見捨てられた俺が幼女ドラゴンと婚約者になった件~ここから始まる料理スキルとドラゴンライダーの快進撃~

雪鰻

ステアとの出会いと覚悟

第1話 ドラゴンとシティアドベンチャー。

「アルフォート、アルフォート」


 っと、青年の前を歩く赤い髪をツインテールにした彼女が、そう金髪の彼の名前を呼んでくる。

 彼女が彼に振り向くと、赤いルビーをはめ込んだ様な眼や八重歯が目立つ。活発な六歳児という感じだ。


「街というのは騒がしいのう」


 っと、彼女の言葉は少女そのものの声色だ。しかし、老婆の様に歳をとった感じの話し方だ。年季がある、言葉に力があるともいうのであろうか?


「これくらい普通だよ。けれども、正体はバレないように」


 っと冒険者であるアルフォート・パワーフィールドは、彼女に冒険者グローブをした手で彼女の手を掴みながら忠告する。


「わかっておるのじゃ、アルフォート! 我はドラゴンじゃなくて、ワイバーンの少女、ステア・ドラゴニアなのじゃ」


 そう自信満々に無い胸を張りながら言うので、本当に分かっているのだろうかと疑問が浮かぶ。そう、この六歳児にしか見えない少女は、四百九十歳のドラゴンが人化した姿なのである。

 対して彼と言われるアルフォートは金髪をスッキリ切った感じの普通の好青年と言う風貌だ。年相応以上に筋肉は発達している。しかし、どこか弱々しい印象を受けるのは彼自身に自信が現れて無いからだろう。


「ステア、ドラゴンという単語も禁止で」

「はーいなのじゃ」


 っと、アルフォートの言葉に素直なのはいい傾向なのだろう、彼が笑みを零した。


「なんせ、婚約者の言う事じゃ、聞かねばならぬ」


 そう、彼と彼女の関係は婚約者という事になっている。

 しかしアルフォートはせめて、六歳児の姿ではなく、人間である成人の十六歳の姿を取って欲しいとは思う。しかし、ドラゴンで言う成人が五百歳とのことで、十歳差し引いて、日々少しずつ姿を進化させろと、彼女の母親の命令があってのことだ仕方ない。


