閑話:第一話:あなたにも当たり前の恋バナを

「最悪だ……神様……俺が何をしたっていうんだ……」


 とある高校の秋、教室、そこで俺は机に突っ伏して頭を抱えていた。

 なぜかって?理由は?そんなもの、今自分の口で語るのも辛い。


「ッ!」


 不意に声が聞こえてビクッと上半身を跳ね上げ前を見る。


「…‥なんだ唯か…‥脅かすんじゃねーよ」

「あら、ごめんなさい」


 全く悪びれる様子もない俺の女友達の目から顔を下にずらし、机に顔半分を押し付けながら問う。


「何しに来た」

「ここで泣いてる人を慰めてあげようと思って」

「泣いてねぇよ」


 これは本当の話だ。だって俺は―――


「生まれてから一度も恋をしたことがない」

「……わかってるなら来なくていいだろ」


 恋という感情が、家族愛や隣人愛、それこそ友情と同じような類のものではないと、重々理解している。しかしそれがわかったところで何があるのだろうか。

 目の前にいる少女にこの思いを吐露したところで何が残るのだろうか……


「本当にしたこと無いの?」

「……無いな」


 一瞬思考の海に意識を浮かべたが、恋らしき描写はどこにもなかった。いや、もしかしたらあれがそうだったのかもしれないが―――


「…‥何?そんなに私のこと眺めちゃって、もしかして見惚れてた?」


 口に右手を近づけクスクスと艶っぽい笑いをこぼす、これが彼女の癖だ。その手の裏側をまじまじと見つめ……………


 うん、やっばわからん。この学校のミスコンに推薦されるほどの美貌を持つ彼女だが、俺にとっては友達という認識しかないのだろうか、それよりも見つめられてる彼女の方の顔色の方がどんどん微妙になって行く、ん?どうしたのだろうか、なんだかどんどん顔が赤くなって……


「〜〜〜ッ!いつまで見てんのよ!」

「ぐふッ!?」


 彼女の手刀が俺の頭に突き刺さった。


「何すんだよ!」

「こっちのセリフよ!」


 はぁ、とため息をつき、おもむろにスマホを取り出す。あれ!?そういえば今日は自分が好きなラノベの発売日だった!ええい、こんなくよくよしている暇は無い。


「ごめん俺ちょっと用事できた」

「はぁー、どうせラノベでしょ、いいよ、付き合ってあげる」

「いや、お前が一緒にきたところでどうにかなるわけじゃないから『ドシュ!』痛!?何すんだよ!?」


 再び唯の手刀が飛ぶ。今度は立ち上がろうとした俺の動きの分の力も、プラスされてより高い力として俺の首を落としに来た。


「あのねぇ、今のは「サンキュー!やっぱお前がいてくれた方が楽しいわ!」とか言いながら仲良く教室を出るところでしょうが!」

「しらねーよそんなの!」


 言い合いながらも咳を立ち上がり、帰りの準備を済ませたままおいておいたバックとサブバックを持って廊下に出る。

 その後ろから荷物を回収した後ついてくる唯、本当に同行するつもりなのだろうか。


「だから、女の子にモテてすぐ告白されくせに長続きせずに、別れ話に直結するような恋愛しかできないのよ、もっとラノベ主人公を見習いなさいよ」

「大体が鈍感で女心をわかってないハーレム野郎どもじゃね―か」


 そういうやつに限って俺TUEEEEしてるチーレム主人公なんだよな。


「バカね、私が言ってるのはラブコメにおけるラノベ主人公よ」

「……………言うてじゃね?」

「確かに!」


 ふと、廊下の窓から差してくる夕日が気になり、そちら側に顔を向ける。


 ……そう言えばここから見る景色が好きとか言っていたような。


 何の変哲もない、街の風景。少し高い位置にあるこの学校は、周りに広がる家々を一望するには何ら困らないわけだ。


 なにか未練があるわけでもないが、たしかにきれいだなと思いつつ、ちょっとだけしんみりするような、そんな思い。


「何私の前で他の女の子と考えながらセンチメンタルになってるのよ!」

「いて、だから叩くなって!」


 こいつは本当に何なんだろうか。


「……分かった」

「……何がだ?」


「私があなたに教えてあげる」


 ずばっと俺の方を指差し、宣言する唯。


「何を?」

「……さあね、そんなことより、早く行こ?」

「あぁ……」

「お礼はスタダのキャラメルフラペチーノでいいわよ」

「割に合わないな」


 しかしこのときの俺は知らない、まさかあんなことになるなんて―――






 ◇◇◇◇◇





「ッ!?ハァッ―――!?」


 深夜、は自室のベッドの上で目が覚めた。

 体中寝汗まみれで気持ち悪い。


「―――?」


 今見た夢は何だったのだろうか、夢にしてはリアルで、だいぶ成長していたが唯らしき姿もあった。あとは―――


「―――あれ?」


 思い出せない。思い出そうとすると、まるで霧をつかもうとしてるみたいになくなっていく。どうして、大事なことのように思えたが、すぐにその大事なことも忘れてしまう。


「……水飲みにいこ」


 そっと自室のドアを開けて、廊下に体を滑り込ませる。

 静かに歩こうとしても、どうしても、こっ……こっ……と音がなってしまうが、コレで起きることはないだろう。逆に、いけないことをやっているような空気感にドキドキしてきた。慎重に階段を下りる。俺の家は、二階に俺と一個歳の離れた妹の部屋、それと両親の部屋がある。俺は小学生になったから一人で大丈夫と両親と話して、一人で寝ているが、妹は年長さんだからまだ両親と同じ布団で寝ている。


「……」


 キィィィィ……とリビングに続くドアを開け、ダイニングキッチンへ。踏み台を利用して食器棚に手を伸ばす。落としても割れないようにと、透明なプラスチックの軽いコップを選ばされたが、なかなか見た目もよく、かっこいいからそのまま使っているコップを手に取る。


 冷蔵庫の一番下の棚から水のペットボトルを取り出す。コレも両親が、2L入りはまだ重いからと、1L入りペットボトルに移し替えてくれた水を取る。


 ゴキュゴキュゴキュと水を飲み干す。あまり飲みすぎてはいけない。もう小学生だから、おねしょで両親の世話になるわけにもいかないので、トイレに行き手を洗う。


「……本当に何だったんだろう」


 その後、その夢で永遠が出てこなかったことをちょっぴり寂しく思いながら部屋に戻った。


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