第3話 水たる猫亭。
「汝は少し、我の伴侶たることを自覚するとよいぞ」
プリプリと怒り出すステアも可愛い。とはいえ、
「いきなり噛まれる理由にはならないと思うけど?」
アルフォートが疑問をぶつけると。
「いいや、なるのじゃ。他のモノにご飯を渡す、これは誘ってるも同然なのじゃ、いかがわしい!」
「ちょ、マテ、その発言を周りを考えずに発言する方がややこしい!
人間の生活にはその意味はない!」
「そうじゃったか、すまぬ」
道の往来で目立ってしまう彼女たち。
言葉で振り向き、そして彼女の尻尾で二度目の振り向きをしてくる。
勘弁して欲しい。
ワイバーンですら、血肉残すところなく、価値がある。全部が全部、食べられたりするのにと考えてしまうのは、アルフォートが料理人の息子だったからだろう。
「さておき、今日の宿はどうするのじゃ?」
「知り合いの店に行きますよ、そこが間違いないですからね」
っと、アルフォートが入り慣れた扉を開ける。
ここは【水たる猫亭】、いわれは良く判らないが、猫が何処にでも侵入してしまうことから言われているらしい。実際にはこの宿に猫はどこにもおらず、ワーキャットの従業員がいるのがウリだ。
「いらっしゃいませー! ってアルフォート、久しぶりだにゃ!」
「お久しぶりです、ミーアさん」
っと口癖の強い猫耳店員と仲良くするアルフォートにステアがやきもちを焼くように、彼と繋ぐ手を少しだけ強めた。
「いててて、ステア?」
「ステア、悪くないもん」
怒られそうになると感じたステアは反対方向に向いて、誤魔化す。しかし、アルフォートに頬っぺたを抑えられ、身体をかがめて目線を合わせてこられると流石にドキッとしてしまう。
「ステア。君との婚約したことは忘れて無いし、忘れるつもりもない。半ば強制だったけど、一度誓ったことだ。それだけは間違えないで欲しい」
「アルフォート……」
不意打ちのようにそのまま抱き着かれたステアは身体を委ねながら、抱き返す。
しかし、力が強かったのか、
「いてててて、ステアステア、いたいから!」
「ごめんなさい」
「いや、いい、今後、力の加減は覚えて行けばいいのだから」
そうアルフォートが笑みを浮かべてくれると、ステアの心が軽くなる。
なるほど、人間と言うのはドラゴンと比べて大分力が弱いのだな、っとも学習した。
「そちらのラブラブの娘はだれにゃ?」
「ステア、ワイバーンの人化した姿で僕のフィアンセです」
「フィアンセ……?」
っと、ステアとアルフォートを見比べる店員。
「えっと、ロリコン? 警備隊に連絡した方が良い?」
語尾が真面目になったので、ヤバいと感じたアルフォートは、首を横に振って、
「僕たちは真面目に関係を気づいていく予定ですので、要りません。それに彼女の方が年上です」
「そうなのかー。ステアちゃん、もしこのロリコンに何かされたらいうにゃ。成敗してやるにゃ」
「大丈夫、ステアの方が強いのじゃ」
っとステアがえへんと無い胸を張る。
確かにワイバーンと言えば上級モンスターだ、中級でしかない冒険者のアルフォートに何かされるわけも無いかと、店員は思う。
同意なら同意で良い訳だし。
「ミーアさん、キッチン借りるよ」
「喜んでー! 私の分の夜食もよろしくにゃー!」
ミーアと呼ばれた人属の店員はそういうと、他の客が入ってきたのでにちょっかい……声をかけに行く。そういう性格の魔人なのだ、彼女は。
「ミーアはよい人なのじゃな?」
「さぁ、僕にとって大変良くしてくれた人なのは確かだし、少なくともここの店が評判が良いのは彼女のお陰だろう」
ステアにそう言いながら、キッチンにつく。
今回のダンジョンで取れたオークの肉を空間収納からアルフォートが取り出すとミーアが涎を垂らす。
「美味しそうじゃ」
「このままでは食べないよ……人間は。食中毒とか怖いからね」
