第3話 新米魔王の小娘

「ドンビキキノコの調達に、プニプニ3体の捕獲…長老の肩揉みまで!? なんてこったい」


これが、Eランクのクエスト…!?


「6つのちびっ子にでも安心して任せられる仕事ばっかじゃねえか」


変な話、お遣い・・・という表現の方が良く似合っている。大の大人が大真面目に取り組む様な仕事ではないね、こりゃ。


「はぁ…でも素寒貧だからねえ」


スーテラから買った瓶入りの炭酸飲料をひと仰ぎ。コイツぁ中々旨いな!!


「じーー」

「…ん、さっきのちっこいのか。どしたん? 話聞こうかー」

「邸宅を飛び出して来たまでは良かったが、手ぶらで来てしまったが故にこの2日何も食べていない」

「おぉ」

「空腹で死にそうという事だ」

「おぉ」

「…私を助けておけば、後に世界の半分を貴様に約束してやろう。名も知らぬ強者よ」

「! …お前さん、魔王か」

「!!! 分かるか!?」

「まーね…」


フードの下にチラリと見えた眼、魔眼だ。俺が斬り殺した魔王と同系統の宇宙を閉じ込めた様な美しい宝玉。《潜在能力可視化デラワー・カメラ》で改めて視るちっこい魔王の潜在能力は先代の魔王すら超越している。


「何故世界の力の均衡を担う筈の魔王が、こんなルーキーしかいない街で冒険者なんてやっている?」


潜在能力が凄まじければ、当然戦闘能力もそれに比例して高いのが基本だ。返答次第ではこの場で切り捨てるしかない。


「金がないからだ」

「金がない」

「冒険者になれば億万長者に直ぐなれるとブサイクな仮面の男も言っていた」

「あちゃー」


戦闘能力はともかく、オツムの方はどっこいダメそうだ。先代がとんだ切れ者だったんで偉く警戒しちまったが、その辺は放っておいてもよさそうで安心した。


「お前さん、ランクは?」

「聞いて驚け」

「おぉ!」

「最低のEランクだ」

「だわさなあ」

「どこの方言だ?」


魔王は基本的に魔眼を継承した存在の総称だ。世の人はいちいち魔眼なんてお伽噺・・・に出てくるような都市伝説について理解を深めようとは思わない。《鑑定オピニオン》か《審判ジャッジメント》を持つ者ならこのちっこいのの強大さを本当の意味で理解できるが、世界中に100人いれば良い方だ。勿論、こんな街にいるわけもない。


「お前さん達も不幸な運命を背負っているのな」

「御託も同情も要らん、今は夕餉こそが必要だ」

「…はぁ、しゃあなし」


そもそもこのちっこいのが魔王になったのは俺が先代の魔王を斬り殺したせいだ。魔王が死ねば、資質を持つ者に魔眼は引き継がれる。


「俺のせいでもあるわけですしねえ」

「…誰に話しているのだ?」

「気にしなさんな、好きなの頼みな」

「お前、私の側近にしてやろう!!」

「随分間抜けな魔王だな」


勇者を側近にする魔王なんて、とんだお笑い草だ。シェスタの闇神官長のヘンタイエルフに話したら丸一日はツボに入っていそうなほどにね。



「旨い! 人間達の料理は趣深いというのか、味が複雑で美味しい!!」

「絶妙に語彙力ないのな、お前さん」

「アイレア・イッラだ。陛下と呼ぶ事を許す」

「ヘイヘイ」


オムライスを頬張る新米魔王を眺めていると、ふと思う。


(奴とも…同じ卓を囲って飯を食って談笑して…なんて道があったのかねえ)