「とはいえ、とはいえ、羽も出せぬ、尻尾も出せぬとは不便だのう」

「尻尾だけなら、リザードマンが居るので問題ないかと思うよ?」

「汝、我をトカゲと一緒と申すか⁈」


 激高したステアがアルフォートの手を握りつぶさんばかりに力を入れてくるので、彼は痛みを覚える。

 とはいえ、ドラゴンの彼女の力からしたらほんの少し力を入れただけだろう。


「そうは言ってないからね?」

「そうか、すまぬ」


 っと、彼女は尻尾だけを出す。

 過去の伝説では龍の一部が、リザードマンに分化したというのでそう遠くもないと思う彼が居るのは内緒だ。こんな思考がバレたら、彼女に怒られてしまう。


「とりあえず、今日は……ギルドによって報告して、宿屋かなぁ」

「宿屋?! あの、ふかふかの布団があるという?!」


 宿屋で興奮し、眼がキラキラしてくる彼女が可愛い。

 正直に言おう、彼女が人化した姿は美少女だ。白色の肌といい、艶のイイ赤色の髪といい、誰が見ても可愛い美少女なのだ。


「そうそう。よく知ってるな」

「ママ様が教えてくれたのじゃ。昔、人間と過ごしたことがあるからのう、ママ様も」


 ママ様というのは、ステアの母親のことだ。ダンジョンで出会ったドラゴンの一匹で、人化した姿は、あらあら口調の似合いそうな巨乳美人であった。


「なんぞ? 鼻の下なぞ、伸ばしおってからに」


 ステアの手の力が強くなるので、


「ステアは可愛いなぁ、って」

「⁈」


 その言い訳をした瞬間、アルフォートの視点が回った。投げ飛ばされたのだと気付いたのは、少し後、地面に背中を叩きつけられた痛みが出てからだ。


「お主は、ほんに、嬉しいことを言ってくれる……!」

「はは、痛いから嬉しい時とか動転した時は、投げないでくれると助かる」


 アルフォートが痛みをこらえながら起き上がると、街の皆から視線が集まっているのが判る。

 なので、あはははと、彼は誤魔化し笑いをしながら、冒険者ギルドに向かうのであった。


「よく生きて帰ってこられましたね、本当はドラゴンなんて居なかったってオチですか?」


 ギルドの受付、仕事出来る風貌の金髪お姉さんに先ずそう言われる。


「貴方がしんがりをつとめて、仲間を逃がしたと報告が上がってきてました。ドラゴンで無くてもあと三日で死亡扱いには代わりありませんでしたが」


 アルフォートはひどい扱いに眩暈がした。

 そもそもにダンジョンに挑んだ先にドラゴンが居たのは間違いない。

 だが、仲間は皆、我先にとアルフォートを生贄に皆逃げてしまったというのが正確な所だ。


「ドラゴンではなく、親子の高レベルなワイバーンでした。喋れる」

「我はワイバーンでは……いや、ワイバーンなのじゃ!」


 今時点ではステアに黙っていて欲しいアルフォートである。話がややこしくなる。


「しかも、このように人化の術が使えるという」

「あぁ、なるほど……って、なんで連れ帰ってきてるんですか⁈」


 金髪の女性が悲鳴をあげる、そうすると周りの腕っぷし達がどうしたどうしたと目線をこちらに向けてくる。


「契約したんです。従魔契約」

「あぁ、なるほど……よく、その才能が無いのに出来ましたね? 一応、ステータスは確認いたしますね?」


 っとアルフォートは冒険者カードを要求されるので渡す。


「従魔契約を確認しました。ワイバーンというのも嘘偽りないですね」


 ステアママの偽装は見抜かれなかったようだ。


「ちなみにお名前は?」

「ステアじゃ!」


 っと、えっへんと無い胸を張る六歳児。


「今回は特別に、そう特別に、我が気に入ってこやつと婚約することにしたのじゃ!」


 っと、そう言いながら、アルフォートの手をにじり登ってきて、頬をスリスリしてくるステア。


「なるほど、親子の子を引き取ったと……そういう例も珍しいことではありますが、意思が通じて、人化出来れば無いこともありませんしね。実際、実例が幾つか、例えば五百年ほど昔にあったり、そもそも建国神話にもドラゴンとツガイになったという話もありますし」


 おそらく、五百年ほどの前のはステアママの可能性があるなと思いついたのはアルフォートだ。ステアの年齢と一致する。ということは、ステアは人間とのハーフドラゴンなのだろうか? と、ふと疑問が浮かぶがステアママのみぞ知るだろう。


「そうしましたら、ちゃんと飼いならす……というのは語弊がありますね。ちゃんとお嫁さん扱いしてあげてくださいね? 小さいからって虐めたらメッですよ!」


 っと、釘を刺されるのでどきりとするアルフォート。

 十六歳にして、今まで彼女と言うモノが居なかったので、いきなり婚約者と言われてもどうしたものかと悩みが尽きないからだ。


「あと、見捨てた……というか、組んでいたパーティ……キャジさん達の処遇は何か欲しいですか?」

「依頼自体は達成していたので、自分の取り分をよこせと言っておいてください。後、もうパーティーを組むのは御免ですとも」

「わかりました。あなたの取り分については一応、死亡確認が取れるまでは担保しておきましたのでお支払いします」


 っと渡される、金貨三枚、銀コイン三十三枚と銅コイン三十三枚。二十金貨の依頼で六人パーティだったので、等分(端数はともかく)としては間違いない。これでしばらくの間、彼は生活できる。ちなみに銅コイン十枚でガラスボトルの水が買える程度の価値だ。それで銅コイン百枚で銀コイン一枚となる。


「そういえば、あまり見慣れない職業が追加されていたので、それを極めていくのも良いかもしれません」

「ドラゴンライダーですか?」


 アルフォートがステアと婚姻の契約をしたら、出てきた職業だ。


「一応、ワイバーンも竜種扱いなので、それでついたモノかと思います。普通は騎乗スキル(空中、鳥、竜)とかになるんですが、何故ですかね?」

「婚約だからでは?」

「うーん。そうかもしれませんね。上手くいけば、王国からスカウトなんてことも……あるかもしれませんね? 空中に対応できる騎乗スキルは成り手がすくないんで」


 実はドラゴンライダーという職業はアルフォートも初めて見たモノだ。父親に厨房や接客で働かせられてた時、他人の冒険者カードを観る機会は頻繁にあったのだが、それでもこのジョブは見覚えがない。


「ちなみにどんな職業なんですか?」

「恐らく、騎乗スキルに何かしらのユニークスキルが追加されている感じですかね」

「ユニークスキルですか……」


 アルフォートは思いつかない。


「それでも……ほら、王様達の護衛に出てくる空を飛んでる……ペガサスとか、鳥とか、色々いますが、ドラゴンは珍しいので使いこなせば強力な戦力として見なされるでしょう。ギルドとしても、貴方に期待の評価をあげたところです。なんせ空中を飛べること自体がレアですからね」

「それは稼げそうな話ですね」

「そうですね、運送屋としてだけでも十分に賃金を取れるかと」


 アルフォートの前に夢が広がってきた。

 そう彼の夢は、コックではなく落ちぶれたお家の再興だ。

 元々は貴族だったらしいが、先々々代が病をした時に領地を売り飛ばし、高いお金で薬を買ったらしい。今では、日々の食うのもやっとというところで、料理人スキルが八と、レンジャースキルが五である。

 なお、この世界では十レベルが最大であり、修練度が上がれば冒険者カードに適応され、技やスキルにブーストがかかる仕様だ。


「しかし、常々疑問に思ってましたが料理人スキル八なら、普通に宮廷に雇われるレベルですよ?」


 と、普通の疑問をされる。


「そういえば、話てませんでしたっけ」


 仲のいい受付さんではあるが、プライベートをあまり詮索しないのがギルドの方針だ。


「これは親父が料理人だったから昔から仕込まれてただけで……あがらない料理人レベルが嫌で逃げ出してきたのもあるし、次男なので家を継げないというのもありましたので」

「あー……長年の謎が解けました。ありがとうございます」


 なお、そのおかげでアルフォートは今回、ドラゴンに会った際に助かったし、求婚されることになったのだが。芸は身を守るとは良く言ったものだ。


「しかし、前パーティー組んでいたキャジさんたちは可愛そうに」


 と金髪の受付嬢が付け加える。


「もう、レベル八の食事にありつけないなんて……ここの街での最大レベルですよ……他は最大で五とかですし……今度も何か差し入れて下さい」

「判りました。簡単なモノでよければ、今日の取り分確保していただいた件のお礼におつくりします」

「わぁ、ありがとうございます♪」


 っと受付嬢の顔が、笑顔になる。

 うん、いつもはピッチリしている人がこういう甘い顔をするというのはギャップ萌えするっとアルフォートが思うと、


「いたたたた」


 そう彼が考えていたことを察してか、それを気に喰わなかったステアが彼の頬に噛り付いていた。

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