呪い食らう者

 目を覚ましたが、今日は結界内に侵入はされていなかった。起きてから数十分後、俺は朝食を食べに食堂へ向かっていた。


 いつも通りトレイに食事を乗せ、空いている席へと歩く。


「ちょっとよろしいか」


 トレイを席に置き、座ろうとした瞬間。三人組の男が話しかけて来た。同時に、何人かがこちらの様子を窺っていることも分かった。


「少しだけ話をしたいんだが、こちらに来てもらってもよろしいか」


「ここじゃよろしくないのか?」


「人に聞かれぬよう、向こうで話すのが好ましかろう」


 そこはよろしかろう、じゃないんだな。


「……分かった」


 明らかに何かされそうだが、まぁどうとでもなるだろう。俺は三人の男に連れられ、食堂を出た。


「それで、何だ?」


「単刀直入に聞くが、貴様……何者だ?」


 下らない話だったな。


「ハンターだ。それ以上の説明は無い」


「にしては、妙だと思うがなぁ?」


「然り。まだ陰陽道を習って半年も行っておらんのだろう。その癖、あれだけの結界を張れるというのはおかしな話よ」


「そうだ。結界術に精通している訳では無いとはいえ、我らでもアレと同じような結界を張るのは骨が折れるというもの」


 結局のところ、自分の技術を上回られたのを認めたくないって話か?


「まぁ、色々経験が活きたんだろ。ハンターとしてのな」


 そう言って、俺は食堂の中に戻ろうとするが、その歩みは止められた。


「待て。最後に一つ忠告しておく」


「何だ?」


 振り返って聞くと、男は暗い笑みを浮かべていた。


「あの穢れた女には近づかん方が良いぞ?」


「そうだ。奴は呪われている、噂では妖怪の子であるという話もある」


「その仮面を付けているせいで魅入られたのかも知れぬが、あの十蓮家の者のように付きまとわれてしまうぞ?」


「そうか」


 下らない話が追加されただけだったので、俺はそのまま食堂の中に戻り、食事を置いていた席に座った。


「……何というか」


 古典的なやり方だな。目の前の食事を見て、俺は呆れるような感情を抱いた。そこにあったのは、呪いの術が掛けられた飯だ。というか、呪いの籠ったものをバレないように混ぜたりしたんだろう。


「おはようございます、老日さん」


「何やら絡まれていたようだけど、大丈夫かしら? 勇」


 結局最後まで食卓を共にすることになった二人は、俺の対面の席に並んで座った。


「杏ちゃん、流石に呼び捨ては失礼だよ」


「でも、私達ってもうお友達でしょう?」


 にこりと笑って言う杏。俺は取り敢えず頷いておいた。


「呼び名くらい好きにすれば良い。俺は、歳の差で敬われる必要があるとは思わないタイプだ」


 向こうだと歳なんて覚えてない奴も沢山居たしな。それに、同じ人類でもエルフやらドワーフやらに比べれば寿命が一定じゃないから、歳上を敬うってのはそこまで無かった。


「ほら、碧も呼び捨てで良いみたいよ?」


「い、いやいや、私は家から怒られちゃうし……」


 ぶんぶん首を振る碧をくすりと笑い、杏は俺の方を見た。


「ところで、気付いてるわよね?」


「何がだ?」


 杏は俺の食事を指差した。釣られて、碧も指の先を見る。


「それよ」


「あぁ、気付いてる」


「ッ、な、何ですかこれ! 直ぐに上の人に報告しましょう!」


 俺の呪い飯に気付いた碧は、慌てた様子でそう喚いた。


「いや、良い。今日が試合当日だってのに、面倒臭いからな」


「面倒臭いって、そんな……取り敢えず、私が浄化します!」


 碧の提案に、俺は首を振る。


「時間かかるだろ。それに、ここでやったらどっちにしろ大事になる」


「なったって良いじゃないですか!?」


 まぁ、普通に考えればそうなんだろうが。


「私が吸ってあげようかしら? それか、私の食事と取り換える?」


「いや、別に大丈夫だ。死ぬ訳じゃない」


「そんな消費期限切れてるみたいな話じゃないんですよ!?」


 俺は手を動かして碧を落ち着かせ、一先ずは座らせた。


「単純に、このくらいの呪いなら大丈夫だ。ずっとこいつを付けてるお陰か、呪いにはある程度耐性がある」


「……普通に心配です」


 目を細める碧を前に、俺はカツ呪い丼を一口かき込んだ。味にはそんな影響は出てないな。


「うわぁ……」


「ゲテモノ食ってるみたいに言うなよ」


「ゲテモノ食っては居るんじゃないかしら?」


 まぁ、それはそうか。

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