第14話:私たち(原作オタク)のアイドル☆

「わ……ァ……ァ……」

「泣いちゃった」

「どこのち○かわですか……」


 おもわずそんなツッコミが出るほど、永遠ちゃんの精神はズタボロになってました。

 アイドル泣きとか、生まれて始めてみました、3回位。あ、今4回目になった。


「ぐすっ、今週に入ってからまだ一度もゆーきと会話してなイ……」

「したじゃないの、『あぁ』とか『うん……」とか」

「そんなの会話に入らないノ!は!い!ら!な!い!ノ!」

「あぁ!はいはい!」


 え、最初に会ったときのお姉さま然とした永遠ちゃんはどこ行っちゃったの?

 私たち原作オタクのお姉さまを返してよ!ねぇ!ヒロインの心の拠り所を返してよ!


「……ねぇ、愛美ちゃんの方から怨恨に近い視線を向けられてるから早く戻って、早く。私、ここ、居たくない、OK?」

「……分かったヨ」


 そして永遠ちゃんはフードを深く被ったかと思うと、バッとフードを脱ぎ―――


「……ニャハ☆」


 人差し指を一本ずつほっぺに当てて、あざと笑顔を作った。


「「ふぐッ(絶命)」」


 そんな永遠ちゃん最推しの前に崩れ落ちる私たち原作オタク。しかしその顔には感謝と後悔があった。


「あんたねぇぇぇぇぇ!!!???そういうのはもっと色々撮影機材が揃ってるところでやりなさいよぉぉぉぉぉ!!!」

「カフッ、ヒュー、ヒュー、レアスチル獲得ッ!悔いはない!です!」


 鼻血を抑えながら叫ぶ私たちを引いた目で見る永遠ちゃん。その目もいいなぁ。


 今のは!ファンの間で都市伝説と謳われているレアスチル!

 通称『吹っ切れたアイドルスマイル』!

 取得条件は祐希と永遠の好感度が高い状態で、祐希に10日を超えて放置されること。

 このスチル獲得の難しいところはそもそも祐希が永遠を放置するという行動が天文学的にレア。

 当時の私は『お前ら仲良すぎだろぉぉぉぉぉ!!!てぇてぇんですけどぉぉぉぉぉ!!!でもそっちじゃねぇぇぇぇぇ!!!』ってめっちゃ叫んでた。まじで。


「あっ!奇跡的にカメラに写ってる!」

「ほんと!?でかしたわ愛美ぃ!100万まで出すわよ!出世払いで!」

「……いや、この喜びは共有するものです……(送信音)」

「愛美ぃ!あんたって人はッ!はぁぁぁぁ……毎日この笑顔で生きていける」

「い き が い に し ま す」

「人の笑顔で取引しないでもらえまス?」

「あぁ、その呆れ顔もいいわ……」

「推しの表情の変化をリアルで見れる……最高」

「もう、駄目ダ(恐怖)」






 ◇◇◇◇◇






「ごめんな、付き合ってもらって」

「いいんだよ!人に送るプレゼントえらぶって楽しいし!」

「そうそう!」

「あっ!コレいいんじゃない?」

「かわいい〜!」


 うーん、田中さんたちに相談を始めてから10日立った。

 相談、したのだが。


「あっ!このリボンきゃわいい!」

「え!どれどれ〜」

「あ〜!たしかに似合いそう!」

「え〜 でもこっちのほうが似合いそうじゃない?」

「「わかる〜!」」


 うん、女子という生き物はどうしてこんなにも買い物が好きなのだろうか。永遠は……その女子にくくってもいいのだろうか、あいつ、少し男勝りと言うか……

 それはともかく、永遠が喜びそうなのってなんだろう。


 ゲーム……は喜ぶと思うけど、いかんせん今の年齢では流石に高い。


 ならば、カバンはどうだろう。でも『見た目より機能性!』とか言って無地の肩下げ使ってたし……


「ねぇ、唯野くん」

「ん?」


 伊藤さんがオレに話しかけた。


「唯野くんは、ちゃんと江戸川ちゃんのことみてあげてる?」

「うん、だからこうしてプレゼントを―――」

「プレゼントを渡すことが目的なの?」


 どういうことだろうか。


「恩返しがしたいんでしょ? なら、プレゼントを渡してハイ終わり、じゃだめじゃない?」


 その時、詰まってたものが一蹴され、涼しい風が吹き抜けたような、うまくいえないけど、そんな感じが、たしかにしたんだ。



「……俺って、永遠のことあまり知らないんだな」


 今まで、誰よりも永遠を知っているという自信があった。


 好きなこと、あいつ、俺の横顔を見るのが好きって言ってたな。


 好きな景色、山登りした時の、ちょっとした小道の写真をずっと撮ってた。


 好きな食べ物、甘いものが好きだけど、意外とジャンキーで味がしっかりついてる食べ物が好き。


 好きな遊び、一緒にやるスマブラが一番楽しいと言ってくれた。


 朝、俺と一緒に学校に行くのが好きで、一緒に給食を食べるのが好きで、何をするわけでもなく、ダラダラするのが好きで―――


「……馬鹿だな、俺」


 この10日間、何一つできてない。俺は永遠に恩返しをすることに

 恩返しをすることが目標じゃないんだ。自分の気持ちを伝えることが大事なんだ。


「……うん」

「わかった?」

「あぁ、俺にも選ばせてくれ」

「「「もちろん!」」」


 なるべく早い方がいい。そうだな、次の土曜日なんてどうだろうか。


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