアルフォート。

 ドラゴンというのは、とにかく貴重だ。値千金というのが事実となる所か、もっとする。余すところなく使えるし、魔道具や料理のネタにもよく使われるのは自分も良く知っていた筈である。

 そして眠っている間や酔っている間とかなら、中級冒険者でも狩れたという逸話があり、それらで一攫千金を狙う冒険者は後を絶たない。

 それを狙ったのだろう。


「ちょうどいい、アルフォート、お前が人質になれ!」


 後ろ、盗賊レベル六の元仲間がアルフォートの首筋を狙って行動してきた。

 アルフォートのレンジャースキルはレベル五だ、簡単に人質にとられる……ようなことはなかった。

 アルフォートはそれを空間収納から出したフライパンでガードしたのだ。


「な?!」


 そうアルフォートは料理人として対人や対食材相手に戦えることを親父に強いられていたことがあるのだ。そのレベルは既に八。単純に一つのジョブが六程度では相手にはならない。

 見事に、ガードに使用したフライパンのまま、襲ってきた盗賊を叩きのめす。

 大きなゴングの音が鳴った。


「あと、三人!

 リーダーであるキャジはいない、ここに居るやつらだけならやれる! 」


 呆気にとられている間に、ステアを拘束している一人にまな板をブーメランのようになげ頭にぶち当てて転がす。

 あと二人!


「ファあぐぐぐぐぐ」

「ホーあががががが」


 続けざまに、僧侶と魔法使いに呪文を撃たせる間もなく、長い麺棒を二つ取り出し、回転させて口を打ち抜く。もう、この二人も脅威ではない。

 一瞬の内に四人の討伐に成功した。


「大丈夫か、ステア」

「うん、大丈夫! アルフォート、すんごくカッコよかったのじゃ!」

「ダメだぞ、勝手に行動したら」

「うん、わかったのじゃ!」


 と元気そうにいうので安心する。

 レンジャースキルで見る限り、薬を盛られたりとかそういった感じも無いようだ。


「ステア、すまない。ちゃんと言いそびれていた。この人たちは僕を見捨てた人間たちでもう仲間じゃない。だからついていっちゃダメだったんだ」

「判ったのじゃ、アルフォート! 人はいい人ばかりじゃないのじゃな!」


 と呑気な声でいうが、


「あらら、帰ってみてきたら、仲間が全員やられてやんの」


 と先ほど、ギルドで話しかけてきたリーダー、キャジが面白そうに状態を観てきていた。

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