第3話 書き出しの一文ってとても重要 2

会話文はフックにしづらい

 設定が書けなくなると、人は会話文に逃げます。地の文が悪手だと勘違いするからです。

 しかし読み手は一般的に「会話文」を読むために第1話をクリックしたのではありません。

 この物語が、自分を煽っただけの物語なのかどうかを見極めるために第1話をクリックしたのです。

 それなのに「会話文」からスタートされたら、面白そうかどうか判断がつきかねます。

 そもそも誰が誰に対して発した会話文なのかがわからないのですから。


 だから、書き出しの一文が会話文だと、いったん棚上げして続く文から誰が誰に対して発した会話文なのかを把握するまで、書き出しの一文が確定しません。

 これって読み手にやさしくありませんよね。

 そんな効率の悪い小説を読み続けるほど、読み手は忍耐強くないのです。

 読み終えるきっかけを探している読み専さんが、わからないものを読み続ける理由なんてありませんからね。


 すべての会話文が禁止なわけではありません。

 ただ初心者の作品で会話文からスタートすると、たいていはつまずきます。

 とくに他愛のない会話からスタートしてしまう初心者が殊のほか多いのです。

 「期待を煽られて」やってきた読み手は、他愛のない会話からスタートされたら急に冷めてしまいます。そしてブラウザバックして他の作品へと興味が移るのです。


 また逆に、物語の核心を会話文で示してしまう中級者も多い。

 「波乱のない人生が一番だよね」

 という会話文を読んだら、あなたならどう思いますか。

 おそらく波乱に満ちた物語を経て最終的に「波乱のない人生が一番だ」と気づく物語だと最初からネタバラシされたようなもの。

 このような会話文は、読み手の読解力を疑っているに等しいのです。または書き手にそういう物語だと読み聞かせる腕前がないと主張しているのかもしれません。


 いずれにせよ「物語の核心を会話文で示す」のは悪手です。


 とはいえ、どのような物語なのかは紹介文に書いてありますから、それについて第1話の中で「地の文で書き及ぶ」のは善い手です。



 ですが、どうしても会話文でスタートしたい、という方もいらっしゃるでしょう。

 その場合は「紹介文までに煽ってきた内容を書く」ようにしてください。



 「なにが起こっているんだ」とか「ここはどこだ」のような会話文は「これから設定を書きますよ」という合図であって、うまい書き出しではありません。


 異世界転生なら「危ない!」から始める方も多く、そのあとに子どもや猫を助けるために行動してトラックに轢かれる描写を書いていく。

 でも「異世界転生」ならすでにトラックに轢かれてこれからまさに異世界転生するところから始めるべきで、会話文からスタートするのは陳腐ですよね。


 読み手としてはトラックに轢かれる場面を読まされても「だからどうした」ですよね。とくに異世界転生ものを読み慣れている人にとっては。

 であればすでにトラックに轢かれたあと、女神様の前で転生について話している場面から始めるのがよいでしょう。



 なにかの小さな任務に就いていて、それをクリアするための会話文、というものもあります。

 この小さな任務が物語を動かすのに必要不可欠なら「グリーン、ここから高台へ向かって駆け抜けて敵を引きつけろ』と書けなくもありませんが、これも設定を書いているにすぎません。


「これから任務を開始する。総員配置につけ」

 なにかが始まろうとしていますね。「謎」が含まれていますし、上司が部下に命令しているのが明確なので、今までの会話文の中ではいちばんましです。

 どんな任務なのかはわかりませんが、なにかが始まるということは読み手に伝えられます。

 そして紹介文で「巨悪に立ち向かう元システムエンジニアの異世界転生ストーリー」と煽っていたら、この任務はそれにどう関係してくるのだろう、と興味は継続します。つまり「フック」になっているのです。



 例外なのが「追放もの」です。

 書き出しの一文が会話文で「お前、クビな」といきなり宣告されてしまう、というものがあります。

 これは「追放もの」の様式美で、物語が始まっていきなり「クビ」にされます。それが読み手へ「この小説は追放ものですよ」と知らせる合図になっているのです。

 「なぜクビになったのか」という謎が含まれているため、フックとして機能します。



 とはいえ、会話文スタートの多くの場合は、その会話文を削除しても成立するものが多いのです。書き出しの一文が「蛇足」となってしまっては意味がありません。





寝起きから書かない

 小説を書き慣れていないと、つい寝起きからスタートしてしまいます。

 私も書きましたからね。


「目覚まし時計が鳴っている。そういえば今日は登校日だったな。腕を伸ばしてアラームを止めると、二度寝へといざなわれそうになるが、なんとか振りほどいてベッドから抜け出した。」


 これ、読んでいて面白いですか。フックになっていますか。


 確かになにも知らない真っ白な状態が寝起きと相性が良さそうではあります。

 しかし実際に相性がいいわけではないのです。


 ほとんどの読み手は「バカにしているのか」と感じます。

 寝起きスタートは小説を書いている感がとても強いのですが、実際には駄文を連ねているにすぎません。


 たとえば「誰かに気絶させられて、なんとか目を覚ました」状態であれば、誰に気絶させられたんだろう。なぜ気絶させられたんだろう。という謎があり物語が進んでいるぶんまだましです。

 でも「ここはどこ」という状況説明がどうしても必要になるので、あまりオススメは致しません。

 単なる日常の睡眠からの寝起きには価値がありません。物語がなにも進んでいないからです。


 類例としては、小鳥のさえずりが聞こえる。朝の陽射しがまぶしくて目が覚める、などがあります。いずれもそれまで眠っていて、意識が戻るきっかけのバリエーションにすぎません。

 つまらない展開なのですぐにやめましょう。





読みたいのは物語の進行

 ここまで見てきて、書き出しの一文に求められるものが見えてきましたね。

 「謎」があって「物語が前に進んでいる」ことです。停滞は最も嫌われます。


 会話文が禁止されやすいのも、たいていは「物語が停滞する」から。

 誰が誰に対して言葉をかけているのかわかるまで「物語」は停滞します。


 物語が前に進んでいるのであれば、会話文でもかまいません。「物語を進行」させるトリガーになりさえすれば。

 「追放もの」で「お前、クビ」の書き出しは、それによって物語が前に進む珍しい形です。

 でもほとんどの会話文は「物語を停滞」させます。


 そういう書き出しは「フック」になっていないのです。


 書き出しで設定を披露したり、周囲を見渡したり、寝起きだったりしても意味がありません。どこにも謎がなく、物語が進んでいないのですから。


 書き出しの一文では「物語が前に進んでいる」ことを重視してください。

 そして謎が含まれていると、第一文で見切られることも少なくなります。





最後に

 書き出しの一文がフックになっているか。

 それが第一文で見切られるかどうかを左右します。

 「気に留める」ような「謎」を含む一文です。

 単に周囲を描写するだけではまったくの無意味です。

 読み手が読みたいのは紹介文までに「煽られた内容」に関する情報です。

 どんな主人公なのか、どんな状況なのか、どんなイベントなのか。

 「煽られた内容」と合致し、かつ謎を残すこと。

 そうすれば読み手は第二文以降を読みたくて仕方がなくなります。




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