社の中

 島を走り抜けていく。一見すればただ少し開拓されただけの島にしか見えないが、下を見れば無数の仕掛けが張り巡らされているのが分かる。地下にも色々と秘密があるんだろう。


「時間が無いな……あの山の上を見ておくか」


 明らかに何かありそうな気配がしている、山の上を見て探索は終わりにしよう。色々と面白い物は見れたが、まだクリティカルなものには出会っていない。


「飛ぶか」


 俺は時間を短縮する為、山の上に転移した。そこには小さな社のようなものがあり、それを守るように結界が張られていた。


「これは……」


 俺はその結界に触れ、術の構造を解析しようと試みる。外側の結界は範囲的に海の中にあるので調べに行くのは難しいが、この結界なら調べることが出来るからな。


「ッ!」


 弾かれた。中々、難しいな。それに、もう俺の霊力を覚えられてしまった。ここから解析するとなれば、更に難易度は上がるだろう。


「戦闘術式、天式」


 とは言え、どうせこの時間のこの場所に人は来ない。残り時間を全て使って調べさせて貰おう。安倍晴明が直々に張ったであろう、この結界を。




 魔術も駆使し、無理そうな部分は神力でゴリ押すことで、時間ギリギリ解析が完了した。俺は侵入可能になった結界に入り込み、その社に近付こうとして、やっぱり足を止めた。


「いや、勝手に入らない方が良いか」


 俺は踵を返し、結界の外に去ろうとする。しかし、後ろに現れた気配に振り返った。


「躊躇なく振り返るんですね」


「現れたってことは、話したいことでもあるのかと思ってな」


 そこに居たのは、十八くらいに見える少女だった。黒髪のおかっぱで、振袖を着ている。


「結界内に侵入した文句についてなら聞くが」


「そんなこと、気にしておりませんよ。寧ろ、熱心に解析されていましたから……邪魔しては悪いと、姿を潜めていました」


「悪いな。助かる」


 不法侵入については許してくれるらしい。心の広い相手で助かったな。しかし、結界の解析に集中していたとは言え、俺が潜んでいることに気付けない程ってことは、相当な隠形の技を持っているらしい。


「お初にお目にかかります。私はこの島を陰ながら守護しております、景姫かげひめです」


「老日だ。ここには門人試合に出る為に来た」


 景姫はこくりと頷いた。


「ところで、時間は大丈夫ですか? 門人試合は、もう直ぐ集合の時間かと思いますが」


「結構知ってるんだな。ずっと見てるのか?」


 景姫はふっと微笑む。


「勿論です。この島を守るのが、私の役目ですから」


「なるほどな……アンタは、安倍晴明の配下なのか?」


「故に、私はここに居ます。晴明様は、まだ未熟だった私を拾って立派な式神にして下さいました。殆どの式神は晴明様と共に眠っていらっしゃいますが、家を守る役目を持つ私は……この島を、もし晴明様が帰ってきたときの為に残しておかなければなりません」


「……そうか」


 帰って来るとか、あるのか。それとも、ただ忘れられない思いからそう言っているのか……天明であれだからな。安倍晴明とかなら、普通に復活してくるとか有り得そうだ。


「取り敢えず、俺はもう行くぞ」


「えぇ。話を聞いてくれて、ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げ、景姫はゆらりと姿を消した。


「転移って訳でも無い。が、気配も追えない……」


 どういう力だ? 景姫が居なくなった場所を睨んでいると、俺の肩の辺りからふっと現れた。


「それが、私の力ですので」


 にやりと笑みを浮かべて言うと、景姫は再び姿を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る