第10話 これは蘇生なのでセクハラではなくてですね?

—タビ村・北部—


 というわけで俺は今、ちびっ子どもに掛かった○臓とか脳○とか下半身とか上半身とかを粗方回収し終えたってわけ。回収中にチビ達には何度も「強いおじさん」と呼ばれたのだが、まだ20代なんだぜオレ…?? 背後でそこそこ命に別状あるやもしれんリナリアさんが気絶してるのを再確認してから、見覚えのある祈祷師ヒーラーの死体の布切れを全部引っぺがす。眠らせておいたちびっ子どもにも内緒だぞ?


「こっちが頭…でこっちが足で…何これ…まあ大丈夫か」

「中々手強かったな」

「お、魔王様じゃん…てちょっと生首投げてくんのヤメてよ〜、復活させちゃうじゃない」

「うわ、趣味悪」


無傷で魔力もさして消耗していないアイレアが投げた肉付きの良いプニプニの尚の事キモい生首が、奇跡的に並べていた全裸の人間の女の子の顔の部分に転がってきた。


「めっっっさキモイなあ」

「うん…このまま蘇らせたのなら、人間とプニプニ…何方として蘇るのだ?」

「え…多分、プニプニの顔をした人間の女の子になるんでないかと」

「…」

「ダメよ絶対?」


そんな悪の研究者みたいな悪趣味俺には出来んし、新米魔王様の好奇心も絶対に実行させない。早々にキモイ生首を蹴り飛ばし、懐から《蠢めく艶やかな肉塊アンティル・リビング》を取り出す。


「うえヤバ…キモ過ぎる…」

「そんな年相応の…って300歳越えか…若い娘みたいなキモがり方しないでおくんなませよ? 死者蘇生なんだし」

「それで…うわ…うわあ」

「やりづらいんですけどお」


と言いつつもウネウネと触手と毛の中間の何かが生えたウネウネする肉塊をグチャグチャの亡骸と混ぜて捏ね回していく。肉塊は凄まじい速度で死体と融合していき、引き裂かれた上と下からくっついていく。


「モザイクかけてもアウトかもしれんねぇ」

「ホント無理…私が死んでも絶対にこれだけはゴメンだ」

「ヘイヘイ〜」

「己が魂に誓えるか?」

「ヘイヘ…いや重すぎん?」


そんな『家族の仇を討つ為に全ての幸福を捨てて生きていけるか?』みたいなノリの話じゃないと思うんですけど。本気で嫌がる魔王様の表情は珍しく乙女モード全開であられた。

 暫く放置していたビクビクと震えたり脈動する『魔王様で隠さなきゃ!』状態な全裸の女の子の死体は、やがて潰された頭部や細かな損傷の全てを再現・・して見覚えのある情緒のバグった祈祷師の姉ちゃんの姿になった。


「右腕、私は村に生存者が残っていないか確認してくる。 …お楽しみの様だしな?」

「ちゃんと身体が正常に活動してるか確認してるだけですー」

「……そうか」

「?」


意味深な間を作ったアイレアさんは足早にかつて人々が暮らしていた残骸だけが残る・・・・・・・場所へ赴いていった。


「心臓…人間のじゃ無かった気がするけど動いてるね。呼吸は…」

「ん…」

「大丈夫そうだ」


祈祷師のモチモチの頬を軽く引っ叩く。


「おはようございまーす」

「ッッッタ!?!?」

「お疲れ様、ナイスファイト」

「ヒゲマント…」

「雑技団の人かなあ?」


冒険者になってから愉快な渾名ばかりが増えている気がするんですが、ちゃんと俺の名前覚えてる皆?


「ネビュってんだ、よろ…」

「きゃああああああ!? どこ触ってんのよ!!!!」

「あ、ごめんごめん」


心臓の動きを確認すべく鷲掴みにしていたおっぱいから手を離す。大きさはアイレアさんより上かなあ?


「ていうか何で私、生きてるの…?」

「いやあ〜、ギリギリ回復・・の魔法が間に合ったみたいでね! 命拾いしたじゃん」

「頭を握り潰された気がするけど…回復…?」


蘇生や復活というワードは下手に口にしない方がお互いの為だ。何より、方法は賛否両論有りけり…というか昔、肉塊を見た親族一同にヤバい宗教の人だと思われたりもしたしねえ。


「んま、取り敢えずあそこのリナリアさんを快復して上げて頂戴な? 今回のMVPだし」

「! リナリアさん!!」


全裸若年祈祷師はボロボロのリナリアさんを見つけると、猛ダッシュで彼女の元へと駆け寄った。地面には足跡がくっきり残りその回りは少し砕けている…こんなに近距離パワータイプな女の子だったっけ??


「《治癒の波動アキュアネス》!! リナリアさん!! リナリアさん!!」

「…祈祷師! 生きていたのか!!」

「リナリアさん…うわあああああん!!」

「おい今抱きつかれると…あれ、身体が軽い…?」


快復魔法を受けてピンピンになったリナリアさんは、抱き着いたまま泣きじゃくる祈祷師ちゃんを優しく宥めていた。


「なんか今ガールズの間に割って入ったら殺される気がする…暫く放っておこう」



—ピリンキ・冒険者ギルド1F—



「なるほど…彼が均衡の破壊者を…うむ、して若き魔眼の覚醒はまだであると…良き哉良き哉、実に良き哉! ハハハハハ、カカカカカ!!」

「あら、道士・・様! 今日もお元気そうですね」

「うむ…スーテラよ、お前様も息災のようだね。して、新しき冒険者の2人をどう思う?」

「…アイレアさんとネビュさんは…」

「うむ?」

「とても愉快な人達ですし、生命力に満ち溢れていると言いますか…不思議と生きて帰って来てくれる安心感があると思います!」

「強者と比較してみては?」

「AランクやBランクの方とですか?」

「うむ」

「まだまだ遥か遠くの境地に思いますけど、 いつかあの2人なら辿り着くと信じてますよ」

「…カカ」

「道士様?」

「カカカカカカカ!! ハハハハハ!!!」

「あら、またトマトソースが跳ねてますよ? 折角のお白い服が可哀想です!」

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