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「ニャン君って、今何してるの?」




副ちゃんがいつもよりも明るい声を出しながらニャンに聞いた。

それくらいに私の様子がいつもよりも違っていたのかもしれない。

優秀な副会長だった副ちゃんに心の中でお礼を伝える。




「それがこいつ、高校の先生!!!」




「え・・・!?」




「非常勤のな。」




驚いた副ちゃんにニャンがすぐに付け足した。




「それでもニャン君、学校の先生してるんだ!?」




「クラスも持ってねーから先生っていう感じでもないけどな。」




ニャンがそう答えた後に私のことをチラッと見てきた。




そして何かを言おうと口を開き・・・




またすぐに閉じていた。




お洒落な街の夏の夜の下、男女8人が揃ってお店の外に出た。




「また一緒に飲もうよ!!」




「いいですね~!!お願いします!!」




副ちゃんが代表して連絡先を交換しようとした時、パッと私の方を見てきた。




「会長、ニャン君の連絡先知ってるよね?

そっちで連絡取り合ってよ!」




そう言われニャンを見上げてみると、ニャンは私と目を合わすことなく答えた。




「俺は会長の連絡先をとっくに消してるし次は参加しねーから。

そっちで連絡取り合って好きにやれよ。」




それにショックを受けながらも笑いながら副ちゃんのことを見た。

副ちゃんは驚きながらニャンのことを見ていて、それから男の人と連絡先を交換していた。




お会計までしてくれた男の人達に皆でお礼を伝えお店の前で別れた。




ニャンは最後まで私の方を見ることもなく、ポケットに両手を入れ夏の夜の空を1人見上げていた・・・。







家の最寄り駅から夜の道をトボトボと歩き、途中にある神社の境内へと入った。

うちの小さな小さな神社、昼も夜も人がいることはほとんどない。




会社員のお父さんが神主となり最低限のことだけはしている神社。

いつかこの小さな小さな神社の次の神主に私がなる。

その為に大学はそっちの方に進み神職資格を取得した。




うちはお姉ちゃんと私の女の子2人しか生まれなかった。

私達のお母さんのように、婿養子となる人が神職資格を持っているのが良かったのかもしれないけれど・・・。




お父さんの次の神主に私がなる。




強く強くそれが浮かんできて、それを考えながら神社の裏にある地面を見下ろした。




そしてそこで両手を合わせる・・・。




ニャンとの思い出を埋めたこの地面の前で今日も両手を合わせる・・・。







翌日




18時のアポ、ブラウスとスーツのスカート姿で、綺麗で大きなマンションの出入口を見詰めた。




出入口の大きな窓ガラスには私の姿が写っている。

その姿を呆然とした気持ちで眺めていた時・・・




ネコがいた。




真っ白で赤い瞳をしたネコが美しく佇み私のことを真っ直ぐと見ている。




その美しいネコに自然と笑顔になっていると、ネコがゆっくりと私に背中を向け・・・




堂々とマンションの中に入っていった。




それには小さく笑いながら、ネコを追うように私もマンションへと入った。




601号室、その目の前に立ち私は深呼吸をする。

お盆休み明けの初めての出勤日だった。

今日は1人で新規顧問先のお客様の家にヒヤリングに来ていた。




深く深く深呼吸をした後、インターフォンを鳴らす。




エントランスで鳴らしたインターフォンでは少し時間が掛かっていたけれど、部屋のインターフォンではすぐに反応があった。




鍵が開く音が聞こえ、出て来た。




扉が普通に開き、出て来た。




ニャンが出て来た。




昨日久しぶりに会ったばかりのニャンが出て来た。




半袖とスウェットのズボン姿で少し眠そうな顔をしていたかと思ったら、私を見るなり凄く驚いた顔になって・・・




「あれ・・・何で会長が?」




「さっきもエントランスのインターフォンで言ったけど、ニャンの担当は私になってるから。

松戸会計事務所の国光です。」




「・・・寝惚けててよく見てなかったし聞いてなかった。」




ニャンが苦笑いをしながらそう言って、何かを思い出したかのように勢い良く扉から体を出し、それからバタンッと大きく扉を閉めた。




背中でしっかりと扉を押さえていて、少し焦った様子で私のことを見下ろしている。




「こんなことなら会長が今何をしてるのか昨日聞けばよかった。

俺には関係ないと思って聞くのをやめたんだよ。」




少し焦りながらそう言ってきて・・・




「親から紹介されたから松戸さんに連絡したけど、松戸さんは?」




「前のアポが押しているらしくて、先に私が来て間を持たせるように言われたの。」




「そうなんだ・・・。」




ニャンが悩んだ様子で呟き、それから気まずそうに口を開いた。




「家を指定してたけどすぐ近くのファミレスに変更でもいい?」




「うん、いいけど・・・」




背中をピッタリと扉につけているニャンに言った。




「家の中が散らかってても大丈夫なのに。」




「そういうんじゃなくて・・・」




ニャンが私から視線を逸らして小さく笑った。




「好きな女の子がいるから、会長には入って欲しくない。」




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