制裁
自分の部屋の中、ベッドの上に座り、目を閉じる老日。その部屋を覆う結界に干渉されていることに、老日は気付いていた。
「……こいつら、突き出した方が良いのか?」
目を開けた老日は、ベッドの横の壁を見て溜息を吐く。
(ペナルティは式符の没収とからしいからな……態々敵を弱らせるのは望ましくない)
出来るだけ多く、相手の術を観てやろうと考えている老日。結界に干渉している者達を天明やらに突き出すのはやめた。
「とは言え、このまま放置するのも……鬱陶しい」
気付かれていないとでも思っているのか、結界に干渉し続ける門人達。その正体がさっき杏について警告した男達とその仲間であると、老日は気付いている。
「俺を積極的に調べるのは正しいだろうけどな。いい加減、諦めろ」
老日は壁の方に手を向け、霊力を操った。
「『呪霊波』」
仮面から溢れ出す呪力を利用し、霊力の術と成して壁の向こうの部屋に集まっている男達に放つ。青黒い波動は、壁際に集まっていた陰陽師達に直撃した。
「ッ!!?」
「ッ、ぁ、ぁ……!?」
「ぃ、ぃっ、だ、ッ……」
無防備に結界にだけ集中していた彼らは、波動をまともに食らって恐怖に震え出した。
「い、いやだ……!」
「み、みえない……い、いや、見るなッ! やめろやめろやめろッ!!」
「誰かッ、誰か助けて! 出られないッ、出られない!」
混乱し、錯乱した彼らは部屋の隅で震え、布団の中に籠り、鍵の開け方も忘れて扉を必死に叩く。その様子が聞こえて来た老日は溜息を吐き、再び目を閉じた。
男達の部屋の扉を、どんどんと叩く音がする。
「大丈夫かッ!? 助けに来たぞッ、鍵を開けろッ!」
「あ、開かないんだ! 扉が開かないッ!」
「だから、鍵開けろってッ! 外からじゃ開けられねぇよ!」
「そ、そうだッ、鍵!」
ガチャリと鍵が開いたと同時に、勢い良く扉が開く。外に居たのは、赤い髪の少年だった。
「ひ、火伏の! 助けてくれ!」
「な……何やってるんだお前ら?」
床やベッドの上で転がり、頭を抱える男達。その様子を見て、少年は思わず眉を顰めた。
「何って……な、なんだ……?」
霊術によって制御された呪力によって精神に異常をきたしていた彼らは、時間が経ったことによって冷静になった。
「げ、幻覚……幻覚を見せられてたんだ!」
「違うッ、呪いだ! アイツ、呪いを使いやがったんだ!」
「助けてくれッ、助けてくれッ!」
「ッ、お前はいい加減に正気に戻れ!」
少年は未だに頭を抱えている同年代の男を叩き、漸く全員の精神を正常に戻すことが出来た。
「アイツだ……あの仮面のッ、老日勇にやられたんだッ!」
「そうだッ、殺されるところだったッ!」
叫ぶ男達。後ろを見ると、騒ぎを聞きつけたのか段々と人が集まっている。
「なぁ、何があったんだ?」
「殺されるとか言ってるぞ!?」
その様子を見て、少年は慌てながら両手を広げる。
「皆、落ち着いてくれって! 一旦、話を聞かないことには……!」
赤い髪の少年の横に、すたすたと歩いて来た少年が並ぶ。見た目としては、黒い髪をした可愛げのある幼い顔の少年。だが、それも年相応といった程度のもので、はっきり言えば平凡な少年にしか見えない。
「そうです、落ち着いて下さい。ここは……土御門家の直弟でもある私が話を聞きます」
自然と耳を傾けそうになる不思議な声は、霊力によるものだ。
「い、いやいや、俺が聞くって! 陽能、お前まだ十二とかだよな!?」
「煉治様もまだ十五と聞いております。三つしか変わりませんので、私にお任せ下さい」
にこりと笑って言う少年……文辻陽能に煉治は気圧され、一歩引いてしまう。
「どうしたのかな、皆」
しかし、そこで現れた男……耶座母に、陽能は心の中で舌打ちした。
「部屋の中で何やら騒ぎ立てておりまして、土御門家の直弟でもある私が代表して話を聞こうとしていたところです。耶座母様も、どうかお待ち下さい」
「あはは、そう言われてもね……十二の幼子に騒動を任せたとなれば、法少家の嫡男として名折れだ」
予想通りの展開に、隠しきれず陽能の眉が顰められる。
「だから、僕も一緒に話を聞かせて貰おう」
「俺も話を聞く。最初に来たのは俺だから、最後まで面倒を見る責任がある」
「……分かりました」
三人は部屋の中に入っていき、閉まった扉に他の者達はつまらなそうに解散していった。中には天明を探し報告しようとする者も居れば、この隙を狙って話している彼らの部屋に入ろうと思索している者も居る。
「大丈夫かな……大変そうだけど」
「他の心配をするよりも、自分の身を守ることを考えた方が良いわよ」
「え? 私の?」
「貴方の、というか皆そうよ。こうしてごちゃごちゃと場が混乱しているタイミングが……一番、事を起こしやすいでしょう? それに、気付いてないみたいだけど貴方は特に警戒されてる内の一人よ」
碧はこてんと首を傾げた。
「え、でも……私、今年が初めての門人試合だよ?」
「関係無いわ。歳が若くても、実力があればね」
碧が幼くして無数の悪霊を狩り、既に幾つもの任務をこなしているという功績は陰陽師達の中では既に公然の話となっている。そんな碧を普通の門人達が警戒するのは当然のことだろう。
「そうなんだ……じゃあ、気を付ける!」
「ふふ、そうしなさい」
杏は口元を袖で隠して笑い、それから騒動が起きた部屋の隣……老日の部屋を見た。
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