第2話 そもそもの起こりは。

「「「「「「ど、どらごんだー!」」」」」」


 彼等六人は、中級ダンジョンに何らかしらの変化があるとのことで、調査を依頼された。金貨二十枚という、大仕事だ。

 アルフォートがゴブリンの耳の煮込みという皆から少し不評な食事を用意し終わった際に、二匹の赤いドラゴンに出会った。

 一匹は大きく僕らの十倍、一匹はそれよりも小さいがそれでも僕等の身長の二倍はあった。小さい方は興味深そうにこちらを見つめ、大きい方は何事も起こっていないとどしりと構えている。


「逃げるか……」

「あぁ……」


 ジワリジワリと後ろに後退していく全員。

 小さい方がこちらにネズミに興味をもった猫のように動こうとしている。

 ヤバい。

 しかし、アルフォートは一瞬の判断が遅れた。

 何故ならば、その子供のドラゴンがとても可愛らしく見えたからだ。

 そう思った瞬間、アルフォートの足が蹴られた。当然、集中している際の仲間からの不意打ちだ、ガクリと足をとられ倒れてしまう。

 狙いは定まったとばかりに小さいドラゴンが彼に襲い掛かってくる。

 そしてあとの五人はこれ幸いと逃げ出していく。

 四肢を抑えられ、もう逃げれ無い状態になり、もうどうにでもしてくれという境地にアルフォートが至った時、


「くんくんくんくん。この人、いい匂いがするぞい」


 と、小さなドラゴンが威厳のある声で喋った。

 そしてアルフォートの頬を舐める様にし、頬ずりをしてくる。

 人知を理解するドラゴンが居たとは夢物語として知っていたが、本当に存在するとは……。


「んむ? 取って食おうとしていたが、ちょっとステータスを見せてもらうぞい」


 大きな方のドラゴンがそう喋りながら、僕の瞳の中を観てくる。

 じろりとみられる赤目が大きくて怖い。


「ふむ……なるほどのう。お主、名前を何という? 後、歳じゃ」

「あ、アルフォート・パワーフィールド、十六歳です!」

「パワーフィールド……パワーフィールド……。聞いたことは無いが、我らと共に在れる貴重な血筋が入っておるようじゃな」


 パワーフィールド性は親父が婿養子に入った際に変えたとか言ってた気がするが、今はそんなことに思考を回している余裕などないアルフォートである。


「私、この人、気に入った!」

「ふむ……娘がそう言うか……それならば、アルフォートやら、ドラゴンとの結婚に興味はないかい?」


 と切り出された。

 それがこの物語の始まりだ。


「ぇっと、拒否権は……」

「ダメなら、仕方ないけど、お前を食べるのじゃ」

「はい、興味あります、興味!」 


 と脅され、即答してしまう自身が情けないとアルフォートは自覚する。

 とはいえ、同時に好意には違いないことで、場違いながらも嬉しくなってしまうアルフォートが居る。

 小さなドラゴンの姿に見惚れていたというのもあるが。


「娘よ、先ず放してやれ」

「はい、ママ様」

「先ずは、腹ごしらえといこう。そこの料理を作ったのはお前か?」


 っと、置いてけぼりにされた食事を指す大きいドラゴン。


「はい、そうです」

 

