第11話:もう一つのあなた達とここだけの私
「あ!とわちゃんおはよ〜!」
「おはよ〜とわちゃん!」
「あァ、おはよ「とわちゃんちょっといい!?」オ〜〜〜!!!???」
クラスメートに挨拶している途中、慌てた様子の唯に手を引っ張られ、そのまま昨日の空き教室に入った。鍵を使って扉を開けて、中に押し込まれる。
「鍵なんてどこにおいてあったんだヨ」
「実は私の机の中に最初っから入れてあったのよ」
「管理ぃ……かナ……」
「そんなことよりも」
「そんなことよりも?」
悪い方向にいけば先生の減給処分になる問題を他人事のように……いや実際他人事か、ならいいや。
「あなた、あな恋についてどこまで知ってる?」
「ん?だからそれは昨日確認しただロ?私達があな恋について憶えてることはキャラクターくらいしかないってナ」
「そっちじゃなくて、経緯よ」
「経緯?」
そう言われてピンとくるものはない。
「あな恋って実はギャルゲーだったって知ってる?」
「あァ、ギャルゲーのシナリオライターだった涙目朋原作の漫画だロ?たしかそのゲームは内容が重すぎて販売停止、リメイク扱いの漫画版は全部ハッピーエンドを踏むことを約束して、ようやくOKが出るくらいの悲惨さだったとカ」
「ええ、私それをプレイしたことがあるの。そしてそのギャルゲーに幼馴染ポジションが出てきたのよ、ぜったいに報われない系ヒロインとして」
「え゛、まさカ……」
殆どわかっていた、しかし認めたくなかったその問いに、私の思いを察してか、重々しく口を開ける。
「そのまさかよ、この世界、ギャルゲー側だったかもしれない」
◇◇◇◇◇
「だァ〜〜〜!!!???最悪!!!」
「流石にコレは予想外だったわね……」
だが私は悪名高きギャルゲーを知ってるだけでやってはいない。
「悪いガ、漫画世界……長いからPルートと、ギャルゲー世界、Gルートの違いの説明をしてくレ、憶えている限りでいい」
「何?PルートGルートって」
「私が好きなインディーシューティングゲームにそういうのがあるんだヨ」
「へぇ〜」
興味なさそうだな……ヨシ、今度やらせてどっぷり沼に浸かってもらおう。向こうの世界にあったゲームはだいたいあるからな。
「わかったわ……とは言っても大きく違うのは基本設定ね、まず、ギャルゲー世界だから、いろいろぶっとんでます」
「いきなりざっくりとしてるナ……いろいろっテ?ヒロインが死ぬとかカ?」
「死にます」
「……死因は?暗殺者に追われる〜とカ」
「追われます」
「なにか非科学的なものに襲われる〜とカ」
「襲われます、
「……旅行先で連続殺人事件とか起きるとか無いよナ」
「起きます」
「流石に神様的な存在とかはいなイ……………」
「います」
「何でもありだナ!!!???」
海老反りになって頭を抱える。
「後はそうね、私達一人ひとりがハンバーグって感じ」
「主人公ってことカ、理解。あとお腹すいてるのカ?龍角散分けてやろうカ」
「私ハッカ系苦手なのよね……じゃなくて、内容としては、作中で登場するヒロインたちから一人決めて、そのキャラを操って最終的に主人公から告白イベント、通称『最後の審判』で告白されるように仕向けるっていうゲームで、その設定が斬新で受かったような企画だったらしいんだけど、各ヒロインの死因やバットエンドがそれぞれ最低2つ、多い人で3つあってね」
「なにそれ普通に怖イ」
ガタガタと震える。コレは本心からこの状況に恐怖している。
「昨日ニュースで最近あった脱走騒ぎについて報道されてたでしょ?」
「あぁ、あったナ……」
「あれって実は何年か後に私たちが通う学校がジャックされるっていう伏線になっていて、その時行動できなければヒロインが一人か二人死ぬわ」
「世も末!!!」
今度は身体を前に曲げて思いっきり叫んで―――ハッとなって口に手を当てた。
「ダイジョブよ、この教室、何故か私達以外に知覚されていないらしいわ」
「何だそれ、ジ◯ジョ第六部にそういう雰囲気のス◯ンドいたような気がするがそれカ?」
「似てるけど違うわね、件の神様の仕業よ」
「hahaha! oh,my god……」
乾いた笑いを出しながら顔の前で十字を切った。
「あと、主要キャラにはそれ相応の『何か』が配られるわ、流石にどんなのかは憶えてないけど」
「すっごい怖いんだガ……」
「最後に、あなたにとって重要なこと、っていうかコレ以上思い出せてないわね……」
思い出せてない。そんな一見あやふやな言葉に違和感を覚える。
「思い出せてなイ? と言うよリ……なんでこんな大事なことを忘れていタ? 私がいただロ。思い出すには充分だったはずダ」
「それがわからなくて……昨日の夜、永遠ちゃんの自己紹介カードを見てたら突然思い出したの。まるで、今までの記憶に蓋をされていたかのように……」
「件の神様に記憶の蓋を制御されているとでモ?」
「……フラグ、じゃないかしら」
「ん?」
「多分だけど、思い出すにはきっかけがいるのよ。私が今回のことを思い出したのは、原作にしかいない永遠ちゃんのことを強く考えたことで起こった」
「思い出すにはそれ相応のきっかけがいル……?」
「それとね、永遠ちゃんに言っておくことがあって……」
一瞬苦虫を噛み潰したかのような表情をした唯は、一つ深呼吸をした後こう告げた。
「その、幼馴染ポジションの子……一つしか無いエンドで死ぬことにになってるわ」
『最後の審判』での出来事が原因でね。と言った彼女は、コレ以上憶えていない自分を攻めるかのような顔をしていた。
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