閑話:最終話:あなたとなら『唯編』

「……ぇ」


「……」


「ねぇってば」


「うお!?」


 気づけば俺は電車に乗っていた。


「ちょっと、大丈夫?」

「……あぁ、わるい、ボーッとしてたみたいで」

「ふーん?私の話も聞かずに、いいご身分ね」

「悪かったって唯、じゃあ、何か食べに行くか?」

「! 行く!」


 電車が駅に停まり、少しの抵抗と揺れを感じながら、手すりにつかまる。

 今日は平日で、まだ早い時間ということも相まって、電車の中はそこそこ空いていて、二人が席に座る余裕はあった。


「ねぇ、どこ行く?」

「今日あまり手持ちに余裕ないからザイゼな」

「……はぁ、久しぶりにあんたから誘ってくれたと思ったら」


 やれやれ、と彼女は呆れた顔をする。

 その横顔も可愛い。

 服装はいつもの制服だが、彼女が身につけると、ありきたりな格好も雑誌にのるようなオーラに早変わり。

 それが、インフルエンサー、Yuiである。それに彼女は。


「ねぇ、指、絡めてもいい?」

「随分急だな。まぁ、いいけど」

「えへへっ」


 ほっそりとして、きめ細やかな女性的な指。

 ケアには随分気を使っていて、手入れも容易ではないのだと、前に言っていた。


 指を絡めるだけでは満足しなかったのか、そのまま腕を絡めて俺の肩に頭を載せて体重をかけて寄りかかってくる唯。


「おいおいインフルエンサー、誰が見てるかわからないぞ」

「いいじゃん、別に。だって、ねぇ」


 嬉しそうな顔をしながら、勝ち誇った声色で最近彼女が成し遂げたことを告げる。


「私はんだから」

「なぁ、それそんなに重要?」

「重要よ。なんたって私はあなたのを勝ち取ったんだから。愛美にも、千年ちとせにも、桜子にもできなかった偉業をね!」

「はいはい」


 生まれてこの方、一度もときめくことがなかった俺の心が彼女を選んだ。そのことが随分嬉しいらしい。


「彼女が喜んでるんだから、一緒に喜びなさいよ!」

「理不尽な……」

「えへへ」

「ははは」


 楽しい。正真正銘、恋しくて付き合った二人。

 その事実がオレの心の隙間にそっと溶け込んで。


 きっと、形は人それぞれなんだろう。


 静江唯には唯の形が。


 愛園愛美には愛美の形が。


 枝垂桜子には桜子の形が。


 五光ごこう花札はなふだには花札の形が。


 金田イチコにはイチコの形が。


 百年ももとせ千年ちとせには千年の形があった。


 きっと、どんな形でも、俺に合うようにできていた。


 きっと、彼女たちの誰を選んでも、誰を好きになっても、俺はこんな気分になれたのだろう。


「今度、みんなでパーティーをやりましょうよ」

「集まる理由は?どんなのにする?」

「祝!みんなの初失恋&私たちが付き合った記念!」

「一度みんなに殴られろ、お前は」


 そうだ、俺たちはこうして、馬鹿みたいな理由で集まって、ただ集まりたいだけだろ、とか、そんなんだったら理由つけなくていいだろうが、とかくだらないことを言い合って。


 最初は誰が決めたんだっけ、こんなこと。


 ―――そうだ、思い出した。


「忘れ無いように、ちゃんと永遠も呼ばないとな」


 あのイタズラ好きだ。

 ずっと俺と一緒に馬鹿やってくれた、たった一人の親友。


「…………………………永遠?誰それ?」


「…………………………え?」


 不意に、頭が殴られるような衝撃で、俺は夢から目覚めた。






 ◇◇◇◇◇






 廊下から響く電話の音で目を覚ました。

 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


「んっ、っぁあ!誰だぁ?……もしもし?」

『もしもし祐希くん?いま平気?』

「平気だけど、どうした?」

『こんど、私たちの学校って野外学習で海の近くに泊まりに行くでしょ?』


 急にそんな事になっていたなと、今更思い出す。


『それでね、次の土曜日にみんなで水着を買いに行かないかって』

「あぁ、そういうことか。俺は空いてると思うぞ」

『良かった!じゃあ、また明日!詳しくはお母さんの方に伝えておくわ』

「はーい、また明日な」


「……ふう」


 随分とタイムリーな人と話をしたな。


「唯と付き合う、か……」


 なんとも言えない罪悪感があるな。

 俺なんかと付き合うなんて、地獄だろ。


「……でも、幸せそうだったな」


 夢の中で見た唯の横顔は、普段俺が見ているよりもずっと安らかで幸せそうに見えた。


「……永遠」


 ポツリと、俺の親友の名前を呼ぶ。

 もちろん返事をする声は聞こえない。それでも、呼ばないとどこか消えてしまいそうに思えて。


「……永遠」


 少し、しんみりとした空気の我が家。今は俺一人しかいない。


『はイ、もシもシ?』

「……………永遠」

『……どーしたヨ、ゆーき。私の声が聞きたくなっちゃったのカ?』


 いつもの調子で俺に応える永遠の声に、ホッとしてきて、つい腰が抜けてしまってその場に座り込む。


「いや、何でも無い。今からそっちに遊びに行ってもいいか?」

『いいゾー、いつでも来ナー』


 今はこれでいい。

 いつか俺も恋をするのだろう。

 でも、今じゃない。それだけははっきりと分かる。


 だけど、永遠には、ずっと俺と親友であって欲しい。

 そんな我儘わがままを考えながら、俺は受話器をもとに戻した。


======================================

 次回からは唯編に移りますといったな、あれは嘘だ。

 まぁ、嘘ではないのですが、ちょくちょく永遠成分を混ぜながらになると思うのです。

 作者の最推しは、永遠ちゃんなので!


 ハートとフォロー、星で評価、よろしければギフトもよろしくなのです(乞食)

 後コメントをしていってくれるのが一番嬉しいのです(乞食)


 作者の別の小説もみてくれると嬉しいのです。

【無糖(ブラック)よりもビターなダンジョン攻略配信生活を!】

 https://kakuyomu.jp/works/16817330657687571430


【親友の物語に出てくる、主人公を導く謎の案内人になりたい親友くんが、いつの間にか主要キャラクターになってた話】

 https://kakuyomu.jp/works/16817330658336020991

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