第4話

「緊急事態です! スワロウ、至急ブリッジに来てください!」

 仮眠中のスワロウは、スピーカーから流れる宇宙ステーション管理AIピジョンの声にたたき起こされた。

「ううん、緊急事態だと? 何事だピジョン?」

 スワロウは起床すると眠い目をこすりながらブリッジに向かった。


 その頃。地上の基地でも騒ぎが持ち上がっていた。最大最強の肉食タイプ(帝王)の群れが基地エリアに侵入して来たのだ。その数10頭。ゆゆしき事態である。セキュリティセンサーが感知し防御システムが作動したが、いかんせん数が多すぎた。


「ヘルメットよし、防御盾よし、防護チョッキよし、フェイザーガン、フェイザーライフルよし。エリア1Aだ! 行くぞ!」

 ファルコンの号令をを受け、出動して行く管理センターの隊員たち。凶暴な(帝王)の群れの排除が目的である。極力殺さず基地エリア外に追い払うこと。しかし今回は相手が最強凶暴な(帝王)、しかも10頭。さすがのファルコンも思わず武者震いした。


「ピジョン、何が起きた?」

 スワロウが管理AIピジョンに質問した。

「未確認飛行物体が出現しました。モニターを再生します」

「よし、やってくれ」

 スワロウはピジョンが再生したモニターを食い入るように見つめた。

「な、なんだこりゃあ」

 その物体は突然姿を現してジグザグに動いたかと思うと、急加速して急停止、再びジグザグ運動し急停止、最後はこつ然と画面から消えた……。明らかに異常な動きである。

「ピジョン、至急基地に連絡だ!」

 スワロウは思わず叫んでいた。


「(帝王)の群れに、未確認飛行物体! いったいどうなっているのか」

 ホーク統括調査官は頭を抱えていた。

「(帝王)の排除には、ファルコン主任が向かっていますし、未確認飛行物体の方は今のところ宇宙ステーションに実害を及ぼしてません。統括、落ち着いてください」

 秘書官のワグテイル女史の冷静な言葉。

「ワグテイル君、落ち着けといわれてもねえ。もう撤収まで日がないんだぞ。よりによって……」

「大丈夫です、巨大隕石の衝突まで十分に時間はあります。計画通り進めれば何ら問題ありません」

 あくまでも事務的なワグテイル女史である。ホークは思わず肩をすくめた。


「ふー、やれやれどうにか終わったな」

 フェイザーライフルを肩に担いでいるファルコンが隊員達に話しかけた。

「主任、さすがに(帝王)10頭はきつかったですねえ」

 クロウが応える。

「よく言うよ! 逃げ回っていたくせに」かみついたのはアウル。

「なんだと? お前こそどこにいたんだ?」

「アウルさん、クロウさん、まあまあいいじゃないですか。(帝王)も追い払えたんですし」

 言い争う二人をなだめたのは、管理センターの紅一点ストークだった。

「さあ主任、センターにもどりましょうよ。暑くてかないません」

 ストークの言葉にファルコンが応える。

「よし、引き揚げるぞ、皆よくやってくれた」


「(帝王)ちゃんが10頭も……いったいどうしちゃったんでしょうか」

 科学調査班のカナリーがアイビスに疑問をぶつけていた。

「だって(帝王)ちゃん、せいぜい4、5頭の群れのはずなのに……」

「そうね、たしかにおかしいわね。ファルコン主任の報告だとまるで何かに操られているように感じたそうよ。この前の事件と言い今回と言い続くものね」

「それに」

 カナリーが言い募る。

「宇宙ステーションでも何かあったらしいし。ホントに撤収できるんでしょうか?」

「カナリー、何が言いたいの?」

「いえ、わたしはただ……その……えっと……」

 アイビスにたしなめられたカナリーはしょんぼりと肩を落とした。そんな二人をクレインは黙って冷たい目で見ている。何を考えているのか分からぬ暗い表情をだった。


「なあカナリー、そんなに深刻になるなって。たしかにここの所妙なことばかり起きているけど撤収作業は順調に進んでいるし。巨大隕石の衝突までには退避できるさ」

 アウルがのんびりとした口調で言った。

 基地内の夜の休憩室。カナリーとアウル、クロウ、ストークの4人がテーブルを囲んでいた。不安を訴えるカナリーを持て余す管理センターの面々。

「そうですよ、カナリーさん。科学調査班の人達も準備を進めているでしょ? 心配はいりません」

 ストークはさすがに優しい。

「(帝王)の10頭や20頭、どうってことないさ。(三本角)でも(クビナガ)でも(ヨロイ)でもドンと来いだ。未確認飛行物体だと? そんなのはフェイザー砲で吹っ飛ばせばいいんだろ?」

「おいおいクロウ、ずいぶんと勇ましいなあ。もう酔っぱらったか? おれは知らんぞ」

「あたしも知りませんからね」

 アウルとストークの言葉にクロウは憮然とする。

「ふん、おれは正気だぞ。なあカナリー」

「もう、3人ともいい加減にして。少しは真面目に……」

 ムキになるカナリー。他の3人は顔を見合わせて苦笑した。

 そこへ管理センターのイーグル所長がひょっこりと姿を現した。


「やあ、これはおそろいで、またよからぬ相談かな?」

「あら所長、どうしたんですか? いま大事な話をしていたんですよ」

 口を尖らせるストーク。イーグルはかまわずに空いていたイスに腰を降ろす。

「まあ最近イロイロと起きているが、あまり過剰反応しないことだな」

「でも、イーグル所長もおかしいとお思いではないんですか? アイビス主任ははっきりと言わないんですけど」

 今度はカナリーが言った。

「ハハハ、私の立場では何とも言えないな。とにかく撤収作業を進めることが先決だね。事実は事実として受け止めることは必要だが。ところで君たち今日はご苦労様。どれ私も一杯いただくとするか」

 イーグルはあくまでも冷静沈着であった。


「あと10自転か……」

 ファルコンはつぶやいた。彼が居るのは基地内の転送室である。技術・設備班のグラウスと共に転送装置のチェックをしていた。

「ファルコン主任、異常なしですね。宇宙ステーション側も問題ないそうです。引き続き使用OKということですよ。まあフル稼働しているのでちょっと心配でしたが、ひと安心といったところです」

「さすがですね、助かります。まだまだ転送装置には働いてもらわないと困りますから。ではわたしはこれで引き揚げます。どうもありがとう」

 ファルコンはグラウスに礼を言い転送室を後にした。


 辺境太陽系第三惑星、恐竜の楽園。超巨大隕石衝突まであと10自転。 

 



 









 

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