第5話 書き出しの一話でさらに期待を煽る 2
前回書き出しに求められる基本的なものを書きました。
今回は後編にあたる「その2」です。
こういう細かいところに配慮すると、書き出しはもっとよくなりますよ。
作品のトーンや文体を統一する
物語が全体的にポップで明るいトーンであれば、第1話もポップで明るいトーンであることが求められます。
これは逆に言い換えるとわかりやすいかもしれません。
「シリアス」な第1話を読んだのに、終盤「コメディー」のような物語になると「思っていたのと違う」と思われやすいのです。
もちろん計算ずくであればかまいません。
「重々しく始めて、中間はポップに進み、ラストのイベントで当初の重さを振り払う物語だ」と計算しているのであれば、まだなんとかなります。
しかしただの思いつきでトーンを変えてしまうと、読み手の期待を裏切ってしまい、多くの脱落者を生みます。そして二度と同じ書き手の作品は読むまいとすら思われるかもしれません。
書き手には各々に向いた文体があり、向いた展開があります。
明るいトーンが合っているのか、暗いトーンが合っているのか。真面目なトーンが合っているのか、おふざけなトーンが合っているのか。
書き手は自らの文体や展開を活かすべきです。
あえて異なる文体や展開に挑戦し、見識を広めて引き出しを増やす段階であればどんどんトライしてください。
しかしある程度文体や展開が固まったら、そこから逸脱しないほうがよいでしょう。その得意な文体や展開の経験値が溜まらないからです。
だから、第一話のトーンや文体は、本編全体を象徴づけるつもりで書きましょう。
夢オチをしない
いわゆる「夢オチ」は絶対に避けてください。
第一話が夢の中からスタートしたら、物語が前に進んでいません。単に夢の中の出来事に過ぎないのであれば、読む意味がほとんどないのです。
どんなに過酷なイベントを経験しても、それが「夢でした」では肩透かしもよいところ。
中には「この夢が本編の鍵を握っている」と主張する向きもあるでしょう。
しかし真剣に興味深く読んできて、不意に「ここまですべて夢でした」といわれたら、普通は怒り出しませんか。
壮絶なイベントを経てたどり着いたのが単なる夢物語だった。誰もなにも犠牲にしていなかった。
これで納得できる読み手はまずいません。「なんだ、夢だったのか。よかったよかった」と思う人はまずいないのです。
こんな作品を読んでしまったら、もう二度と同じ書き手の小説は読まないでしょう。
あまりにもふざけた物語なのです。
いかにも「物語を書いた」気にさせますし、中には夢オチで成功した作品もないことはないでしょう。しかしかなり稀有な存在であることは間違いありません。
だから「夢オチ」だけは絶対に避けてください。
設定やバックストーリーは後回しに
物語の設定を入念にすると、どうしても物語の冒頭から設定を書いてしまいがちです。
しかし物語が始まる前のことや状況などの設定は冒頭に書かないほうがよいのです。
理想は主人公、その周辺(主人公がどこにいるのか)、脇役や対になる存在、小さなテリトリーくらいが第一話で提示されます。村や学校などの小さな組織レベルでよいところを広く大陸や王国の歴史や設定から始めてしまう人が多い。
書き出しは主人公にスポットを当てるべきで、ゆかりもない国王のことを書いても意味がありません。村や学校などの小さな組織レベルから、次話の展開で世界がぐんと広がる。それが最も効果的な世界の描き方なのです。
だから第一話から欲張って世界を広げても、読み手の意識が散漫になるだけで逆効果。
設定やバックストーリーを明かすのは物語が必要としたときだけです。
中には、膨大な設定とバックストーリーを用意しながらも、それをいっさい用いずに校了することすらあります。
たとえば家族構成や家族の職業を綿密に設定したとしても、物語にはいっさい出てこない、なんてことがざらにあるのです。
では家族構成や家族の職業を設定してはいけないのか。そんなことはありません。
設定してあることで、主人公に芯が出来てブレない人物像になります。
兄を溺愛する妹がいるのであれば、その妹を愛おしく思うのか疎ましく思うのか。
それによって家族ではない年下の女性に対する接し方も変わってくる。
まあこのくらいなら妹くらいは説明してもよいでしょう。
でも両親のことだったり他の兄弟のことを説明する必然性がありません。
「書かなければないと一緒」
これは事実です。
しかし「書かないことで存在する」場合もあります。
普通、学生が一軒家に暮らしていれば、年長の親族が存在していることを暗に意味します。書かないからといって存在しないのであれば、学生が一軒家で一人暮らししているのでしょうか。なかなかないシチュエーションですよね。
読み手それぞれの経験に委ねる
通学路を歩いているとき、どんな道かを事細かく書く必要はありません。
読み手にはそれぞれの通学路の思い出があり、山道を歩いているのか水田のあぜ道を歩いているのか、アパートの敷地を歩いているのか、オフィスビル街を歩いているのか。
どこを歩いているかは重要ではないのです。
もちろんそこが物語で決定的に重要となる場所であれば、書いたほうがよいでしょう。
しかし単に通学路を歩いているだけで、そこでなにかを考えたというのであれば、それはトウモロコシ畑でもさとうきび畑でもどこでもよいのです。
その場合は単に「通学路を歩いた。」と書くだけでかまいません。
あとは読み手が経験に照らして、住宅街を思い浮かべるかもしれません。
でもそこを読み手に投げることで、多くの読み手がそれぞれの通学路を思い描きます。そしてそれが小説では正解なのです。
「東京の通学路」と書くだけで、残り四十六道府県の読者を斬り捨てることになります。
とくに「異世界転生」「異世界転移」「VRMMO」などの場合、主要な舞台は異世界だったり電脳空間だったりしますよね。であれば現実が「東京」である理由はとくにありません。それなら都道府県を特定せずに、単に「通学路」と書くべきです。
第1話でいきなりブラウザバックされる理由をわざわざ作る必要はありません。
主人公の核心の問題を決める
よい書き出しにするには、主人公の核心の問題をどのようなものにするかをまず決めます。そうしなければオチがうまくハマらないのです。
「平凡な一日ほど贅沢なものはないと気づく」というとてもありふれている「主人公の核心の問題」があったとします。
最終的にこれを導き出すために、書き出しでどんなイベントを起こすのがよいのか。
たとえば「マンネリに陥って同じ毎日を繰り返していたときに、ふとあることを始めようかと考えた」とします。そこで誕生日ケーキを贈って喜ばせようと思ったのだけど、相手は糖尿病で食べられない。「ありがた迷惑」になってしまい、トラブルとなって仲が険悪になってしまう。マンネリを打破したいと考えてアクションを起こしたけど、トラブルに見舞われて窮地に陥る。見事に「フック」が成立しています。
また、書き出しの段階で「主人公の核心の問題」を匂わせることもできます。「平凡でいいじゃん」と読み手に思わせれば、物語の核心を読み手に意識させられるのです。
そういう視点から書き出しを定めると「首尾一貫した骨太の物語を読んだな」という感想が浮かびます。
最後に
前回と今回で書き出しの一話が見えてきたでしょうか。
もう少し書きたいところなのですが、長編の「青春ミステリ」に挑戦しているのでまとめる時間が確保できないのです。
早めに執筆を開始して、さっさと応募したいところですね。
そのためにも、今日この創作論をアップいたしました。
次は来週にでもできればと考えております。
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