第3話

「この忙しいのにっ! 何でわたしが! まったくもう」

 ブツブツと文句を言うクレイン。その横で黙々と確認作業を続けるアイビスとカナリー。クロウからの通報で駆け付けた科学調査班の面々である。

「やはりちょっと異常ですね」

 ファルコンの問いかけにアイビスがうなずく。撤収作業が多忙な中、時間をかけじっくりと調べている。汗だくの作業である。しかし調査隊が初めて目にする光景なのだ。

「二頭とも、内臓がきれいにえぐりとられてるし、血液も全然残っていない。こんな事できる生物、この星には存在しない……」

 アイビスがうめくようにつぶやく。

「ファルコン主任、現場保存とこのエリアの封鎖をお願いします。クレイン、カナリー、基地に戻って報告書を作成するわよ」


 (アイビスの報告書要旨)

 ・クロウ隊員の巡回中に発見。状況から前日の夜間、もしくは当日の早朝の発生と思われる。

 ・発生場所:エリア4D。ただし別の場所から運ばれてきた可能性もあり。

 ・肉食タイプ(帝王)と草食タイプ(三本角)の二頭。

 ・上記二頭の死体、それぞれ鋭利な何かで内臓をすべてえぐり取られ、体内の血液も完全に抜き取られた状況で放置されていた。周囲に微量の放射能の反応あり。

 ・自然界では起こりえない事象である。最終調査開始後にも前例はなし。当該エリアの監視センサーの反応記録なし。

 ・誰が、なぜ、何のために行なった行為か一切不明。

 ・撤収作業に支障をきたす可能性についても不明だが、警戒を要する。


「なるほど、ちょっとやっかいな事が起きたな」

 ホーク統括調査官は苦り切った表情を浮かべていた。

「しかし、これだけ不明な要素が多いと対応のしようがありませんよ」

 イーグル所長が例によって事務的に答えた。

「まあ、撤収作業を最優先することですな。ファルコン主任どう思います?」

「はあ、巡回を強化していますが、撤収まであまり時間もありませんし……」

 イーグル所長に振られたファルコンが困惑顔で答える。

「現在エリア4Dは封鎖していますが、他のエリアで同じような事が起こる可能性があるとすると……」

「うむ、自然界ではありえん事象で気になるところだが、撤収日が迫っている。作業に遅延をきたすわけにはいかない。引き続きよろしく頼む。アイビス主任には私から話しをしておく」

 ホークの言葉にイーグル所長もファルコンも黙ってうなずいた。


「それにしても、おかしなことがあったものだわ」

「そうだな、いったいだれの仕業だろう」

 カナリーとアウルは基地内の食堂で遅い昼食をとっていた。話題はやはりエリア4Dでの怪事件である。

「帝王ちゃんも三本角ちゃんもかわいそうに。アイビス主任が言ってたけど、この星にはあんな真似のできる生物はいないはずだって。でもそれって不思議ですよね?」

 カナリーは素朴な疑問を口にする。

「たしかに。だがもしかすると我々の知らない生命体が存在していて……今夜あたりここを襲ってくるかもしれんぞ」

 アウルが冗談半分にからかうとカナリーはビクっと体を震わせた。

「や、やめてよアウル! ホントにいたらどうするのよ!」

「決まってるだろ、退治するさ」

「アウル……まったくもう。クレインは全然協力的じゃないし……この星から帰ることばかり考えてるんだから」

 今度は同じ科学調査班のクレインの悪口である。どうもカナリーとクレイン仲があまりよろしくない。アウルはまた始まったかと苦笑を浮かべた。

「しょうがないだろ。巨大隕石様のご到着まであと少しだしな」

「あーあ、イヤだ、イヤだ」

 口ではそう言いながらも、なぜか楽しそうににアウルを見つめるカナリーであった。


 さて、辺境太陽系第三惑星からの撤収作業は順調に進んでいた。宇宙空間の周回軌道上にある非常用宇宙ステーションはすでに稼働しており、人荷の退避準備はほぼ完了といったところだ。


「キャプテン、現在ステーション内異常ありません、すべて順調で問題ありません」

 非常用宇宙ステーションの管理AIが報告している。その相手はスワロウ。地上の基地から一足先に来ている隊員である。彼は管理システムを起動し調査隊の受け入れ態勢を整えていた。 

「了解だ、今日も元気だな。非常によろしい」

「意味不明。わたくしはAIですので」

「ハハハハハ、まあそう言うなよ。それとキャプテンてのはやめてもらいたいなあ。スワロウでいいよ、スワロウで」

「それではキャプテ、いえスワロウ、ご命令を」

「そうだなお前にも名前をつけようじゃないか。うーん、ピジョンでどうだ? いい名前だろ?」

「了解いたしました。ユーザー名ピジョンを登録いたします」

「よろしくなピジョン。これからもっと忙しくなるぞ」

「はい! 望むところです、スワロウ」

 スワロウとピジョンは今日のミッションにとりかかった。


 一方、こちらは宇宙開発機構惑星調査局である。ラークとシグネットが執務中だったが、どうもシグネットが落ち着かないようだ。

「あの……第七惑星調査隊の怪事件なんですけど……不思議ですよね」

 シグネットがおずおずとラークに話しかける。

「ああ、内臓えぐり取りの件か。自然界ではありえん事だそうだがなあ。いったい誰の仕業か不明なんだろ。たしかに不思議だな」

「もう主任ったら他人事みたいに……調査隊に何かあったらどうするんですか!」

 シグネットの剣幕にラークが引く。

「そ、そう怒るなって。大丈夫だよファルコンが何とかするさ」

「と、とにかく無事に帰って来て……」

 シグネットは小さな声で願った。


 再び場面は、辺境太陽系第三惑星の調査隊である。ファルコンとクロウは管理センターに居た。

「しかし、あの(帝王)と(三本角)がああも簡単にやられるとは……最初は相討ちとばかり思ったんですけどね」

 クロウが首をかしげながらファルコンに問いかけた。

「たしかに異様な光景だったな。俺が不思議に思うのはなぜセキュリティセンサーが何も反応してないかだ。あのデカイのが二頭もだぞ。おそらく他の場所から運ばれてきたのだろうがな。それにしても、誰がどうやって、何のためにあんな面倒なことをやったのかだ」

 クロウはファルコンに対して「全然わかりません」と肩をすくめるのだった。


 辺境太陽系第三惑星、恐竜の楽園。超巨大隕石衝突まであと15自転。残された時間は少ない。果たして第七惑星調査隊は無事帰還出来るのだろうか。


 






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