第5話 最後のピース

 和鳥栖を連れた家達が向かったのは裏門の方だった。

 彼らが通う高校は山の中腹にあり、裏手側を山林に囲まれている。また道も舗装されていない凸凹の田舎道であるため、こちらを好んで通る人間は皆無に等しい。


 裏門を出て、未舗装の道を進んでいく家達。雨が降ったのは三日前だが、山林が道に陰を落としているために今もなお湿り気のある地面だった。


「一体何を探してるんですか家達さん……?」


 訝しげな顔をしながら後ろをついていく和鳥栖。しかし家達は何かを探すのに熱中しており彼女の言葉は耳に届いていなかった。


 家達はしきりに山林の中を気にしていた。やがてハッと瞠目した彼は、そのまま一目散に山林の中へと駆け込んでいった。


「ちょっ、家達さん!? 何やってるんですか!?」


 狼狽する和鳥栖。自身も家達を追いかけようとして、しかし濡れた林の中に突っ込んでいく勇気を持てずにおろおろと躊躇う。


 結局、彼女が覚悟を決めるよりも早く家達の方が戻ってきた。

 さらに彼は、なにやら大きな物体を従えていた。


 ハンドルがついていて、シートがあって、ふたつのタイヤと、それからごく小さなエンジンを積んだ金属の塊。


「やっぱりあった」


 財宝を探り当てたトレジャーハンターのような笑顔を浮かべた家達が言った。


「それって、ひょっとして原付バイクですか……?」


 ひょっとせずとも、それはまさに原動機付自転車であった。


「犯人のバイク、ってことですか」


「もちろんそうさ」


 山林から引っ張り出してきた原付バイクのスタンドを立てると、またズンズンと道を進み始める家達。


 その後を追う和鳥栖。どうやら今度は未舗装路の方を気にしているようだった。土が剥き出しになっている凸凹の道を一生懸命に見つめながら家達は進んでいく。


 そして、やがて立ち止まった家達は非常に満足げな顔で和鳥栖へと振り返った。


「やっぱりそうだった。これを見てごらんよ和鳥栖くん」


 そう促されて、和鳥栖は家達の隣に並ぶ。彼の指差す先を見てみると、そこには奥行き約三十センチ程にわたり道を寸断するようにして横一線に伸びる黒々とした土の凹みがあった。


 黒々としているのは、どうやら濡れてぐじゅぐじゅに泥濘んでいるかららしい。


「何かしらの原因で山の方から水が流れてくるらしい。今でもこんな感じなんだ、三日前に雨が降ったときにはそれはもうドロドロだっただろうね」


「はあ……?」


 だからどうしたのだろう、と首を傾げる和鳥栖とは対照的に、家達は心底晴れやかな微笑みをたたえて言った。


「どうしたんだいそんな池の中の鯉みたいにぽかんと口を開けて。これで何もかもが明らかになったじゃないか。今僕らの前には、たった一択の真実だけが燦然と輝きを放っている」


「ええ!?」


 くりっとした両目を見開いて仰天する和鳥栖。そんな彼女を愉快げに眺めながら、家達は腕時計に目をやったのち、くるりと踵を返した。


「さあ戻ろう。そろそろ彼がやってくる時間だ」

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