結果的には殺し合う運命だけが残った。タラレバな話を幾ら仮定しようと、結果が変わる事はない。


「私の前の魔王を殺した事に後悔があるのか?」

「…鋭いねえ」

「よしよし、気にするな。お前程度にやられた奴の自己責任だ、お前は悪くない」

「そいつぁドーモ」


アイレアは食べる手を止めて俺の頭を雑に撫で回して来た。金で彩られた黒い籠手がゾリゾリと頭皮に刺さるが、防御力のお陰でちょうどマッサージされてる程度の刺激に落ち着く。


「というわけで我が右腕、オヒゲマンよ」

「誰よ! ネビュだ」

「そうか、ではオネビュマン。心して聞け」

「…変わったセンスだねえ」


完食し、炭酸飲料を一気飲みしたアイレアは魔王のオーラを強めながら話を始めた。


「ほぼ全裸のヘンタイエルフの預言者が現れこう告げた。『星見の魔王よ、近い未来この世界に11の異世界転生者が召喚される。そして、その者達が世界を滅ぼす』とな」

「…マジすか」


ヘンタイエルフの預言者…間違いなく闇神官長だ。王国の外に出てまでお告げを与えたと言う事は本格的に世界の危機らしい。


「『11の異世界転生者』…どういう意味だ」

「ほかの世界のラスボスであると言っていた」

「ラスボス…?」

「それが世界に滅びを齎すというのであれば、力の均衡を維持する者として斃さねばなるまい」


この世界は本当に滅びの運命に愛されているらしい。


「メンドクセ〜」

「何!? 何故無気力な顔をする!?」


胸ぐらを掴んで譲られると、首がガクガクして何だか不快だね。


「ほら〜? 何とかの顔も3度までと申すでしょお? 4回目はねー、別料金といいますかねえ?」


無欲たれとは思っているが、それは何も飢えたり文字通りである事を指していない。素寒貧で宿さえ選ぶ余地がない窮状を誰が好き好むだろうか。


「私と共に来るのであれば、貴様の望みを私が叶えてやろう」

「ほーん」

「何が望みだ?」

「ハーレム」

「…はーれむ? 食べ物か料理か?」


ちっこい魔王様には早すぎたかねえ。


「女の子に囲まれてキャッキャウフフしてイチャコララブリーに暮らしたいって事よ」

「ほぉ、放蕩淫乱が望みか。よかろう」

「悪意を感じなくもない言い方だけど、良いの?」

「世界を救うのだぞ? それくらいの褒賞は当然であろう」

「ですよねえ…普通は」


ま、初っ端に全部要らないと意固地に固辞したのがイケナかったんかねえ? 


「未来のハーレムの為に、協力してやるよ。新米」

「フン、お前こそ私の足を引っ張らぬ様に背後に隠れておけよ」

「生意気な魔王様なこった」

「取り敢えず、今日のクエストの報酬では糊口すら凌ぬ。一晩経てばラインナップも総代わりすると聞いた」

「そうか! 何だかんだイイ時間だし寝るとしますか」


話している内に夜もそこそこに更けて来た。流石に2部屋借りる余裕もないし、魔王様も器量が広いので同室で寝る事になった。ギルドの2階・3階は宿として貸しているという事で、早朝起きてそのままクエストに行けるという。寝起きで歩くのって苦手だから、助かるねえ。


「3階の料金だけバカ高いそうだから2階の部屋にしたが、2人なら問題ないな」


ベッドと机とアイテムを置いておく棚があるだけの少し暗い部屋だが、1,500ダラーにしては随分しっかりしていると思う。


「同じベッドだからと言って、私の玉体に淫乱な事をしてはダメだぞ?」

「あぁ、勿論…?」

「よいしょ…ふぅ、やはり鎧にはまだまだ慣れんな」

「!?」


ボロいローブと黒く禍々しい鎧を脱いだアイレアは、サキュバス顔負けのドスケベボディを露にした。


「? 先に寝ている、あまり夜更かしするでないぞ」


ローブと鎧の下がショートパンツとニーハイと、あんな布面積の少ないチューブトップの下着だなんて聞いてない!? 


「女の子だったのな…」


え、同じベッドで寝るの……??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る