呼び出し

 何やら騒がしくなっていた隣の部屋。嫌な予感はしていたが、俺も遂に呼び出されて隣の部屋に招集された。


「……つまり、俺が悪いって言いたいんだな?」


 壁際に座る四人の男と、そいつらから話を聞いたらしい三人の男……もとい、耶座母と陽能と赤髪の知らん奴だ。


「い、いやッ、わ、悪いって言うか、あ、いや、アレだ……」


「わ、悪いとは言ってない! お、俺は……」


 睨み付けると、口々にもごもごと言い訳をする四人組。しかし、三人は庇うようにその間に入った。


「待て、落ち着いてくれ! 今のはこいつらの言い分ってだけだ! 勿論、俺達はアンタの話も聞いた上で判断させて貰う!」


「僕もそうしたいと思っているよ。可能な限り、平和的な手段で解決したいともね」


「えぇ、そうです。先ずは落ち着いて、話して頂けませんか?」


 こいつらは俺を何だと思ってるんだ? ちょっと仮面を付けてるってだけで……いや、怪しいか。


「こいつらの話だと、俺は隣の部屋に敵が集まっているのを好都合と突然攻撃を仕掛けたイカレた仮面な訳だが、全く違う」


 ふむふむ、と赤髪の少年は真剣そうに頷き、耶座母はどこか楽しそうに耳を傾け、陽能はその歳には似合わないような胡散臭い微笑を張りつけていた。


「先ず、始まりは俺の部屋の結界に隣の部屋から干渉があったことだ」


「干渉?」


 聞き返す赤髪の少年に俺は頷く。


「あぁ。結界を無力化しようとする干渉があった。こいつらは俺が気付いていないとでも思ってたんだろうが、部屋の中に居た俺はずっとそれに気付いていた」


「そうなのか……!」


 反応が良いな、この赤髪。


「暫く経っても諦める気配が無かったから、脅しの意味を込めて霊術を使った。後遺症が残ったり、物理的に傷を負うような術は選んでない」


「それが、呪力を使った術か……」


 納得したように頷く赤髪。やっぱり、アイツらの説明は不自然なところが多かったんだろう。


「俺から話せる話はこれで終わりだな」


「聞いてた話と全く違うんけどよ……お前ら的には、どう思ってんだよ?」


 赤髪の少年が四人組に視線を向けると、彼らはバツが悪そうに視線を逸らしながらも口をもごもごと動かす。


「う、嘘だ……こいつが、嘘を吐いてんだよ……」


「お、俺らを疑うのか!? 煉治、俺達何回も話したことあんだろ!?」


 まだ俺を悪者に仕立て上げようとする四人。難しそうな表情をする赤髪……煉治と呼ばれた少年の後ろから耶座母と陽能が前に出た。


「もし嘘を吐いているなら止めた方が良いよ。お互いの言い分から、調べればどちらが正しいかは分かる話だってのは分かってるからね」


「しかし、仮面の方……老日さん、でしたか? 貴方の話が本当だとして、何故天明様等に相談すると言った手段を取らなかったのですか?」


 まぁ、当然の疑問ではあるな。


「俺の個人的な事情と言っても怪しいだろうからな……まぁ、正直に言うか」


 あんまり話したいことじゃなかったが、こうなったら仕方ないよな。


「俺は見ての通り陰陽師とかの界隈に居た人間じゃない。だから、この門人試合で出来るだけ多くの技を見てやろうと思ってた。それなのに、自分から相手の技を減らしに行くのは愚かでしか無いだろ? 不正行為のペナルティは式符の没収だって聞いたからな」


「……随分と、自分の腕に自信があるようですね? 陰陽師の界隈に居た人間でも無く、今回が初出場にしては」


 俺の名前もうろ覚えだった癖に良く知ってるな。


「まぁ、出身はハンターだからな。戦闘経験はそれなりにある方だと思ってる」


「……そうですか」


 陽能はそれ以上突っ込んで来ることなく、口を閉じた。


「あー、まぁ、取り敢えず大事なのはどっちの話が本当かってことだよな? この部屋から隣の部屋の結界に干渉してたなら……」


 そう言って、煉治は耶座母に視線を向ける。


「えぇ、任せて下さい。そう言ったことは私の得意分野ですから」


 耶座母は俺の部屋がある側の壁に近付き、その壁に手を触れながら目を瞑り、それから手印を結んでぽつぽつと術を唱え始めた。


「つーか、お前の話が本当なら四人がかりでも結界が破られなかったってことだよな……?」


 今更気付いたように呟く煉治だが、俺は反応せずに無視を決め込んだ。


「…………うん、分かったよ」


 すると、耶座母は立ち上がり、俺達の方を見た。


「正しいことを言っているのは、老日君の方だね」


「ッ、そ、そんな訳無いだろ!」


「で、出鱈目だッ!」


 耶座母の言葉に食ってかかる四人組。


「大体、お前はそこの仮面と一緒に飯食ってただろッ!」


「そうだよッ、信用出来ねぇよそんな奴! 肩入れしててもおかしくねぇ!」


 活路を見出したように喚き始めた四人組に、耶座母は溜息を吐く。


「そうかい。分かったよ。だったら、天明様に確かめて貰おうか? 態々嘘を吐いてまであの方の手を煩わせる覚悟があるなら、それを選べば良いさ」


 冷たく言い放った耶座母に、四人組は息を呑む。


「い、いや……」


「だったら、僕の調査に文句は無いってことで良いね?」


 睨み付ける耶座母。四人は意気消沈したように頷いた。


「とりま、俺らの方で先生……っつーか、何ていうんだ? 上の人達には伝えとくからな。どういう罰になるかは分かんねぇけど」


「しっかりと事実だけを伝えるから、安心してくれよ。四人共」


 自分の調査を嘘だと言われたことに腹が立っていたのか、耶座母は四人にプレッシャーをかけた。


「ッ! くッ、クッソ……」


 この期に及んで謝ったりしないのは逆に凄いな。まぁ、自由にすれば良いと思うが。


「取り敢えず、俺は帰って良いんだな?」


「ん、あぁ、大丈夫だ! 時間を取らせて悪かったな」


「いや、助かった」


 この赤髪は良い奴そうだ。単純そうにも見えるが。


「じゃ、後は任せた」


 俺はそう告げて、部屋を出て行く。陽能は黙り込んだまま、俺の背をじっと見ていた。

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