第9話 孤児院

「どうも、シスター・ローザ。」


 レオンハルトは、目の前にいる老シスターに挨拶する。


「これは少ないですが寄付金です。

 子供たちに美味しいお菓子でも買ってあげてください。」


「いつもありがとうございます。

 ユリアンは、あの義足を大変気に入っていますよ。

 他の子もあなたのおかげで希望を持てるようになりました。

 本当に感謝の言葉もございません。」


 シスターは半ば涙ぐんだ声でレオンハルトに感謝の言葉を述べる。


 シスター・ローザ――レオンハルトの母と同じ名のシスター。

 彼女は孤児院の教師だ。


 孤児院では、戦災や反体制のテロリズムによって孤児となった少年、少女が数多く育てられている。

 その子たちの多くは様々な形で身体の一部が失われていた。


 腕のない子、足のない子、視力を奪われた子や声を失った子もいる。


 五年前。レオンハルトはこのシスターと知り合い、そんな子供たちに何かできることはないかという苦悩の中にいた。


 遺跡工学の知識を総動員し、様々な義肢を作ってみた。

 失われた視覚を補佐するための眼鏡も作った。

 声を肩代わりする発声装置も作った。


 だが、どれも重すぎたり、大きすぎたりと使い物にならなかったのだ。


 二年前――そんな彼に望んでいた物が与えられた。


 最大級の遺物。最高の性能を持つ義手だ。


 彼は二年間、研究に没頭した。


 何を動力とし、何がどう動くのか。

 それを徹底的に解析し、その複製品(レプリカ)をいくつも作り続けた。

 ようやく満足のいくものが作成できた時、何人かの子供たちへと試験的に与えて様子を見てもらった。


 結果は成功を収め、レオンハルトにも自信がついた。


 自分にも人は十分救えるのだ、と。


(あと三年……。)


 レオンハルトは心の中でつぶやいた。


(これでどれだけの子供たちを……人々を救えるか……。

 それでもやらなければならない。俺の誇りにかけて……。)

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