懲罰
夕飯の前、俺は天明に呼び出されていた。一階にある部屋には高そうな椅子と執務机があり、そこには天明が座っていた。
「似合わないな」
「ハッ、失礼だな」
天明に似合わないと言うより、陰陽師の装束と高そうな洋式の椅子が似合っていない。
「それで、何の要件だ?」
「まぁ、頼みたいことがあると言ったところだな……」
天明は陰陽道で木製の椅子を用意すると、少し気まずそうに切り出した。
「先ず、話は聞いた」
「アイツらの件か?」
俺が椅子に座りながら尋ねると、天明はこくりと頷いた。
「煉治と耶座母から聞いたところによれば、確かに悪いのは奴らだ。先に手を出してきたのもあちらだし、術を返したのも自らを守る為という言い訳が立つ」
「……なんか、不穏な言い方だな」
前置きって感じで、嫌な予感がする。
「うむ。本題はここからなんだが……功春が騒いでいてな」
「功春って誰だ」
即座に尋ね返すと、天明は唸り声を上げた。
「そうか、知らんか……この島を管理している、倉橋家の当主だ」
「あぁ、それは知ってる。船に乗ってる時にも軽く絡まれたな」
アイツのことか。まぁ、俺のことは気に入らないって感じだったからな。騒いでいても不思議じゃない。
「その功春がお前の話を聞きつけて、特に呪いを利用した術を使ったことに憤慨しているらしい」
「呪力の利用は禁忌なのか?」
「いや、門人試合でも呪力を利用することは禁止されていない。余り好まれる力ではないのは確かだが、禁忌などでは無いだろう」
「だったら良くないか?」
天明は唸るような声を上げた。
「まぁ、そうなんだが……功春は呪いの仮面を持ち込むと言うだけでも憤慨していただろう。それに加えて、また島内で呪いの力を使ったことが気に食わないのだろう」
「なるほどな」
まぁ、言ってることは分かるが。
「最初は奴も憤慨していてな、お前を島から追い出せだ何だと騒いでいたが、落ち着いてからは責めてペナルティくらいは与えろと言い出した訳だ」
「そうか」
「それでだな、俺としても倉橋家との関係はそう悪くしたくないという思いはある。だが、はっきり言えば優先順位はお前の方が上だ。陰陽師の誰も知りはせんが、お前ほどの実力を持つ個の機嫌を損ねてやろうとは俺も思わん」
「つまり、何が言いたいんだ?」
天明は一呼吸おいて、切り出した。
「お前が良ければだが、式符没収のペナルティを受けて欲しい」
「別に良いが、何枚だ?」
ぶっちゃけ、式符は適当に用意した程度の物だからな。使えなくなっても、まぁ許容範囲内だ。
「三枚だ」
十五枚中の三枚か。
「式神は含まれてないよな?」
「勿論そうだ。あと、使用不能にする式符は自分で選別して良い」
なら、どうでも良いな。
「だが、そうだな……条件がある」
「ほう、何だ?」
別に無条件で受け入れても良いんだが、折角だからな。
「俺の結界に干渉してきた奴らのことなんだが、アイツらの処遇はどうなってる?」
「お前と同じ、式符没収のペナルティだな。調査の際にも嘘を吐き、他人に罪を着せようとしていた奴らの方が重い、五枚のペナルティになっている」
なるほど、やっぱりそういう感じか。
「それを無しにしてくれ。俺の目的は沢山の術を見ることだ。あんな奴らと言えど、本気の戦いを見られなくなるのは望ましくない」
多分、術師としても下の下な奴らだったとは思うが、だったらどうせペナルティ関係なく負けるだろうからな。それなら術を沢山見れた方が俺にとっては得だ。
「……ふむ、分かった」
「オッケーだな?」
天明はこくりと頷いた。
「その程度であれば容易いことだ」
「じゃあ、頼むぞ」
俺は席を立ち、この部屋を去った。
♦
夕飯の時間になり、食堂に集まると、昼よりも更にひそひそと俺のことが噂されているのが分かった。
「あ、あの……」
トレイを机の上に置き、席に座った瞬間、碧が所在なさげに話しかけて来た。
「どうした?」
「大丈夫……ですか?」
要領を得ない質問に、俺は眉を顰める。
「式符のことか?」
「はい……三枚も没収を受けたって聞きました」
やっぱりそれか。
「そうだな」
「やっぱり、本当だったんですね……おかしいですよ。悪いのは手を出してきた人達の筈なのに、老日さんだけペナルティを受けるなんてッ!」
「別に大丈夫だ。アイツらがペナルティを受けないように頼んだのは俺だからな」
「ど、どういうことですか」
俺は持ってきたカレーをライスと混ぜ、一口食べる。美味いな。
「取り敢えず飯を持って来い。美味いぞ」
「……分かりました」
今日は杏とは別行動か? 珍しいな。そう思っていた矢先、杏がやって来た。
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