第5話:入学式と一人目のカノ

 更に時は流れ、入学式当日。


「……桜だ」

「……桜だナ」

「ここが……学校?」

「……あァ、そのはずダ」


 幼子には大きい、大きい校門をくぐる子供と、その手を繋ぐ大人。


 ―――キュウッと、心臓が縮こまる感覚がした。


「……とわ?どうした?」


「……」


 ……小刻みに震える右手を左手で抑える。その場にしゃがみこみたい気持ちを必死に我慢する。

 今すぐに……今すぐにここから逃げ出せたらどんなに素晴らしいことだろう。今すぐにこの場所から飛び立てたのなら、どんなに。


「大丈夫か?」


「……………あァ」


「二人とも、こっち来て!写真取るよ!」


 校門のすぐ横、入学祝いと書かれた看板の隣に、永遠の両親と祐希の両親がいる。


「……いこう、とわ」


「……んっ」


 手を……つなぐ。冷え切った指先と心に、陽光が刺すような感覚がする。


 ―――あたたかい


 果たしてこのぬくもりを、そんなありきたりな言葉で言い表していいものか。


 ―――今だけは許してくれるよね


 誰かが許さないと言っているわけではないけど、なんとなく許しを請いたいような、そんな気分だ。


「あの、すみません~写真お願いしてもいいですか?」


「いいですよ」


 家族連れの中のひとりに声をかけて写真を取ってもらう。


 まずは二家族全員で。


 次に、祐希とその家族で。


 そして―――永遠と……その家族で。


 最後に永遠と祐希で。


 初めと終わりは、手は繋いだままで。


 この写真は永遠の一生の宝ものになることを、祐希はまだ知らない。






 ◇◇◇◇◇






 さて、クラス表見るか、と、それと同時に小学校で接触するヒロインを一人紹介しよう。


「おれ1組だ、とわは?」

「……1組だナ」

「しゃあ!いっしょ!」


 ―――そして


静江しずえゆいも同じクラスか……)


 静江しずえゆい、この物語における正ヒロインってやつで、通り名は恋心クラッシャー。祐希のことが好きすぎるあまりに、告白してきた男のメンタルをこっぴどく折ってきた実績がある。


「?どうした、友だちの名前でも探していたのか?」

「ん?あ、あァ、だいじょうぶダ、なんでもなイ」

「ふーん?」


 そのままの足で教室に向かう。「学校ってこんなかんじか!」と終始ワクワクしている様子に頬を緩ませながら、件の教室に足を踏み入れる。


 と、思い出した。ここでこの世界に来て初のフラグ回収になる。一歩右後ろに下がって(なんかあるのか?と不審そうな目を向けられたが)見届けなくては。


「ん?うおっと!?」

「きゃ!」

「うわァ!?」


 急に飛び出してきた女の子にぶつかり、後ろに倒れ込む祐希、しかしこの世界の修正力が凄まじく、永遠も巻き込まれる形で転倒する。


「っ!いったぁ!だれだ?」

「わわわっご、ごめん!ごめんだけど、急いでるから――――――!ボソッ(わっ、生ゆうき!)」


 バタバタと音を立てて走り去っていく女の子……もとい静江唯。この出会いは、後に二人の初対面として、過去編で描かれることになる、ストーリー的には一番最初に起こったとされる描写だ。


「っ!おい!いいかげんおきロ!おもいんだヨ!」

「うおっごめん!」


 そこに永遠が巻き込まれる必要はあったのだろうか、疑問である。


======================================

 ハートとフォロー、星で評価、よろしければギフトもよろしくなのです(乞食)

 後コメントをしていってくれるのが一番嬉しいのです(乞食)


 作者の別の小説もみてくれると嬉しいのです。

【無糖(ブラック)よりもビターなダンジョン攻略配信生活を!】

 https://kakuyomu.jp/works/16817330657687571430


【親友の物語に出てくる、主人公を導く謎の案内人になりたい親友くんが、いつの間にか主要キャラクターになってた話】

 https://kakuyomu.jp/works/16817330658336020991

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る