第7話 『SAVE THE CATの法則』式、キャッチコピーの書き方

 ブレイク・スナイダー氏は『SAVE THE CATの法則』の中で「ログライン」を提唱しています。


 社長とふたりでエレベーターに乗って、降りるまでの十秒の間でいかにして脚本を売り込むか。その手法をあれこれ解説しているのです。

 これ、別に映画脚本だけの世界ではありません。

 企業の営業職は、自社の製品を見ず知らずの社長に売り込まなければならない。しかもツカミをしっかりと行なわないとアピールしようにも受付すら突破できないのです。


 では十秒間で脚本を売るにはどうすればよいのでしょうか。

 そう十秒で落とせる「ログライン」の出番です。


 どんな主人公がどんな事件に巻き込まれてなにを得るのか失うのか。


 たったそれだけですが、社長に商品を売り込むにはじゅうぶんです。

 そこに必要なのは4つ。


1.皮肉(これはひねりといったほうがわかりやすいかな)

2.イメージの広がり(全体のイメージが思い浮かぶような背景)

3.観客層と製作費(脚本のドラマを誰に見せたいのか、それにかかる製作費)

4.パンチの効いたタイトル(「ログライン」なのにタイトルの重要性が説かれています)





1.皮肉

 たとえば「異世界転生」なら、

「異世界の貴族に生まれ変わって医学の知識で無双する」

 これ、皮肉(ひねり)がいっさいないですよね。

「ブラック病院から異世界転生して医学の知識で無双する」

 「ブラック病院」という皮肉(ひねり)が効いています。


2.イメージの広がり

「ブラック病院から異世界転生して医学の知識で無双する」

 これ皮肉(ひねり)はありますが、世界観のイメージが浮かびません。ですが、

「ブラック病院から異世界転生して医学の知識で世界統一します」

 と書くだけで舞台は一気に世界規模になります。単に「無双する」では世界観の広がりがないので、こぢんまりとした作品に見えやすいのです。


3.観客層と製作費

「ブラック病院から異世界転生して医学の知識で世界統一します」

 これだけだとどの読み手層が読むのか、いまいち掴めません。

「ブラック病院から異世界転生した中年医師は幼くも医学の知識で世界統一します」

 こう書くと「異世界転生」で鉄板のおっさんが出てきますので、対象年齢層は中年男性が想起されます。また「幼くも」で少年少女も想定できなくはありませんが、本質がおっさんなので読み手層はおっさん確定です。

 制作費は何部くらい売れそうだから刊行するのに数百万円かかるとして、プロモーションも含めてどのくらい回収できるのかを社長に印象付けなければなりません。

 売れないのに製作して赤字を抱える社長なら、早晩その出版社は潰れます。

 何部売れそうか、を高めに見せることができるのか。

 脚本だけでなく小説でも必要な要素です。


4.パンチの効いたタイトル

 タイトルは「どんな作品なの?」という質問を端的に表したものが好まれます。

 ダンス映画だから『フラッシュ・ダンス』、星間戦争映画だから『スター・ウォーズ』、成功率が極めて低い任務に就く映画だから『ミッション・インポッシブル』とどれも「どんな作品なの?」に答えています。

 現在のWeb小説では、タイトルに「どんな作品なの?」をてんこ盛りしてしまう人が多いのですが、昨今のアニメ化作品を見てもタイトルがあまりにも長すぎます。

 もちろん本来キャッチコピー側で行ないたいログラインに文字数が足りないから、ということもあります。


 先ほど作った、

「ブラック病院から異世界転生した中年医師は幼くも医学の知識で世界統一します」

 というログライン(キャッチコピー)をそのままタイトルにしている方が多いのです。


 しかしブレイク・スナイダー氏は品のない長いタイトルを嫌っています。

 短くてもその作品にピタリとハマる短いタイトルを重視します。長いタイトルには想像力が働かないからです。

 上記のログラインなら『クリニカ・クエスト』のようなタイトルですね。

 略して『クリクエ(栗食え)』なんて呼ばれるかもしれません。

 Web小説家は、ログラインをタイトルにすれば売れる、と思い込んでいます。

 これが『小説家になろう』のようにタイトルだけで勝負しなければならないのなら致し方ありません。

 しかし『カクヨム』にはキャッチコピーがあるのです。ここでしっかりログラインを書けたのなら、タイトルをログラインのままにする必要がなくなります。

 タイトルが長くなるほど、物語の結末がバレやすい。だから人を選びます。





最後に

 ブレイク・スナイダー氏が提唱した『SAVE THE CATの法則』はログラインをひじょうに重視しています。

 十秒で社長を口説き落として映画化を決めさせなければ、脚本家は商売にならないからです。

 たった十秒で社長を落とすには、作品の特徴を伝えて出資させるだけの一行のログラインが必要。

 『カクヨム』ではキャッチコピーがそれに当たります。

 他の小説投稿サイトのようにタイトル以外にログラインを示せない場合は、タイトルが長くなっても仕方がありません。

 しかし『カクヨム』ではログラインを書くためのキャッチコピーという欄が用意されているのです。

 『SAVE THE CATの法則』では、短くてもピタリと当てはまるタイトルが求められています。そのうえで「それってどんな作品?」に答えられるログラインが必要なのです。


 本創作論の「第1話 検索で生き残れ」ではキャッチコピーに検索タグを含めることを提唱しましたが、ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの法則』によれば「十秒で社長を落とすログライン」が求められています。

 「皮肉」「イメージの広がり」「観客層と製作費」の三つがログラインには必要です。

 そのうえで「パンチの効いたタイトル」であることを求めています。

 それを考えると「検索タグ」を用いながら、三つの要素を含んだログラインをキャッチコピーにする。という折衷案も導き出されます。

 どうにもキャッチコピーがうまく書けない方は、ブレイク・スナイダー氏の「ログライン」を参考になさるとよろしいでしょう。




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