第5話酒は二十歳になってから

「防ぐ方法はあるだよな?」

「あるよ。終わりの街から出る事ができれば、回避できるよ」

「今まで、出れた人って存在するのか」

「私は、今まで最低でも100回以上ループしてるけど、見たことないよ」

そんな無理ゲーをクリアしろなんて無理に決まってるだろ。

いや、待て。

ちょっとおかしいだろ?

「それおかしくないか?100回も同じ事繰り返してるんでろ?じゃあ、どうして俺はこの世界に来たんだ?」

「まぁ私が色々めちゃくちゃやったから、不具合でもおきたんじゃないかな」

「めちゃくちゃって何やったんだよ。もしかして、小屋が壊れていたのと関係してるのか?」

「えーっと内緒。細かい事は、いいじゃん!!それよりほら!中心部に着いてきたよ」

なんか隠しているよな?

強引に話題変えようとしてるし、めちゃくちゃ目を泳がせているし。

深く追求しようとするが、クレアが言った通り、街の中心部に近づいてきたみたいなのでそっちに集中した。

さっきまで同じ風景が永遠に続いていたが、やっと変化が現れた。

ちらほらと人が見え始めた。

「いやー、本当に演劇みたいな格好をしてるな」

甲冑を身につけている屈強な男性や、いかにも魔女らしい格好をした怪しげな女性。

よく思うのだが、普段からあんな重い甲冑してたら身体壊れそうなんだけど、鍛えてるから大丈夫なんだろうか。

みんな見れば見るほど、多種多様な格好をしている。

ただ全員に共通していたのは、目に正気が宿ってなかった事だ。

「みんななんか元気なくない?」

「そりゃみんなこんな街に閉じ込められたら、みんな元気なくなるよ」

「てか、みんななんでこの街に来たの?」

「私は、凄い魔法があるって聞いたから。今考えれば、罠だったんだと思う。この街が誰が作ってのは分からないけど、誰かがこの街に人が集まるようにしてるのは、確かだと思う」

こんな街に人を集めている誰か。

凄い魔法があるって噂以外に他にも噂が、あるんだよな。

一体どんな目的があってこんな事してるだ?

「誰なんだよ。そんな事してる奴」

「知らないよ。少なくともこの街には、いないじゃない?わざわざ時間の繰り返しに巻き込まれる必要ないし」

そりゃそうだよな。

そう言われて、そんな事を考えていると、ぴたりと足を止めた。

クレアが足を止めて場所には、木で出来た小さい小屋があった。

他の建物同様に、傷一つなくてピカピカだ。

西部劇で、見た事あるような扉だ。

「なんか浮いてない?」

「浮いてるよね。明らかに周りと雰囲気違うんだよね。そのおかげで目立っているから、割と人来てるんだよね。この酒場」

「酒場なんだ。ここが行きたかった場所?そうだとしたら、クレア酒飲めんの?」

「この日は、色んな情報を持った人達が、酒場に集まるから、アマネの事何か知っている人達いるかもよ。あと今日は、この酒場に飲みに行くって決まってるからね。酒は、普通飲むよ」

未成年は、酒飲めんのか?

そう聞こうと思ったが、この世界のルールとか分からないし、やめておいた。

扉には、汚い文字でウィルと書いてある。

「これ店主の手書きなんだよ。毎回時間の繰り返しで、消えちゃうのにね。」

「真面目なんだな」

クレアは、足で蹴るように扉を開けた。

バーン!!っと大きな音がする。

いやいや、壊れたらどうするんだよ!?

もしかしたら、こっちでは軽い挨拶みたいなものなのか?

「クレア!!!お前は毎回毎回毎回!扉を蹴るんだ!!」

「いいじゃん。壊したって直るし、どうせ私の蹴りじゃ壊れない事は、確定してるんだし」

「いいわけないだろ!!お前別に蹴らなくても入れるだろうが!!」

酒場から怒声が響いてくる。

怒声が聞こえた方を見てみる。

全身筋肉で出来てるじゃないかと思うくらいの大男が、こっちを睨みつけていた。

腕の太さは、太い丸太を思わせる。

こんな男に殴られた日には、頭蓋骨なんて卵のように割れてしまうだろう。

筋肉って呼ぶ事にしよ。

心の中で、この男のあだ名は決まった。

幸い筋肉は、殴りかかってることはなく、カウンターからこっちを睨んでいるだけに済んでいる。

酒場には、丸いテーブルと何かの木箱が、大雑把に置かれており、そこに客が何人か座っていた。

客は、酔ってる奴が多いからかかなり騒がしい。

まじで、ほとんど無法地帯に近いかもしれん。

それにしも、さっきの怒声にまったく反応してなかったし、マジでこいつ毎回やってるんだな。

「まぁ細かい事はいいじゃん。そんな事より面白い物持ってきたんだよ。みんなに挨拶して」

「細かくねぇだろうが!!」

またこの小さな酒場が吹き飛んでしまうくらいの大声を出す筋肉。

クレアは、左手で耳を抑えて、右手で筋肉に向けてアマネを見せた。

「お前まだ街はずれに住んで、宝探ししてるのか。どんだけ、貴重な物見つけても時間の繰り返しでなくなるだから、無駄な事はやめろ。また、アイツに見つかって殺されるぞ」

アイツ?

見つかったら殺される?

なんだか不穏なワードを筋肉が話していると、パンパンとクレアがアマネを叩いてきた。

「このままだと、無限に説教が始まるから早く喋ってよ!」

どうやら早く挨拶をするように催促をしてきたみたいだ。

なら、軽めの挨拶をしておこうかな。

「おはようございます!魔導書になった人間天音です!」

無理して明るく挨拶してみた結果は、ただ無音。

酒を飲んでいた客も何故か、話すのをやめこっちを見ていた。

転校生が、目立った自己紹介をしようとして滑ってしまった感覚に似てる。

そんななんとも言えない空気になっている。

「おい。今お前が持っている魔導書から、声が聞こえてきたが、気のせいか?」

最初に沈黙を破ったのは筋肉だった。

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