第6話 学術師

 ここ、カーライル帝国には『学術師』と呼ばれる者達がいる。


 学術師とは、広く学問を修め、その知識を公共に役立てる者のことを言う。


 帝国の外部機関である『学術院』に所属する彼らは、総じて知識人層として認められており、またその振る舞いもそれに準じたものを要求される。


 彼――レオンハルト・フォーゲルもその一人だ。


 学術師達は様々な分野を専攻しており、彼の場合は遺跡の調査・発掘と、出土したものの復元などを行なう『遺跡工学』の分野に通じている。


 他にも、魔導学、医学、工学、数学など様々な方面で学術師は存在している。


 しかし、学術師の数は決して多くない。今現在において存命中の学術師は数十人を数える程度だ。


 いきおい、学術師の社会的立場は高いものとなる。どうかすると、そこらの下級官吏を生業とする没落貴族などより『偉い人』とみなされることすらもある。


 超一流の知識人。それが一般人の持つ、学術師のイメージだろう。


 レオンハルトはわずか十一歳で学術院の門を叩き、入門生としての試験を一発で合格した。


 その後の彼の評判と言えば、母親は夭逝、ろくな指導者にも巡り合えぬまま、ただただ独学で魔導学を身に付けたという曰く付きの『天才少年』だった。


 そこからも、彼は友も作らずただひたすら勉学に励んだ。


 特に遺跡に関する興味は強かった。結果、学院生として専攻する教科も遺跡工学となったほどだ。


 だが、それが悲劇を呼んだ。


 十四歳の時、学院生として遺跡発掘の現場に人足として参加したのだが、その現場で事故が起こった。

 発掘されたのは巨大な熱線砲。

 これが何の前触れもなく起動し、強力な熱線を放ったのだ。


 その熱線は近隣の村を焼き、折悪しく展開していた紛争の最前線をズタズタに引き裂いてしまった。


 二、三百人いるかいないかの村一つ、それに加えて兵士たち数万の命を一瞬で消滅させてしまった事実は、十年経った今でもレオンハルトを苦しめる。


 たった一つ、心の拠り所としていたのは、そんな地獄と化した村の中で、一人の少女を救った事だった。


 牡牛の角を持つ少女。レオンハルトは彼女を、持てる限りの魔法を駆使して命を救ったはずだった。


 しかし、そんな彼女が、いま彼を『仇』と呼んで命を狙っている。


 彼の心の中は、果たしてどんな色に染まっているのか……。

 それは彼自身にしかわからないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る