第6話

 血相を変えて本部用テントに駆け込んできたのは、科学調査班のアイビス主任。テント内には最低限の隊員が残っている。

「どうしたアイビス主任、そんなにあわてて」

 ホーク統括調査官が尋ねると、普段冷静なアイビスが早口でまくし立てた。

「カナリーが……カナリーの姿が見えないんです! きのうの夜まではいたのに!」


「なんだって! アイビス主任どういうことだ? カナリー君がいないだと?」

 ホーク統括調査官もさすがに驚いて聞いた。テント内の隊員も一斉にアイビスに注目する。

「そ、そうなんです! 朝からどこにもいないんです! 早く、早く探してください!」

「アイビス主任、落ち着きたまえ。ホントにどこにもいないのかね? 何か心当たりは?」

「ありません! 彼女も今日が最終撤収日だって分かってるはずなんですけど」

 アイビスはようやく落ち着いてきた。


 アイビスの話では、カナリーの不在に気づいたのは今朝のことだそうだ。昨晩は特に変わった様子はなく女子用テント内の個室で就寝したらしい。今日に備えてほとんどの私物は宇宙ステーションに送られている。


「しかし、いったいどこに行ったんですかね。そんなに遠くには行けないと思いますが」

 管理センターのファルコン主任はあくまでも冷静である。

「まさか早朝の散歩に出かけてそのまま帰れなくなった、なんてことではないでしょうね」

「じょ、冗談じゃないです! ファルコン主任いい加減にしてください!」

 真面目なアイビスは目にうっすらと涙を浮かべていた。


 とにかく、至急カナリーを捜索することになった。基地に残っている隊員では間に合わず宇宙ステーションに応援を依頼した。すでに大半の隊員は宇宙ステーションに移動していたからである。


「やれやれ、最後の最後までドタバタだな。ピジョン、転送室が忙しくなるぞ。なんでも科学調査班のカナリーがいなくなったそうだ。応援依頼が来ている。準備にかかるとするか」

 スワロウは、宇宙ステーション管理AIピジョンに命じ転送室に向かおうと腰をあげた。

「了解いたしました。転送室はいつでも使用できます。転送装置に異常ありません。システムを起動させます」

「よし、ピジョンよろしく」


「全員そろったようだな」

 ホーク統括調査官がテント内を見回して言った。すでに宇宙ステーションから呼び戻された隊員たちも揃っている。

「忙しいところ申し訳ない。科学調査班のカナリー君が今朝から行方不明になった。理由は不明だが探し出さねばならん。手分けして捜索してくれ。予定どうり今日中に全員宇宙ステーションへ退避するのだ。頼むぞ諸君」


 慌ただしい最終撤収日となった。二名一組で担当エリアを決めて捜索することになり、チームが組まれた。残念ながらカナリーの位置情報確認用端末はオフになっていた。


「フェイザーライフル、フェイザーガンの携行を認める。くれぐれも肉食タイプに気を付けてくれ。草食タイプ、飛行タイプも刺激しないことだ。あくまでもカナリーの身の安全が最優先。彼女を発見次第、本部に連絡してくれ。その他何かあったら本部に報告すること。時間はあまりない、準備出来しだい出発してくれ。アイビス主任は本部で待機、以上だ」

 ファルコン主任の指示に全員がうなずく。そしてぞろぞろとテントを出て行った。


「まったくカナリーのヤツどこに行っちまったんだ? えーと俺たちの担当エリアはと……」

 クロウが端末を操作して確認する。隣にはチームを組むことになったストーク。だが彼女の表情はさえなかった。何か考え事をしているように見えた。

「どうしたストーク、何か心当たりがあるのか?」

「ううん、何でもないわ。ただちょっと気になることがあって……」

「ふーんそうか、まあ気が向いたら教えてくれ。とにかく(帝王)の野郎が出てこないことを祈ろうぜ」

 ストークは黙ってうなずいた。


 実はストークには気になることがあった。管理センターの同僚、アウルについてである。以前、カナリーから相談されたことがあったのだ。彼女はひそかにアウルに想いを寄せていて、ストークに打ち明けてくれたのである。

「誰にも言わないでね。ストークさんはいいわね、クロウさんがいて」


 カナリーにそう言われて、ストークは悪い気がしなかった。出来れば応援してあげたいと思った。しかしその後は撤収作業に追われて、彼女とゆっくり話す機会がなかったのが悔やまれる。今回の失踪騒動がその件に関連するのかどうかは分からない。ただやはり気にはなった。

 テントを出発する際、されげなくアウルを見たがいつもと変わらない表情であり、何も知らない様子だった。   

「さあクロウ、早くカナリーさんを見つけましょう! 行くわよ!」

「おおい、ストーク、待ってくれー」


 さて、そのアウルである。相棒の隊員グラウスと担当エリアに向かっていた。一刻も早くカナリーを見つけ出して基地に連れ帰ること。彼にも彼女の失踪理由は分からない。ただ、最近何か思い詰めているように見えたのも事実である。この惑星からの撤収が本当に不本意だったのか。

「グラウスさん、急ぎますよ」


 ちょうどその頃、当のカナリーは……。


 辺境太陽系第三惑星、恐竜の楽園。超巨大隕石衝突まであと6自転。


   


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