夏の夜に、またね。
Bu-cha
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23歳、お盆
会社の夏休みをこの時期に取り、今日は高校からの友達である副ちゃん達と4人で夕方から都内のビアガーデンに来た。
「「「「かんぱ~い!!!」」」」
暑い中で飲むビールは美味しく感じた。
つい去年まではお酒をほとんど飲めなかったしビールの美味しさも全く分からなかった。
それなのにビールを皆でグビグビと飲み・・・
「会長、職場はどう?」
私のことを“会長”と呼び、私はビールを思いっきり飲んだ後にグラスをテーブルに置いた。
「平和で良いよ!みんな良い人達だし。」
「会長は公務員とか大企業に勤めるのかと思ってたのにな。
小さな会計事務所に決めたって聞いてビックリしたよ。」
「小さな事務所だけど顧問先は結構豪華だったり勢いが良かったりするよ?
なにより所長が格好良いし。」
そう言ってから所長とのツーショットをみんなに見せる。
「え・・・!?めっっっちゃ格好良いんだけど!!」
「何歳!?独身!?」
「今年32歳だったかな?
独身、彼女募集中。
大手監査法人出身で仕事も凄い出来る!」
「え~、会長が男をそんなに褒めるの珍しい!
好きなの?・・・あ、もう本当は付き合ってる?」
「ないない、私だけじゃなくて向こうもない。」
「会長ってまだ彼氏いらないの?
こんなに可愛くてモテるのに誰とも付き合わないんだもん。」
副ちゃんがそう言った後、皆が頷きながら私を見てきた。
そして・・・
「あ、でも高校の時に1人だけ良い感じの男子がいたよね?
てっきり内緒で付き合ってるのかと思ってたけど付き合ってなかったっていう男子!」
その言葉にはビールを飲んだ後に笑って答えた。
「懐かし~!そんな話もあったね!!」
「うちの高校にしては珍しい不良みたいな男子ね、薄めの綺麗な顔した。」
「そうそう、会長と2人で並んでるとちょっと意外だった!!
でもめちゃくちゃ仲良かったよね!!
今でも連絡取ってるの?」
「高校を卒業してから1回も取ってないよ。」
私の返事に皆からブーイングが出た。
それから長い時間皆の近況を聞きながら笑い合い、頃合いを見てから鞄からポーチとハンカチを取り出した。
「トイレ行ってくるね!」
私の言葉に皆が頷き、楽しそうに笑っている声を背中にトイレへと歩き出した。
そして、トイレを済ませた後に鏡の前でお化粧を直していく。
BBクリームを薄く塗った後にフェイスパウダーを少しのせただけの肌。
チークもハイライトもシェーディングも入れていない。
それでも立体的ではある顔。
眉毛もアイシャドウもアイラインもマスカラも薄め。
それでも可愛い自分の顔を少しだけ確認し、最後に薄目になり瞼を見てから目を大きく開けた。
鏡の中にいる自分がパッチリとした目で自分を見詰めている。
ポーチとハンカチを手にトイレを出て、皆の所へと真っ直ぐと戻る。
どの席も賑やかで、腕時計で時間を確認すると20時になる所だった。
腕時計の秒針が動いているのを見下ろしながら歩き続け・・・
そして、腕時計の針が8時ピッタリとなったのを見た。
それから顔を上げて一歩、二歩、三歩・・・
歩いた時・・・
「!!?」
数人の男の人とすれ違った瞬間、通り過ぎようとした男の人が私の腕を掴んできた。
足を止めて男の人を見上げ・・・
久しぶりに見たその顔に呟いた。
「ニャン・・・。」
ニャンだった。
さっき副ちゃん達から話題に出されていたニャン。
高校時代に私と仲が良かった男子、ニャン。
仲が良くて・・・。
凄く凄く仲が良くて・・・。
ずっと好きだった男子・・・。
今でもずっと好きな男子・・・。
ニャンだった。
“ニャン”と呟いた私に、ニャンは小さく笑いながらパッと手を離した。
ノースリーブから伸びた腕からニャンの手の熱がスッと消えていく。
「会長、久しぶり。・・・じゃあ。」
ニャンがジッと私の顔を見詰めながらそう言うので、私は少しだけ頷いた。
