第8話

「輸送船が消息を絶っただと⁉ おまけに調査隊の女性隊員が行方不明になっている? いったいどうなっているんだっ!」

 宇宙開発機構・惑星調査局局長の怒声が響いた。

「は、はい、輸送船については通信システムのトラブルの可能性があります。女性隊員の件は捜索中ということでして……」

 局員のラークが汗だくで説明していた。彼もなぜこのようなことになっているのか訳が分からない状況にある。

「何か分かり次第ご報告いたします。引き続き調査隊と連絡を密にし……」

「とにかく何としても調査隊を無事帰還させろ! いいな!」

「はは、かしこまりました」

 ラークはようやく解放され、自分の執務室に向かった。

「……フー、次はシグネットか……」

 彼は大きくため息をついた。


 宇宙ステーション内は重苦しい雰囲気に包まれていた。輸送船との連絡が途絶えてからすでにかなりの時間が経過している。

「まずい……まずいな。ピジョン、相変わらず応答なしか。通信システムの不具合なら修正出来るはずだが」

「スワロウ、輸送船から応答はありません。あらゆる通信回路を試みています」

「よし、分かった。引き続きトライしてくれ」

「スワロウ! 輸送船と連絡つかいなってどういうことよ! まさか遭難したんじゃないでしょうね!」

 金切り声をあげたのはクレイン。

「どうするのよ! 帰還できないじゃないの!」  

「うるさい! 少し黙っていてくれ!」

 今度はスワロウが声を荒げる。そして沈黙。冷静なのは管理AIピジョンだけだった。

「お二人とも落ち着いてください、探査衛星を輸送船の予定航路に向かわせています。レーダー探知機に反応があり次第報告します」


「ファルコン主任、わたしも行かせてください。必ずカナリーを見つけて連れ戻して見せます!」

 カナリーの上司であるアイビスが必死に訴えていた。

「アイビス主任、そう言われてても……もう時間がないんです。ですから……その……」

 ファルコンは困り果てていた。アイビスの気持ちは痛いほど分かってはいたが、彼にもどうしようもないことだった。宇宙ステーションからは矢のような催促が来ているし、輸送船消息不明も大問題となっている。

 宇宙開発機構・惑星調査局への報告のために、ホーク統括調査官もイーグル所長も情報収集にかかりきであった。ファルコン自身居ても立っても居られない状況に追い込まれていた。せめてカナリー失踪の件だけだも解決しないことにはどうにもならない。時間との戦いである。

 ファルコンはアイビスの目をまっすぐに見つめた。もう迷いはなかった。

「アイビス主任、覚悟はいいですか? 出ますよ!」

 アイビスは喜色を浮かべて大きく頷いた。


 さて、当のカナリーである。彼女はあるエリアの大きな洞窟の入口に居た。幸い危険な巨大爬虫類に出くわさずにここまでたどり着いた。実は以前からこの洞窟の存在を知っていて今回やって来たのだ。

 危険なのは承知の上、この洞窟の奥で巨大隕石の衝突をやり過ごす。そしてこの星の生物、特に巨大爬虫類族の運命を見届ける。大津波や森林大火災は恐ろしかったが、彼女にとって何物にも代えがたい使命なのだ。母星への帰還はもはや諦めていた。が、まったく未練がないと言えばウソになる。アイビス主任やアウルの顔が頭に浮かんでくる。

 しかしカナリーは周囲に捜索隊がいないことを確認し、ゆっくりと洞窟内に入って行った。


「おいストーク、ホントにこのエリアなのか? 暑くてかなわんぞ。他のチームもいるはずだが……いったいどこをほっつき歩いてるんだ?」

 ぼやくクロウを無視してストークはどんどん進んでいる。

「もうすぐよ。わたしの記憶に間違いがなければ……この先に大きな洞窟があるはずだわ。カナリーと一緒に行ったことがあるの」

「洞窟だと? そこに彼女が居るのか? よし急ごう!」

 単純なクロウは文句をすっかり忘れて張り切った。

「カナリー……待っていなさいよ」

 ストークはつぶやいた。


 その頃アウルはというとグラウスと共に担当エリアにいた。

「うーん、捜索終了は時間の問題だな。アウルさんもう諦めましょう」

 疲れ切ったグラウスの言葉にアウルは反発した。

「諦めるのは早いですよ! 時間切れまで頑張りましょう! 他のチームが発見するかもしれませんが」

「そ、そうですね、しかしいったいどこに行ったんだか」

「カナリーの行きそうな所……まさか……いや……そんな……」

「え? アウルさん心当たりがあるんですか?」

 グラウスの問いにアウルは小さく首を横に振ると額の汗をぬぐった。


 暗黒の宇宙空間を進む輸送船。そのメインブリッジのレーダーに探査衛星の反応があった。次の瞬間、信じられないことに輸送船から探査衛星に向かってフェイザーが発射された。探査衛星は跡形もなく破壊され、輸送船は何事もなかったかのように航行を続ける。探査衛星から宇宙ステーションへ輸送船発見の信号が送られる寸前のことだった。

 宇宙ステーションはこの事実を知らない。


 辺境太陽系第三惑星、恐竜の楽園。超巨大隕石衝突まであと5自転。



 



 

 



 

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