第6話 騎士


「あん、だめ、ケント、そんな」

「ミーシャさん?ハイヒールかけてるだけでしょ?」

 あれから毎日ハイヒールをかけ、傷の様子をみているが、もう完璧に治ってるはずなんだけどな。

「まだ違和感があるの!」

「ケントに会いたいだけでしょ?」

「そ、そんなことないわ」

 顔をぷくぅと膨らまして抗議するミーシャさんは可愛い。

「ほら、ケントもなんか言ってやりなよ!」

「別に怪我が治ってもいつでも会いに来てくれていいんで」

「ほんと!治った!もう治った!ケント、デートに行こ!」

「はいダメー!ケントは私の彼氏ですからねー」

 耳を摘まれて外に出ていくミーシャさん。

「痛いたい!フレイヤが独り占めなんてずるい!」

「私もこの間から二人の時間が少なくて……あんたのせいでね!」

 部屋から放り出されるミーシャさん。

「もう、ケントも優し過ぎるのよ」

「ミーシャさんが庇ってくれなかったら怪我してたの僕だからね」

「そ、それは感謝してるけどさ」

 フレイヤは可愛いなぁ。


「フレイヤ」

「ケント」

 僕らがキスをする寸前、

“ドンドンドン”

「渡り人様はいらっしゃいますか?」


「はい!」

 フレイヤは膨れっ面だ。

「僕が渡り人のケントと言います」

 ドアを開けると、騎士の格好をした銀髪の女の人がいた。

「お初にお目にかかります。私、ソラーニャ・グランテスと言うものです。ソラとお呼びください」

 腰を降り膝をついて挨拶をしてくるソラさん。

「あ、立ってください。で?ソラさんは何故ここに?」

「この街で盗賊に襲われたと言う話を聞いて、陛下が大変ご心配をされていまして。出来れば王都までご一緒に来て頂きたく」

「えぇ!僕がですか?なんとか無事でしたので、大丈夫ですとお伝えください」

 王様なんかと話すことなんてないでしょ?

「そこをなんとか、なんでもケント様は魔導書がお好きとか?王都にはそれはもうたくさんの魔導書が」

「え?読めるんですか?」

「はい!王立図書館があります」


 半分くらい心を持っていかれたな。

「彼女も連れて行ってもいいですか?」

「彼女さんですか?」

「私がケントの彼女のフレイヤです」

 フレイヤが満面の笑みで登場。

「構いませんが、盗賊に攫われたのは貴女ですよね?」

「そうですが?」

「身の安全は保証しかねますので」

「えぇ、分かってます」

 ソラさんとフレイヤがバチバチしてる。これは行かない方が、

「ケント、行きましょう!私が絶対守ってみせるから」

「貴女に守れるとは到底思えませんが、私達騎士団が必ず無事に王都までお連れいたします」

「は、はい」

 怖ぇー。


「…と言うわけで二泊三日で王都に着く予定になっております」

「はい、わかりました」

 馬車の中には俺とフレイヤ、俺の前の席にソラさんがいて。馬車の周りを馬に乗った騎士が四人守りについている。

 どこのお偉いさんだよ。


「貴女は女として恥ずかしくないんですか?」

「なにがでしょう?この指輪が見えないんですか?私にケントが贈ってくれた物です。手ぐらい繋ぎますよ」

 そう、ずっと手を繋いだままなのだ。僕の手汗が気になるが、恋人繋ぎのままだ。

「本当に貴女は……」

「ふん!」


『団長!ライトニングベアが山側から降りてきてます』

「何!振り切れないのか?」

『無理そうです』

「では止まって迎撃する!」

 馬車が止まり、ソラさんが外に出ていく。

「フレイヤ!僕らも行こう!」

「うん!」

 僕らも後に続いて出ると、立ち上がった五メートルほどの熊のモンスターがソラさんたちと戦闘していた。

「ソラさん退いて!ストーンランス」

 ソラさんが合わせてくれたので熊の頭にストーンランスが命中し、倒れる。

「ケント様、何故出てきたのですか?」

「僕も役に立ちます。冒険者ですから」

「それでも」

「ケントに助けられたんだからいいじゃない!」

 またソラさんとフレイヤがバチバチしている。

「あ、アイテムボックスにいれますね」

 ライトニングベアをアイテムボックスに収納する。

「それでは先を急ぎましょう」

 驚いていたソラさんが馬車に僕達を乗せ、馬車に発進の合図を送る。

「それにしてもケント様の魔法は見事でしたね」

「そんなことないですよ」

「しかもアイテムボックス持ちとは恐れ入りました」

 ソラさんは褒めてくれるが、フレイヤの手に力が込められている。


「この街で一泊します。宿は一人部屋しか空いておりませんでしたので別れて下さいね」

「ほんとは二人部屋に居させたくないからでしょ?」

 ほんとに仲が悪いなぁ。

「フレイヤ、仕方ないよ」

「ケント、遊びに行くからね」


 その日は結局、フレイヤが来ることはなかった。

「なんなのよ!あの警備は?私は恋人なのよ?」

「何人もケント様の部屋には入っておりません」

「なんで私まで追い返すのよ!」

「何かあってからでは遅いのです。そこは理解してもらいたいですね」

「くっ!」

 今日も朝からフレイヤとソラさんのバトルは続いていた。

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