「うん、またね。」
笑いながらそう答え、私はニャンに背中を向けて歩き出す。
そしてまた一歩、二歩、三歩・・・
歩いた時・・・
「あのさ・・・!!!」
ニャンの大きめな声が聞こえてきて、それに私はゆっくりと振り返った。
ニャンは気まずそうな顔で笑っていて・・・
「俺、会長に謝らないといけないことがあるんだよな。」
「なに?」
私が聞くとニャンは困ったように笑いながら頭を掻いた。
「何て言ったらいいやら・・・。」
ニャンがそう言った時・・・
「何やってるんだよ、ナンパか!?」
ニャンと一緒にいた男の人数人がこっちに戻ってきた。
「ちげーよ、高校で一緒だった子!!」
「「「お~!!可愛い!!」」」
男の人達が声を揃えて言ってきたのでそれには苦笑いをする。
そしたら、そのタイミングで・・・
「会長、大丈夫?」
と、副ちゃんが声を掛けに来てくれた。
「ほら、高校で一緒だった・・・ニャン。」
ニャンを指差しながら副ちゃんに言うと、副ちゃんは意味深な顔でニヤニヤと笑いながら「あ~、そうだニャンだ。」と言って・・・。
こうなった。
「「「「かんぱ~い!!!!!」」」」
ニャンと一緒だった男の人達4人と私の友達、合計8人でビールで乾杯をする。
「なんだよ、こんなに可愛い女の子達と同じ高校だったなら早く紹介しろよ!!」
ニャンの友達の1人の言葉に他の2人も大きく頷いている。
「でも、私達はニャン君と全然話したことなくて!!
私立の結構良い高校だったからニャン君みたいな子はちょっと怖くて!!」
「会長はニャン君と凄く仲が良かったけどね~。」
「「「会長・・・?」」」
男の人3人の声が重なって私のことを見てきた。
副ちゃん達が私のことをニヤニヤしながら見ているからだと分かる。
「あだ名ですね。」
「そうなんだ!?会長ってウケるね!!
何かの会長だったの?」
「生徒会長でした。」
「それは会長だね!!!」
男の人達が楽しそうに笑いながらビールを美味しそうに飲み、それからニャンの方を見た。
「お前、何でニャンなの?」
「俺に聞かれても・・・」
ニャンが小さく笑いながら私のことを真っ直ぐと見てきた。
「初めて会った時、俺が猫の絵を描いてたからだとは思うけど。」
「描いてたね~、猫の絵。
猫好きじゃないのにね~。」
「小さい頃にこいつの家の猫にガッツリ引っ掻かれたんだよ。凶暴なデブ猫。」
そう言って楽しそうに笑いながら隣に座る男の人を指差した。
その男の人がそれに面白そうな顔をして私のことを見てくる。
「猫が苦手なこととか知ってるのか、本当に仲が良かったんだ。
こいつから高校の時に仲が良かった女の子の話とか聞いたことなかったけどな。
あ・・・もしかして、付き合ってたりした感じ?
こいつそういう系は隠すからな!」
それに私が答えようとした時・・・
「ないない!!全然ない!!」
ニャンが大きく笑いながらそう言った。
それに苦しくなりながらも私も笑っていると・・・
「確かに、お前の好きな女の子とはタイプが違うか!!」
1人の男の人がそう言うと、他の2人の男の人達も大きく頷いていた。
それには驚きながらニャンの方を見てしまった。
ニャンは苦笑いをしながら私から視線を逸らし・・・
「タイプとかそういう話じゃねーから。」
「嘘つくなよ!!
あの女の子はめちゃくちゃタイプなんだろ!?」
男の人が大笑いしながら私のことを見て言ってきた。
「こいつ、好きな女の子がいて。
すげー綺麗な顔した子!!」
そう言ってスマホを操作し始めて、その手をニャンが慌てたように止めた。
「写真見せるなよ!!!」
止めたニャンのことを男の人達がからかっていて、それに私は複雑な気持ちになりながら見ていた。
ニャンに好きな女の子がいると知ったから・・・。
ニャンには綺麗な顔をした好きな女の子がいるらしい・・・。
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