第11話 念願のランクアップ
—ピリンキ・冒険者ギルド1F—
「おめでとうございます!! …よりも先にお疲れ様でした。本当に、大変な依頼だったと思います! 皆さん無事に戻られて本当に良かったです」
俺とアイレアさんとリナリアさん、ついでに
「良き哉良き哉! 若人達よ」
「…」
「何だこの道化めいた怪人は?」
「こら、失礼だぞ! 此方の奇人はギルド創設者のお一人のウェルテクス道士様だ」
「はぁ…引退したい…」
白く派手な僧衣? を着た胡散臭い糸目の男からは何だか良い香りがする。何処の国や地域でも嗅いだことのないものだが、道士と呼ばれる彼自らが調合した香水でもつけているのだろうねえ。
(にしても、香りに造詣深い男ってのがね〜)
あの一挙手一投足が喧しい魔王を彷彿とさせる。カラーリングはむしろ真逆なのだが、俺と同じくらいの高身長にうざったい程長い白髪…と挙げれば枚挙に暇が無い程アイツと共通点がある。
「…どうしたのかね? 新人君」
「いや何、他人の空似ってのも中々面白いもんだと思いましてね〜」
「おネビュ、こんな奇怪な知り合いしかおらぬのか?」
「アイレアさんの辞書に慎みとか遠慮って言葉はないみたいだねえ…どうもすいませんね、ウチの魔王様が」
「カカカカカ!! 気にする事はないよ。拙僧自身面妖だと認識されている方が振る舞い易い。ぶっちゃけ、心地良い」
高笑いを浮かべる姿が本当に良くアイツに似ている。自分のそっくりさんが世界には3人いるなんて言われてますけど、世界にもう1人こんな奇天烈な存在がいると思うと何だか胃がキリキリする感じ。只の老いかもだけどねえ??
「ゴホン、兎も角! 諸君の活躍は大変に目覚ましい物であったと報告されているし、情報の乏しいモンスターの討伐と情報提供と素晴らしき戦果の数々…これらを考慮してだね?」
「なんと!! シエスタさんはBランクに、
リナリアさんも飛んでDからBランクに認定されました!! 本当におめでとうございます♪」
道士様とやらが愉快に笑い、スーテラさんが心底めでたそうに俺の背後の2人へと拍手を贈った。それを受けて周りの先輩から後輩までの冒険者達も各々のテーブルから拍手や様々な激励の言葉を贈った。
「おめでとさん!」
「2ランク昇格なんて凄えじゃねーかリナリア!! 今度飯奢れよな、ガハハハ!!」
「もうへっぽこ騎士なんて呼べないな〜」
「これからも頑張って〜!!」
「…早く登って来い。ここまで」
俺もリナリアさんへと拍手を贈る。
「おめでとう、リナリアさん」
「…ありがとう」
リナリアさんは感慨深そうに微笑んだ。素敵な笑顔に見惚れる間もなく、背後から後ろ髪を引っ張られた。
「私には!!! ヒゲマント!!」
「えぇ…はいはいおめでとうございます」
「もっと褒めそやして! 正気を失うくらい酔いしれさせて!!」
「もうやだ怖いこの子…」
帰りの道中では散々引退したいだの、もう冒険者なんてやってられないだのと俯いてバッド入ってたのに。今は真逆にテンションが高い…というかラリってらっしゃる??
「冒険者サイコー!!!! 酒よ、酒を樽で持って来なさい!!!」
何かに酔ってる祈祷師様は大声でギルド中に酒を要求し、ノリの良い輩達が彼女を囲む様に酒を持って集まって来た。
「よ、ピリンキ1の大祈祷師!!」
「いいぞーシエスタ!!」
「ほれ、ジャンジャン飲め呑め〜」
「…ゴクゴクッ…ゴクッ…ップハァ!! まだまだぁ!!」
ビールっぽい酒2リットル、祈祷師様は一気に煽った。あーあーあ…最悪な未来しか見えないが、まあいいか! 貸してる俺のマントもその辺の安物だし。
「やれやれだな」
「そうねえ」
リナリアさんは少し羨ましそうに呑んだくれ集団を眺めていた。
「それからネビュさんとアイレアさん!」
「ふ、漸くか」
「ようやくだねえ」
スーテラさんは皮袋を1つずつ俺とドヤ顔のアイレアに差し出した。
「ギルドからの追加報酬です!! 本当にありがとうございました」
「おぉ…結構あるな」
「ヒゲ、今日はステーキ食べても良いか!!」
「どうぞどうぞ」
魔眼を輝かせる魔王様にゴーサインを出すと、とっとと人のいないテーブルへと消えてしまった。
「やれやれ、1番大事な奴をまだ聞いていないというに…」
俺はスーテラさんの前に躍り出た。
「…」
「…」
スーテラさんの温かい笑顔を見ればわかる。
(リナリアさんと祈祷師ちゃんがランクアップしてるんだし、俺と魔王様も当然!)
「…」
「…」
スーテラさんの笑顔に段々と?が滲んでくる。あれ?
「…どうされました、ネビュさん?」
「…ランクアップの話、終わっちゃってる?」
「はい! 今回はリナリアさんとシエスタさんだけです…あ、今行きまーす! それではネビュさんもしっかり休んで英気を養って下さいね♪」
「………」
こ、こんな衝撃は生まれて初めてだ。流石に今回は上がったろうと思っていたのに…
「カカカカカ! 愉快な新人だね、君は」
「…アンタ程じゃねーですよ」
「カカカ! 少し話をしよう」
綺麗な鈴の音を杖から響かせて、ウェルテクスさんとやらはウチの魔王様の隣に腰掛けた。テーブルには既に5枚もの分厚い特大ステーキが並んでいた。
「何故そこまでランクに固執するのかは知らぬが、基本的にEランクからDランクに上がるまでは5年程度掛かるのが通例だよ」
「ご、5年ッッ…!?」
「なーに! 焦らずとも冒険者を続けていれば自ずと未知…もとい道は開かれようぞ? カカカカカ!」
…今回は世界、救えないかもです。
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