ステアと王都へ

第6話 ギルドと依頼。

「すみません、受付さん。昨日は戻ってこれなくて」


 アルフォートが、その代わりと言っては何だとばかしにオーク肉のカツサンドを渡す。すると、受付さんは嬉しそうに顔を綻ばして、


「いえいえ、大丈夫です。

 今日丁度に配達の依頼が出来たので、昨日だったら逆にレンジャーの仕事を頼んでいたかもしれません」


 そう告げてくれるので、安心だ。


「そういえば、キャジさん達を観ました?」


 そう白々しくアルフォートは周りを見渡しつつ、受付さんに問いかける。

 アリバイ作りのためだ。よもやアルフォートと隣にいるステアの中に冒険者カードとその遺骨が入ってるとは受付さんには勘づかれまいとの考えもある。

 ちなみに既に消化済みらしい。


「いいえ、見ませんでしたね。いつもならそろそろ依頼を取りに来るはずなんですが……」


 受付さんも見渡しながら言う。いかつい連中はたくさんいるが、キャジたちの姿は当然にない。


「もし見掛けたら、今度僕に話しかけたら通報しますねって伝えておいてください」

「はい、念入りに言っておきます……って何かあったんですか?」


 そういぶかしむ受付さんに対して、アルフォートは肩をすくめる動作をして、


「ステアを迎えに戻る途中にキャジさんに街で捕まりまして、因縁をつけられて、警告されたんです。ギルドに頼るんじゃねぇって」

「うーん、なるほど。

 ギルドとしてはちゃんと承っておき、次に何かあったら冒険者カード剥奪ならびに、労働刑に処すように対応しますんで安心しておいてください」

「はい、ありがとうございます」


 これで何があっても安全だ。

 ただの被害者であり、加害者ではないのだと証明できる。後で万が一があったとしてもモンスターや盗賊の仕業となるだろう、そうアルフォートは安心した。


「仕事とは何なのじゃ?」

「金貨を得るための作業だよ、僕等冒険者はそれを生業にしてるんだ。いわゆる、何でも屋という奴だ」

「確かにママ様も、お金や財宝を貯めこんで居った時期があったのじゃ。重要なんじゃな、お金とは」


 ステアの質問に、背を屈め視線を合わせて丁寧に答えるアルフォート。まるで子供に対する親のようだと思ったのは受付さんだけでは無く、今ギルドにいる全員が思った。微笑ましい。


「ちなみにステアちゃん、どれくらいの荷物を運べるんですか?」

「ぇっとじゃな、ドラゴンに戻るではなく……ワイバーンに化ける時には牛一頭が限界じゃ」

「……今、私は何も聞かなかったことにしますね? 色々めんどくさそうですし」


 と、受付さんがアルフォートを疑うような眼でジロリと観てくる。

 そもそもキャジの報告ではドラゴンが出たという報告だった筈だ。それを修正したのがアルフォート。


「今度、またカツサンドを持ってきます、飲み物もつけて」

「いいんですか⁈ いつもいつも嬉しいです♪」


 つまり今のを聞いた受付さんには完全にバレた。このようなステアの迂闊さは、教育で直していいく方針を固めていくしかないなと内心で溜息をつく彼であった。


「牛一頭、十分な量を運べますね……と言っても、食材やアイテムであれば空間収納出来るアルフォート君もいますし、生物を運ぶことはほぼ無いでしょう、今回の依頼も封書の送りの依頼なのでそこまでは必要ないんですし」