そう言いながら手慣れた手つきで、空間収納から取り出した卵を溶き、パン粉をさらに敷き詰める。
そして、人間一人分ずつにオーク肉を切り、それらを交互に二回ずつ叩いていく。そしてフォークで穴をつけていき、塩コショウ。
溶き卵にくぐらせて、パン粉をつける。
最後に、それを加熱した油にくぐらせて、浮かび始めたら完成だ。
「ほら、ステア、食べて観て」
「うん、頂くのじゃ」
一口大に切り分けられた肉に塩かけたモノがステアにアルフォートから、差し出される。
「ぬぬぬん」
「どうだ?」
「美味しいのじゃ、今まで食べたどのオーク肉よりも美味しいのじゃ?! お主、本当に料理が上手いのじゃな⁈」
「あはは、よかった。大抵は人間の味付けで大丈夫みたいだね?」
そう安堵の息を零すアルフォートにステアが眼をキラキラとさせる。
「人間の料理は、ママ様とたまに食べに出てきたのじゃ。だけど、ここまで美味しいのは初めてじゃ」
「それは過大評価すぎる気もするけど」
と、親父に何度も何度も料理を出して教育された記憶を思い出すアルフォートは少し苦い顔をする。一度だって、息子扱いされたことがない。ただただ、次男坊として料理をサポートするだけの機械として扱われていただけだ。好意に飢えているのはそう言った背景が有ったりする。
「さてもう一工夫っと……」
パンを取り出し、切り、野菜と一緒にサンドする。これで終わりだ。オーク肉のサンドイッチというところであろう。銀貨十枚分するソースの瓶を空間収納から取り出し、味付けも完了する。
「明日受付さんに持っていく分とかも作らないとな……ちなみにステアはどれくらい食べるんだ」
っと、もう一つと仕上げながら聞くアルフォートに対して、クエッションマークのドラゴン娘。
「? 別にドラゴンは食べなくても生きていけるぞい? 空中からマナを摂取できるからのう」
実際、そうだ。空中や地中からマナを取り出せばいいという魔物はたくさん存在する。例えば、トレント(木の魔獣)なんかは、空中と地中からマナを取り出し実を成らすことはよく知られている。
「なら、普通の一人前を用意すればいいんだな」
「汝、聞いておったか?」
「ちゃんと食事をするのが人間なんだ、人間社会に送り出したステアママの思惑を考えるにそういうのもきっちりした方がいいと思うんだが?」
ぐっと、ステアが言い負かされたと、何も言えなくなる。
「それにだ、僕の料理を美味しい美味しいって食べてくれる人が一人でも多い方がいいしね。ステアは僕の料理、好きでしょ?」
「うん、なのじゃ」
アルフォートが笑みになる。それにつられるようにステアも嬉しそうに笑みを浮かべる。
「なら、キチンとこれからも用意するからちゃんと食べてくれるかい?」
「判ったのじゃ、約束なのじゃ」
と、約束を交わす二人は微笑ましい。
「さて、頂きますしようか」
二つ分のお皿を用意し、彼らはテーブルに座るが、
「ママも言っておったが、頂きますとは何の意味があるのじゃ?」
「食物になったモノや料理をしてくれた人に感謝を述べる意味があるんだ」
そう説明が必要になる。
キューっとドラゴン娘のお腹が鳴るので、
「見るでない!」
「はは、何だかんだ、食べたいって思ってくれてることが良く判ってよかったよ」
彼女は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにし、彼は笑みを零す。
ステアは何だかんだ、普通の女の子と同じなのだ。少なくとも人化している今は。
「「いただきます」」
そう、二人で食しはじめる。
量としては、男性であるアルフォートと同じ分だったが、少女はペロリと平らげてしまう。流石、ドラゴンという所であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます