第5話
辺境太陽系第三惑星からの撤収作業は順調に進んでいた。幸い相次いだ異常事態も作業の遅れにつながってはいない。地上基地は着々と解体され宇宙ステーションへ送り込まれている。すべて更地に戻し原状回復すること。ネジの一本、金属片のひとかけらも残してはならない。それが惑星調査隊に課せられたルールである。もちろん第七惑星調査隊も例外ではない。
周回軌道上の宇宙ステーションもスタッフが増え、多忙を極めていた。スワロウもピジョンと共に職務に追われていた。彼の所属する技術・設備班はフル稼働である。
「スワロウ、少し休まれてはどうですか。現在ステーション内異常ありません。すべて正常稼働しています」
「そうかありがとう。さすがピジョンだな。資材倉庫と転送装置、空調設備も問題なさそうだし。よしよし、一息入れるとするか。早いとこ輸送船に来てもらいたいよ」
「はい。スワロウは早く帰還したいのですね」
「ああ、ここはちょっと田舎だし……おれはネオン街が恋しいよ。ピジョン、お前も連れていきたいなあ」
未確認飛行物体のことなど完全に飛んでいる。管理AIピジョンは沈黙した。
「アイビス主任、ちょっといいですか?」
クレインが目を吊り上げてアイビスに詰め寄っていた。
「カナリーのことなんですけど」
アイビスはまた始まったかと、内心顔をしかめた。
「彼女がどうしたの? よくやってくれていると思うけど」
「主任、分かってないですね。仕事は遅いし管理センターの人達とだべっていることが多いし。それに……ここからの撤収が本当にイヤみたいで。いつまでもこだわっていられると迷惑なんです」
「そ、そうよね。それは困るわね。わたしから話しをしてみるわ」
「お願いしますね。わたしもこんな事言いたくないです。でもあまりに目に余るので。困るのは主任なんですよ」
「分かったわ、クレインありがとう」
アイビスは、やれやれと会話を打ち切った。それにしても仲の悪い二人である。たしかにクレインの言うことも一理あるのだが……。
アイビスはカナリーを信じたかった。決して優秀とは言えない彼女だがアイビスにとっては可愛い部下である。クレインと別れてからアイビスはフーとため息をついた。
そのカナリーである。実はひそかに期するものがあった。誰にも言えない想い。理屈抜きである。この楽園からの撤収が決まって以来、カナリーの心の中にある決意が芽生えていた。読者の皆様が誰にも言わないと約束できるのなら書きますけど……やはりムリですね、やめときます。
さて、こちらはクロウとストーク。
「いよいよこの星ともお別れだな。あの巨大爬虫類どもも一巻の終わりか」
「クロウ、そんなこと言うもんじゃないわ。カナリーが聞いたらタイヘンよ」
「ハハハ、ストークはカナリーに優しいな」
「そりゃそうよ。わたしたち同期だから。それに……」
「それに何だ?」
「ううん、なんでもないわ。ただちょっと応援したいことがあるだけ」
「応援か。おれのことも少しは応援してくれ」
「フフフ、バカね」
クロウとストークは顔を見合わせて笑った。実はこの二人恋仲なのである。もちろん周囲には秘密にしているが、上司のファルコン主任はうすうす分かっているようだ。今のところ黙認してくれている。
「さあ明日の夜は宇宙ステーションだな。あまり居心地がいい所ではないよ。まあしばらくはガマンしてくれ」
「しょうがないわね。でもクロウと一緒ならいいわ」
そして調査隊撤収の日の朝が来た。全員宇宙ステーションに退避するのだ。すでに基地の建築物は跡形もなく、テントが数張り残るのみである。
しかしここで大問題が起きた。
「た、大変です!」
辺境太陽系第三惑星、恐竜の楽園。超巨大隕石衝突まであと7自転。
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