 と、依頼書を見せてくる。

 王都のギルドに封書を届けて欲しい、三日以内。

 割と無茶苦茶な依頼であった。

 普通に徒歩で行くと五日かかる。

 馬でようやく三日でつくかどうかだ。


「その分、報酬が高いですね。金貨六枚」

「そりゃそうですよ。普通は出来ない依頼ですし」

「われなら一日で飛んで見せようぞ!」


 自信満々にそう無い胸を張るステアは可愛い。

 いつも通りの赤い綺麗な髪の毛も、整ったドレスも彼女が昨日のことでダメージを回復しきったことをちゃんと示している。

 いかんせん、ドレスは鱗が変形した姿とだからだ。


「ついでに王都の場所は判っているのか? ステア」

「人が一杯一杯、居る所なのじゃ。ママ様と何度も行ったことがあるのだ」

「確かに人化している連中は王都に何人もいるよなぁ……」


 とアルフォート自身が思い返す。

 マーマンと呼ばれる魚介の化け人だったり、鳥人……バードマンだったりと、リザードマンだったりといった種族は割と王都に多い。魔人と呼ばれる、理性的なモンスターも魔属領から出稼ぎに来ることもある。

 これらは公国がそれらの人々を差別せずに人として扱っているのが大きいからだ。

 そのため、アルフォートとステアの婚約についても、受付さん自体が納得しやすかったという背景がある。


「アルフォートは王都に行ったことがあるのじゃ?」

「あぁ、僕は王都産まれだからね」

「エリート、エリートなのじゃ!」


 そう騒ぎ立てるステアに皆がやはり微笑ましい眼で見てきてくれる。なんというか、こういう娘がここに居ること自体が稀で、自分の子供を観ているような気分になるからだ。


「僕はエリートなんかじゃない、実際、親父には失望させられてばっかしだったし」

「なんて父親じゃ! とはいえ、わ……ワイバーンも父親は子と母親を置いてどこかへ行ってしまうのじゃがな!」


 なんともな話である。

 そんな話を聞いてた周りの人達が、ジュース飲むかいとか、ポテト食べるかいとか、ステアに声を掛けてくれる。


「アルフォート?」

「好意は受け取っておくと良いよ」


 昨日の件で勝手をしたステアがおずおずと、周りの好意にどう反応すればと聞いてくる。それに対して笑顔でアルフォートは応える。


「嬢ちゃんも不憫なんだなぁ」

「俺も俺も、父ちゃん死んじまってなぁ」

「俺なんて母親も父親の顔しらねぇ!」


 と、始まるのは不幸自慢大会だ。

 冒険者というモノは、一歩間違えればナラズモノの集まりである。というか、ナラズモノを集めて何とか雇用に結びつけようと各国が共同して作った機関でもあるのが冒険者ギルドだ。

 大抵は戦争孤児や犯罪の被害者だったり、行く所が無くなったものが最終的に辿り着くセーフティガードとしての目的が有ったりする。

 そうでなければ、今よりずっと人は暴虐や強姦にはしり、もっと魔物の台頭を許していたかもしれないとはよく言われる話である。

 確かに一攫千金を狙うアルフォートのような冒険者のタイプもいるが、稀である。


「はいはい、皆さん、皆さんが不幸なのは存じ上げておりますからステアちゃんから離れて下さい。ビールを一杯ずつおだししますので」

「受付さん、さいこー!」「さすが、俺らの姉さんだぜ !」「一生、ついていきます!」


 と半混乱状態になった場を納めてくれる。

 そして彼らはビールを受け取ると朝から飲み始め、自分たちは自分たちはと各々のテーブルで愚痴を語り始める。

 お互いに判るからこそ、パーティになった連中も多くいるので、効果的な手段だ。


「金貨一枚で許してあげます」

「アハハハハ、はい」


 ビール一杯で五銀貨、二十人分で勘弁してくれたのは有り難い話である。

 全員いれれば六十人以上いる状況だからだ。

 懐は痛むモノのこんな状況を作り出した自身が悪いと、ステアに許可をだしたアルフォートは自覚しているので文句は言わない。


「で、先ほどの依頼、お受けしますか?」

「王都のギルドだけ、よればいいんですね?」


 と、念を押して確かめるアルファート。


「えぇ、実家に戻ってきてくださいなどとはいいませんし、料理レベルを九にしてきてくださいという無茶な要求ではありません」

「なら、是非させてください」

「じゃぁ、ここに署名を……確認しました。これがその書状になりますので、よろしくお願いいたします」


 と、ギルドマークの蝋で封がされた封筒を渡されたのであった。

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