第2話少女との出会い

所々に大穴が、開いているボロボロの壁。

その壁がこの場所を囲んでいる事で、ギリギリ何かの建物だと分かる。

天井は、存在せずに灰色の空を見ることが出来る。

雨が降りそうな雲ってよりは、なんか煙のようなもので空を隠してしまってる感じ。

床には、少女がさっきほど動かしていたと思われる瓦礫が散乱している。

そんな廃小屋で、少女と本が一冊。

「え!?喋った!?」

驚いた声が、聞こえてきたのと同時に地面に叩きつけられた。

バチン!といい音がした。

「痛い!ちょっと待ってよ!」

メンコのように地面に叩きつけられた後、続けて何回も踏みつけられた。

少女の靴は、所々泥が付いており踏まれた場所に靴の跡がついてそうだった。

踏まれるのは、痛いけどそれのおかげで、気づいた事がある。

もちろん踏まれる痛みがあるのだが、なんか痛みの伝わり方が違う。

体が硬い皮膚で覆われているような感じがするし、地面に投げられた時も辞書のような分厚い本を落としてしまったような音が聞こえた。

そして、落ちて蹴られたのは自分。

これって本当に本になっちゃったのか?

自分にとんでもない事が、起きている事が分かり混乱してくる。

そんな事お構いなしに少女は、しばらく天音を蹴り続けた。

結構痛い。

少女は、疲れたのか蹴るのをやめてさっきほど開けた宝箱の上に腰掛けた。

随分離れた場所に座ってるし、こっちを見ている視線からすごく興味があるようだった。

「や、やっぱりこの魔導書喋ってる。痛いって言ってるけど、魔導書なのにそんな感覚あるんだ」

「あれ?さっきまで声聞こえてなかったのにな。後、自分でもよく分からないけど、痛いから優しく扱ってください」

「普通自我なんてあるわけないのに。それより自分が、魔導書って事もわかってないとか本当に意味わかんないな」

「意味分かんないって言われてもしょうがないよ。実際本になってるんだから」

あれ? 

少女と会話している間に自分が、おかしい事に気づいた。

なんで自分が、本になっている事を受けれているんだろう。

自分の姿を見た時は、驚いたし、体にも違和感があった。

でも今は、最初から自分が本だったように感じるし、体の感覚にも違和感をかんじない。

むしろ手足の感覚を思い出す事が、できなくなっている。

「え。元々魔導書じゃないの?喋る魔導書とか聞いたことなかったから、呪われているのかなとか考えていたけど」

そんな事を言って少女は、宝箱から立ち上がりこっちに近づいてきた。

警戒心とかないのか、どんどん近づいてきて

「正真正銘元人間だよ。寝て起きたらこんな感じになってた。正直、もう本になった事に違和感なく感じてないんだなー。それよりもここが、どこか気になるんだけど。なんかすごいボロ小屋の中にいるみたいだけど、ここどこなの」

「人間が魔導書に?そんな話聞いた事ないけどね。それよりボロ小屋じゃなくて私の家だからね!!」

「風も雨も防げそうもないこれが家?」

「さっきまでは、雨も風もちゃんと防げたんだよ!ちょっとした事故があってこんな状態になっているだけだよ!」

ちょっとした事故じゃあこんな風には、ならないだろう。

そんな事をこの屋根がなくなった小屋を見て思ったが、少女の機嫌を損ねたくないので、言わないでおいた。

今でも自分の家をボロ小屋と言われ、だいぶ機嫌が悪くなっているだろう。

こっちを見ている顔が、怒っているように見えるのは、気のせいではないだろう。

「ごめんって。それより今がいる場所が、君の家だって事が分かったけど、ここって日本?」

そう言ってみると少女は、青い目を大きく開き、天音を手に取り頭の上くらいまで、持ち上げた。

「にっぽん!あなたって転生した人なんだ!」

さっき自分の家をボロ小屋と言われて機嫌が悪くなったのが、嘘のように天音を見て目を輝かした。

「いや、待って。日本知ってるの?」

「直接は、見た事ないけど転生する人が多い国だって本で、見たことある。でも。実際に見るのは初めてだよ!」

確かに日本は、異世界転生よくするけど。

でも、漫画やアニメじゃないのか?

後俺死んでないから、転生って言わないじゃ。

「異世界とか冗談きついって。あー、わかった。これ夢だ」

確か明晰夢ってのを聞いた事がある。

自分が、夢を夢だと自覚してる事だっけ?

多分それだ。

この子もやたらリアルな感覚も全部夢。

「夢じゃないよ。ちょっと待って。ちょうどいいから、これ試すね」

「あっつ!!イタイイタイ!!何やってるの!?」

急に身体から焼かれてるような熱さをかんじた。

それどころか身体から火出てるんだけど!?

「うん?これが夢じゃないと思わせるのと実験。この魔導書が、燃えるのかなって思ったから、とりあえず焚き火の魔術で焼いてみた」

とんでもない事を平然と言う少女。

こいつこの本が、元々人だって分かってるのに躊躇なく燃やしてきた。

こいつ心が無いの?

燃える中で、少女を見る。

少女は、青い目を大きく開き、瞬きせずに見ている。

それは、今天音を燃やしている理由が、純粋な好奇心だと感じさせる目だった。

シンプルに怖すぎるだけど。

でも、少女が言っていた通り天音には焦げ一つ付いておらず、自分の体がただの紙じゃないと感じた。

「わかました、わかりました!!夢じゃないってわかったから、やめでください!」

「燃えてるのに煙は、出ない。灰になるどころか、焦げ目すらついてないか。なるほど」

「冷静に分析してないでやめでぇぇ!!」

「あ!ごめん。ちょっと本当に君は、特別な魔導書なんだなと思ってたらやり過ぎちゃった。でも、これで夢じゃないって分かったでしょ」

夢じゃないって分からせる方法が、雑すぎるだろ!

さっき燃える中で、見た顔からして絶対好奇心で、燃やしやがった。

「あんた悪魔?それとも人の心どこかに落とした?」

「私は、悪魔じゃなくて魔女だよ。さっき焚き火の魔術を使ったじゃん」

「燃えやされてたから、ほとんど聞いてなかったよ。なんかあんたの手の平辺りから、火が出てるなって思っていたけど、本当に出していたのか」

「細かい事は、どうでもいいよ。えーっと名前とかあるんだよね?」

「いきなりだな。あまねでいいよ」

「アマネね。私の事は、クレアでいいよ」

クレアと名乗った少女は、頭の上から顔の近くまで、高さを下げた。

「じゃあアマネ。さっきここがどこって聞いたよね。ここは、終わりの街だよ」



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