 そもそもアルフォートの役目は主に料理番と荷物持ち(空間収納スキルがあるため)である。

 レンジャー技能といっても天然ダンジョンで罠がある訳でも無いここでは活用のしがいがない。弓の扱いが上手くても狭い空間では取り扱いがしにくい。

 ただただ、ネズミやら兎の肉やらゴブリンを上手く捌けて、料理スキルを活かして美味しく頂けるだけと思われやすいのが料理人だ。

 なお、ゴブリンはどう調理してもくどみが残るからアルフォートは嫌いだ。親父であれば、ゴブリンであろうと国王に提出出来るような作品になるだろうが。

 そのゴブリンが今日の主材料だった。


「なるほど、我が娘の婿と迎えるかふさわしいか、味見させてもらおう」

「わーい、久しぶりの人間のご飯じゃよ!」


 と、そう言った瞬間、ドラゴンが消失し、二人の人間が現れた。

 一人は小さな女の子、六歳ぐらいであろうか、赤いという印象が第一に来た。瞳もツインテールにした髪の毛もドレスも全部が全部赤い。可愛い女の子であった。

 もう一人はたよやかな巨乳が象徴的な、高身長の女性だった。アルフォートと同じぐらいの身長をしており、赤い姿に白いドレスを身にまとっている美人であった。


「「頂きます」」


 と律儀に人間ぶったお辞儀をし、食べ始める。


「「う」」


 ヤバい、ゴブリンの耳の煮込みは仲間の中でも評判はそこそこしか取れていない。その反応をされた時、アルフォートは死を覚悟した。


「「うまい……」」


 と、ペロリと一杯を平らげると我先にと鍋の残りを食べていく二人。

 今まで感じていた緊張も、彼女らに感じていた神秘的な美少女感も全て、全てが吹き飛んでしまった。

 逃げるという思考すらもだ。


「よくもまぁ、ゴブリンをここまでうまく調理できるものだ、くどみがほぼない」

「同意じゃ、流石、我が婿殿じゃな」


 っと、自分のことのように偉そうにする小さい女の子。


「なら問題あるまい。ステータスカードを寄越しなさい」

「は、はい」


 大きな美女に言われるがままに、差し出す。


「なるほど、料理人レベル八。今ので納得したわ。確かにレベルに違わぬ旨い料理じゃった」

「あ、ありがとうございます」

「さて、儀式を行うとするかね。たちたまえ、アルフォート君」


 言われた瞬間、背中をビシッと立たせる彼。


「ふふ、そこまで身構えぬでもよい」

「はい」


 楽にしていいと言われてもだなぁっと、内心毒づきながら直立不動をアルフォートは続ける。

 そんな彼に左隣に小さな女の子が来て、手を繋いでくる。

 手の感触は、小さい、そして熱いであった。

 まるで子供のような手だなぁ、と場違いに感じているアルフォートである。

 とはいえ、彼女の顔は緊張した面持ちをしている。

 これから何が起こるのだろうか。


「汝、アルフォート。我が娘、ステアの婚約者として認める。あと十年後、ステアが五百歳の誕生日の時には結婚をすることを誓わんとす。それを違えれば、双方に罰を与えることをドラゴンの神に誓わん」


 そう大きなドラゴンが叫ぶと、彼と小さいドラゴン……名前はステアであろう子から光を発していく。

 そしてステアから魔力の迸りを受け取る感じを覚えた。

 そして契約が成ったのか。

 落ち着き、今までのことが無かったかのようにシーンと静まり返る。


「よし、これでお前は我が娘の婿殿じゃ。とは言っても十年は大人にならんから、ほどほどにしておきたまえよ?」

「ママ様、人間の大人の姿はとれるけど……」

「ダメじゃ、お前は人間の世界で生きていくことになる。十年、つまり、人間の成人である十六歳まではその姿を取ることを禁じる。徐々に大人になっていくことを覚えよ」

「はい……ママ様」


 と不満そうに言う、ステア。

 アルフォートとしてはなんで人間と性交渉が出来る前提で話が進んでいるんでしょうね? という突っ込みは昔の英雄譚、それこそ公国をおこした人物談にもあるので放棄していたが。


「アルフォートや、突然の申し込みで済まぬが、娘を頼む。ドラゴン属には人間と結婚することが必要になることもあるのじゃ」

「あ……はい」


 っと、良く判らないが彼は応える。


「不出来な娘でもある。人間としてうまくやっていけることを教えてやってくれ。多少なりとも人間での生活は慣らしてあるが故、そこまで苦労せぬとは思うがのう……」

「はい、判りました」


 つまり、僕に子守りをしろということだろうか。

 四百九十歳というからに、僕よりも相当年上な気もするが。


「ステータスカードは偽造しておいた。万一にステアのことを聞かれたらワイバーンの人化と応えるのじゃぞ、よいな?」

「判りました。ドラゴンといっても信用されないと思いますが」


 との疑問には、ステアママが首を振りながら、


「ドラゴンはとにかく狙われやすい、それは何故か判るな?」

「肉から血まで何かしらに用途があるからですね?」


 ちなみにドラゴン料理は一度、アルフォートは親父の手伝いで作ったことがある。本当に捨てる所が無い素晴らしい食材だと、親父が感動していたのを思い出す。

 彼も味見をほんの欠片を味見させて貰ったが、物凄く美味しかった思い出がある。


「今、背中がゾクリとしたのじゃ……」


 っと不安そうにステアがアルフォートの顔を観てくる。

 一言で言おう、可愛い。

 赤い眼、赤いツインテエールの髪、赤いドレスを身にまとった少女はまるで、炎のようないで立ちを現し、その頬はほんのり朱にそまっている。

 そして顔のいでたちが、とても整っており、まるで人形のようだとも感じる。


「ステアは可愛いなぁ……」

「な?!」


 と、アルフォートの思考から言葉が漏れてしまった言葉にステアが頬を真っ赤にする。

 よもやそんなことを言われるとは思いもしなかったのだろう。

 強制的な結婚だ、不満の一つや二つ、言われるモノと覚悟していた節があった。そんな相手からそんな言葉が飛び出したのだ、それは驚くであろう。


「ふふ、よきかなよきかな。さて、我もここから出るとするか、アルフォート殿、くれぐれも娘の事を頼みましたよ?」


 と大きなドラゴンの姿になり、飛び立っていくママドラゴンであった。

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