第19話:恋をするんだ
ヒロインは、原作漫画やアニメでフォーカスが当てられることなく退場した主人公の幼馴染に当てられた。
つまるところこれは舞台裏の世界であり、その時このキャラクターはどうしていたか、というストーリーだ。
果たして原作で人気がなかったキャラクターを主役にして人が来るのか、という疑問はあったが、映画に来る人達は皆この漫画やアニメが好きな人達が集まってきており、実際、俺たち以外にも見に来ている人で他の席は埋まっていた。
「―――ねぇ、私やっぱり潤くんのことが好き!」
場面は中学校の放課後の図書室。件の幼馴染の鈴が、メインヒロインである女の子、桃から衝撃の告白を聞かされるところから始まる。
「―――そうか」
「うん、それでね!鈴ちゃんに私の恋を手伝ってくれないかなって」
しかし、鈴は桃が主人公に恋するずっと前から主人公のことを思っていたのだ。
彼女はその気持ちを押し殺す。
「―――あぁ、協力しよう。私がその恋を叶えてやる!」
「ほんとっ!?」
やった、と桃は跳ねんばかりに心を高鳴らせ……対称的に、鈴の心は昏く、儚く砕け散る。
断る、ということはしない。
彼女にとっては桃も大切な親友だったから。
「やっぱり私の親友は鈴ちゃんだよ!」
「っ!」
鈴は一瞬表情を暗くする……が、親友の協力を得たことで胸がいっぱいの桃はそれに気づくことはない。
「あっ!私もう行かなきゃ!」
「あぁ、また明日な」
「また明日!」
図書室から桃が去っていき、この場には乾いた紙の匂いと、桃の制服の柔軟剤の匂いの名残が残った。
「……うん、これでいい。私じゃ、だめなんだ……きっと……」
誰にも伝わらないくらい儚く、弱々しい声が響くことなく震えて消える。
フラフラとした足取りで図書委員専用のカウンターに腰を下ろす。
目の前にあるのは、先程ももが来るまで修理していた一冊の本。
本のタイトルは……『失恋のおくすり』。
今の鈴にぴったりな、優しい本のハズが、今だけはその表紙がいじらしい。
この痛みを、前進するための力に変えよう。
私はこのまま黒子になろう。
本編で語られたが、事細かには記されなかった、舞台の裏話。
鈴が主人公に恋心を寄せているというのは本編ですら語られなかった。
単行本の幕間で、どうってこと無いように言われた情報。
サラッと流された、一人の、ヒロインにすらなれなかったキャラクターの情報。
作者によると、この子はヒロインとして登場する予定だったが、その後出てくるヒロインたちに立ち位置を食われそうになったから、渋々サブキャラクターとして登場させざるを得なかったらしい。
ちなみに俺はこの子を推しにしている。いいよね、不憫キャラ。
隣を見れば、永遠が食い入るような目でスクリーンに見入っていた。
少し口を開けて、その事に気づかずに、必死で。
その姿が、なぜか遠く見えて……
どこか悲しげで、安心しているように見えた。
◇◇◇◇◇
「んっ、ん〜〜〜、いやぁ〜良かったナ〜」
「あぁ、結局こうなるのかっ、ぐすっ」
長時間座っていた自分の体をいたわるように伸びをする。
祐希は……映画が終わってからずっとこんな感じだ。
「いい加減泣き止めヨ」
「だっでぇっ……!」
映画は結局桃が結ばれてハッピーエンド。
しかし原作はまだ終わっていないので、これは一つのIFルート、という扱いになるのだろう。
―――私にぴったりな、そういう都合がいい終わり方。
鈴の悲恋な恋は、他人事には思えなかった。
ちらりと、隣りにいる祐希を見る。
ポケットティッシュを使い切る勢いで消費していくその姿は、どこかくすっと笑える滑稽さで……
……いつか、私も祐希に恋をするのだろう。それを、物語的都合とは思わない。
正真正銘、私の思いで恋をするのだ。
「でも、今は」
祐希に届かないくらいの声量でつぶやく。
「……ほら、ハンカチ」
「ありがどう」
今は、この距離感が心地良い、そう思えたから。
私だけは、一生をかけて祐希の隣に立てるように。
私はゆーきに。
唯野祐希に恋をするんだ。
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