第8話 『SAVE THE CATの法則』式、どの作品に似ているか
ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの法則』において、ログラインの次に重視されるのは「どの作品に似ているか」を言い表すことだと説かれています。
なぜ「スター・ウォーズのような映画」のような言い回しが必要になるのでしょうか。
同じものだけど違うものをくれ
映画の製作会社は集客力のある映画を作りたい。海の物とも山の物ともつかぬ脚本では売上見通しが立ちません。
であればなにを基準に脚本を買うのでしょうか。
その第一がログラインです。
この脚本がどのような物語なのかを十秒(一行)で社長に売り込むのです。
すると社長は興味を持ったとして、次の質問が返ってきます。
「それ、どの映画に似ているの?」
です。
このときよく知られた映画の一作(たとえば『レイダース/失われた聖櫃』)に似ています、と答える。
すると映画のテイストや集客力などを社長が思い出して、脚本を買うかどうか決めます。
つまり有名な作品に似た小説を売り込みたいなら、前例のあるジャンルで売れ行きのよかった作品に似ていることは大きな武器となるのです。
誰しも、私が書いているのは前例のない斬新な小説だから類例はない、と思ってしまうものです。
しかし、ブレイク・スナイダー氏は言います。「これまでの映画史で全く似ていない映画なんて存在しない」と。必ずいずれかの有名作に似てしまうものなのです。
だから悪あがきなどせず、はっきりと「あの作品に似ている」と公言できないと社長に脚本を買ってもらえません。
(先に申しますと、ブレイク・スナイダー氏は物語を10のジャンルに分けています。「〇〇に似ている」もこのジャンルのどれに当てはまるかを述べています。その例として他の作品のタイトルを挙げるのです)。
映画製作会社にしても『レイダース/失われた聖櫃』に似ているとわかっていれば、俳優を選びやすいですし、物語の流れもわかるし、結末も見通せる。
「計算が立つ」わけです。
私は異世界で「兵法」を駆使した戦記ものをよく書きます。
それらの作品を出版社に売り込みたければ「『三国志』に似ています」とも言えるわけです。
一般人にはわかりづらい「兵法」ものの物語(戦記)を伝えようとしたら田中芳樹氏『銀河英雄伝説』や吉川英治氏『三国志』に似ていると言えばイメージを喚起しやすいのです。
あれとこれを足したものに似ているはNG
「それ、どの作品に似ているの?」との問いに「『ドラゴンボール』と『ワンピース』を足したものに似ています」と答えてはなりません。
ふたつの作品のどの部分を活かしてまとめたのかがまったく伝わらないからです。
「天下一武道会を開催する『ワンピース』のような作品です」も同様です。そんな作品があるのだとすれば、適した映画が必ず存在するはずです。
だから「それ、どの作品に似ているの?」の問いには単一の作品を挙げるべきです。
そのほうが明確にイメージしやすいですからね。
あなたの小説に似た物語は必ず前例があります。問題はそれを見つけられるかどうかです。
よく読む人は売り込み上手
問題は「あなたの書いた小説がどの作品に似ているか」を知らない場合です。
書き手としてはまったく新しい小説を書いたつもりでも、広い出版界を調べれば必ず類例が見つかります。でもその類例がまったく思いつかないなんてことが起こりうるのです。
ブレイク・スナイダー氏は指摘します。巨匠スティーブン・スピルバーグ監督は何百という映画の構造をすべて把握していると。
名監督は名作のみならず、可能なかぎりの作品をチェックして売れる理由を分析しているものだ、というのです。
小説も同じです。
よい小説を書く人は、よく小説を読む人であることが多い。
あまり小説を読まずに小説賞を獲ってしまう人もたまにはいます。
しかしほとんどの小説賞・コンテストを勝ち抜く書き手は、ひじょうに多くの作品を読んでいます。
しかも自分の得意ジャンルばかりでなく、まったく関係ないジャンルも読んでいる方が多い。
「あなたの書いた小説がどの作品に似ているか」を知らないのは大問題です。
そういう作品を知らないで書いたわけですから、書籍化された作品に絞っても読書量が足りていません。
読書にお金をかけたくなければ図書館を利用するか、玉石混淆ではありますが小説投稿サイトでいろんな作品を読みましょう。
一度読んだ作品は構造を分解し、再構築してみて売れている理由を把握しましょう。
「それ、どの作品に似ているの?」
に答えられるくらいには読みまくるべきです。
もし小説を読むのがつらい方は、映画やドラマ、アニメやマンガ、ゲームなど、物語ならなんでもよいのでたくさん触れてください。そういう物語を分解して再構成して売れている理由を調べてみる。その蓄積で「それ、どの作品に似ているの?」という問いに答えられるようになります。
Web小説はサブカルチャーのひとつ
『カクヨム』を利用している方は小説好きな人ばかりではありません。
Web小説がサブカルチャーである以上、同じサブカルチャーであるライトノベル、マンガ、アニメとはひじょうに相性がいい。またドラマや映画に親しんでいる方も多いでしょう。
そんな読み手の方々に「これは、あの作品に似ています」と答えられれば「俄然読んでみたくなる」ものなのです。
私の著作に『昨日の君の物語』という作品があります(ご多分に漏れず勢いだけの駄作ですが)。この作品を売り込むときに「これは、マンガの弘兼憲史氏『課長島耕作』に似ています」と書きました。
これってひじょうにわかりやすいですよね。
女性と関係をもって交渉を有利にして立身出世していく物語。
細かな部分は違いますが、大枠は『課長島耕作』と同じです。
このように小説だからといって小説ばかりに「似ている」必要はないのです。
マンガだってアニメだって、いくらでも物語に触れられます。
一般文芸は紙の書籍を山ほど読まないと戦えませんが、サブカルチャーであるWeb小説はマンガでもアニメでも似ていれば種類は問わないのです。
それはWeb小説がサブカルチャーだからこそ、サブカルチャー好きに伝わる「それ、どの作品に似ているの?」であればよい。
「ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー氏『ライ麦畑でつかまえて』に似ています」と書いて『カクヨム』読者層に響くわけではないのです。
かえってわかりづらくて海外文学だからと敬遠されるかもしれません。
「それ、どの作品に似ているの?」
明確に提示できるくらいには、他の作品に数多く触れてください。
最後に
ログラインが完璧でも、それだけで読み手を第1話まで連れていくのは困難です。
紹介文の片隅にでも「〇〇のような作品です」のように書いておくと、読み手に作品のジャンルや魅力が伝わりやすくなります。
または「この作品は青春ラブコメです。」のように書いておく。こちらは他の作品名を出さずに、いかにそういう路線かがわかるように書きましょう。
脚本家が社長に脚本を売りつけるとき、ログラインで興味を持ったら「それ、どの映画に似ているの?」と問われます。
期待に応えられたらすぐに脚本を買って読み始めるでしょう。
それと同様「それ、どの作品に似ているの?」と思った読み手を満足させたらすぐに作品が読める状態が望ましいのです。
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