第20話:1本との青薔薇と2つの蕾
「腹減ったし、どっか食べに行こうぜ」
「あァ」
映画を見終わり、祐希も泣き止んだところでなにか食べに行こうという話になった。
「何食べに行く?」
「いや、任せるヨ」
今日は祐希に任せるという日にしようと決めたのだ。
まぁ、どう転んでも文句は言わないでおいてやろう。
「そう言われると困ったな……」
案内板の前で真剣な表情をする祐希の横顔を眺めているだけで、普段感じている不安や、今までの後悔なんかはどうでも良くなってくる。
「……んじゃ、ここ」
そう言って祐希が指さしたのは、比較的安価で楽しめるイタリアンだった。
まぁ、子供にしては妥当なチョイス。あとでよしよししてやろう。
祐希は子供扱いするなと怒ると思う。その反応をこれからの糧とするのだ。
―――我ながら気持ち悪いな……
「いいんじゃないカ?祐希にしてハ」
「オレにしては、は余計だよ」
「ニャハハ」
ひとしきり祐希をからかった後で、私たちは件のイタリアンに向かった。
◇◇◇◇◇
「結構混んでるな」
「まァ、じかんがないわけじゃないシ、気長に待とうヤ」
「それもそうだが……むぅ」
休日だからか、目的の店は人だかりで賑わっていた。
家族連れ、大学生たち、カップル。
ふと、今の私たちは、周りからどう写っているのかが気になった。
同じことを思ったのかどうかは分からないが、祐希もしきりに周りをキョロキョロ見ている。
「あ〜、えっと、伝えるの忘れてたけど、ワンピース、似合ってる」
「……………そうカ」
祐希に褒められた。その事実が私の頭の中を支配し、満たす。
今までに感じたことのない幸福感で満ちている私の表情は、酷いものになっているだろう。
ぐにゃぐにゃと歪む口の形、その近くの両頬を軽く2回叩き表情をリセット、素面に保つ。
「……ニャハハ、そういうのはもっと、唯とか愛美とかに言うべきだナ」
口ではそう茶化しつつも、私の心は嬉しいでいっぱいだった。
「でも……嬉しいヨ、ありがとう」
「……おう」
直接感謝の言葉を言われることになれていないのか、少し頬を赤くして。
そんな祐希が可愛くて、もっと虐めたくなってしまう。
「……可愛い」
「んなッ!?」
とりあえず、今自分が思っていることを口に出してみることにした。
予想通り、更に顔を赤くした祐希は、赤くなった顔を隠すように私から顔を背けた。
―――可愛い!
「可愛いゾ!ゆーき!」
「うるせぇうるせぇ!」
「ニャハハ、照れてんのカ?このこのぉ〜」
「だ〜鬱陶しい!ほら!席空いたみたいたぞ!」
残念、祐希いじめはここで一区切り。
店員さんに案内されて、私たちの席に向かう。
「お、あったあっタ、間違い探し」
「ん〜?初戦子供だましだろ?」
「ザイゼの間違い探し、侮ることなかれ、だゾ」
―――10分後
「全っ然見つからねぇ、ほんとに10個あるのか?ほんとは9個だったりしないか?」
「ニャハハ!それだったらゲームとして成立しないヨ」
「いや、わからんぞ。もしかしたら10個目が無いことが真の間違いかもしれん」
「んなわけ……いや、あるのカ?実ハ……」
そんなくだらないことを話しながら、私たちのデートは続いた。
◇◇◇◇◇
「……永遠、今回の遊びは、どうだった?」
「……最っ高に楽しかっタ!」
一日のプランが終わった後、俺たちは噴水前の広場にきていた。
例のアレについて、いつ渡すのかめちゃくちゃ悩んだ。
……こういうときに自分でやらないのは違うよなと思い、自分のやり方で渡すことにした。
「永遠、俺の友達でいてくれて、親友でいてくれてありがとう」
「……ニャハハ、急にどうしタ?」
「いつも俺のそばにいてくれて、笑ってくれて、励ましてくれて」
「……」
流石におどける場面じゃないと思ったのか、いつもの飄々とした態度を改める永遠。
「思えば俺、永遠に何も返せてなかったと思う」
「そんなことハ―――」
「いや、これは俺の心の中の問題だよ」
少し、照れくさくなって顔を背ける。
「今回、俺一人では何もできてない。このことを相談したときに、チケットを用意してくれたのは母さんだ。プランを考えてくれたのは唯と愛園だし、これから渡すプレゼントを一緒に選んでくれたのもクラスの女子達だ」
「……」
「でもさ、これを伝えずに終わるの話だと思った。結局俺は永遠に何も返せなかった。だけどさ―――」
カバンの中からプレゼントを取り出す。
「これは、俺が選んだものだ」
選んだのは、青いバラの髪飾り。
大きく咲く青薔薇と、二つの蕾がきれいに飾られた、露店から買った世界に一つの贈り物。
「どうかこれからも、俺の親友でいてくれますか?」
最後の言葉を言い切ったとき、これではまるで告白みたいじゃないか、と顔を赤くしてうつむいた。
やはり、永遠にはこのバラみたいな女子向けのものはウケなかっただろうか。
「……どうダ、ゆーき」
「!!!」
顔をあげると―――
髪飾りを付けた、永遠がいた。
やっぱり似合う。バラの青は、と葉の瞳の色と限りなく同じで、これを付ける人は永遠しかいないと、思った俺の通り。
「ほら、新しい
「!、あ、あぁ……最っ高に会ってる!」
「ニャハハ!」
気恥ずかしさなど、とうに失せた。
ただ、この一瞬を、親友と―――永遠と過ごせたから、それで良かった。
◇◇◇◇◇
祐希からプレゼントを渡された後、現地解散となり、噴水前で、私は幸せを噛み締めていた。
―――あぁ、幸せだ。
なのに。
『……ねぇねぇ』
酷く懐かしい声が聞こえるのは、なぜだろう。
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