第10話:『私』の家族
「―――じゃ、また明日な!」
「あァ、また明日」
ゆーきに別れを告げて自分の家の鉄柵の隙間に身を滑らせる。今更ながらゆーきの家は私の家の一軒となり、お隣さんというやつだ。
「ふゥ―――ただいま!」
「おかえりなさい!どうだった?学校!」
「それ昨日も聞かれたゾ、マーム」
私の言葉に返事を返してくれたのはマーム―――もとい江戸川茜だった。元女優で若々しさは今も健在、流行に強く、着こなせば大学生と言われても通用しそうな見た目を誇っている。
あと……デカい、どこがとは言わないが、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる、他のママ友の追随を許さない圧倒的プロポーションを持っていた。いつか私もこのくらいになるのだろうか、いやぁ、怖くて怖くてたまらないヨ……
「上々ってとこかナ、友だちもできたし」
「へぇ〜〜〜!あの引っ込み気味だった永遠が!女の子?それとも、ももももしかして男の子!?だめよ知らない男の子とあまり仲良くしちゃ!?」
「女の子だヨ……っていうかなんで男の子だとだめなんダ?」
「それはお母さんが昔ね………………う、ううん、何でも無い!―――――――――ボソ(それにあまり他の男の子と仲良くしてちゃ浮気になっちゃうじゃない!)」
「?なんか言っタ?」
「う、ううん!なんでも無いよ!……何でも無いですよーっと」
そのままベランダの方にフェードアウトしていくマーム。
一体何が言いたかったんだ?
「おねぇ!」
「ん〜?おぉ〜円ァ〜」
私が帰ってきたことに気づいたのか、とっとこかけてこちら側に寄ってくる円が視界にに映る。
にぱぁ!と効果音が付きそうなくらいの満面の笑みで私の方に駆け寄ってくる愛きょうだいをみていると、自然と私まで笑顔になってしまう。
「おねぇ!がっこー、どーだった?」
「がっこー?楽しかったヨ〜」
「いいなぁ、ぼくもがっこいきたいなぁ」
「円はまだ1年先だナ」
「えぇ〜〜〜!?まどかもおねぇとがっこーいきたい!いきたい!」
「後一年の辛抱だヨ〜」
「いけるかなぁ?」
「だいじょーぶだヨ〜、おねぇちゃんはあと6年学校に通うからナ、円とは5年間一緒に学校に行けるからナ〜」
「ぶぅぅぅ〜〜〜………」
お餅みたいに頬をふくらませる円を、おもわず抱きしめながら頭をゆっくり撫でる。あくまでなだめるように、はねた髪の毛を撫でるようにゆっくりと。
「ホラ、そんな顔しなイ、おねぇちゃんは笑ってる円が好きだナ〜」
肩を持ったままちゃんと相手の目を見ながら顔を合わせる。きょうだいだからこそ許させる距離感をちゃんと保ってあげることで承認欲求が満たされる……かもしれない。
「……ほんと?」
「あァ、ほんトほんト」
「……わかったー」
そのままきたときと同じとっとこ音を立ててお部屋に戻っていく円、何かを思い出したかのようにくるりと私へ振り向いたかと思うと駆け寄ってきて私に抱きつき。
「まどかも……まどかもおねぇのことだいすき!!!」
と上目遣いで、百点満点の笑顔で言ってきた。
「ヴッ(昇天)」
まだ平たい胸を抑えながら気味が悪いくらいグニャグニャと弧を描いた口の口角から赤い液体を流す。あぶねぇ、もう少しでお迎えを受け入れるとこだったヨ……
「っあァ、おねぇちゃんも円のこと大好きだゾ」
「ほんと!?じゃあまどかたちはそーしそーあいってこと?」
「あァ!」
「……えへへ」
満足したのか、今度こそ部屋に戻っていく円。
「そーしそーあい……うへへ……」
その口元が少し不気味なくらいにグニャグニャとニヤけていたのは永遠の目に入らなかった。
◇◇◇◇◇
『昨夜0時頃、〇〇市〇〇町にある××刑務所で、脱走騒ぎがありました。犯行現場には、曲がった格子檻が残されており―――』
「永遠〜、お風呂入りなさ〜い」
「はーイ」
プツッと音を立ててテレビの電源が消える。
リビングからお風呂に行く道中、廊下で、プルルルルと電話の音が響いた。
「あレ?この番号っテ……」
ガチャと音を立てて受話器を取って、「もシもシ?」と声を出す。
『あ、えと、私、とわさんの友達をですね、えと、やらせていちゃじゃ、う゛うん、えーとですね、いた、いただ、い・た・だ・い・て・い・る!』
「永遠は私だゾ」
緊張し過ぎじゃないカ?
『あ!え!?うそ!?じゃなくてぇ……もしもしとわちゃん!?ちょっと大変なこと思い出しちゃったんだけど今大丈夫!?』
「ん〜?空いてると言えば空いてるガ?」
『そう?実はね『唯〜?ちょっといい〜?』待っておかーさん!いま大事な話してるから〜!『お母さんの方が大事だから早くきて〜』ッもう!明日学校で話すわ!」
「あ、あァ」
ぶつっと音を立てて電話が切れる。
「なんだったんダ……?」
「ただいま〜」
「ん?おかえリ〜」
「おぉ、永遠!今日は昨日仕込みをやっておいたハンバーグだよ!」
「ほんト!?ヨシッ!」
「おねぇ!おふろいっしょにはいろ!」
「あァ!いいゾ〜」
そういえばお風呂に行く途中だったなと思い出し、愛するきょうだいと一緒にスタスタ浴室に向かった。
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