第3話:決意
私があいつと出会ったのは3歳の頃のことだ。
当時、私はまだ俺のときの踏ん切りができてなくて、向こうでやり残した未練とか、少なくても確かに存在した友達のことを考えていた。
前世との齟齬に吐き気を催したことも何度もあった。
まぁ、要約すると、めちゃくちゃ荒んでいた。今だったら確証を持って言えるが、当時の私はこの世界がどんな世界なのかもわかっていなかったし、もしボロを出して、今の見た目にふさわしくないことをしてしまったら何を言われるのか想像に難くない。
そんなことも相まって、めちゃくちゃ年相応の態度をしていたのは少なからず丸であった。
そんなとき―――
「ねぇ、ひとりでなにをしてるの?」
「たそがれていタ」
「? なにそれ?」
「こどもにはわかりがたいことばだろうナ」
「なにそれ、きみもこどもじゃん」
「きみよりかはおとななんだヨ、もう、おれ―――わたしにかまうナ」
少しきつい言い方になってしまったが、今でも謝るつもりはない。だってそうだろう、誰にも相談できない、したくても信じてもらえない話になるから。
父親も母親もまだいまいち認識できてない。今となってはきょうだいの
人は信用できないと言ってはいるが、少し人から離れたかったのが本音だ。だけどこいつは―――
「やだ」
「ハ?」
何を言ってるんだろうかこの子供は。いま明確に俺はこいつのことを否定したはずだ。何なんだろうか、子供だから言っていることが理解できないのだろうか。その理由は―――
「ともだちひゃくにんつくるってやくそくしたから、おかあさんと」
「―――プッ!」
「ぷっ、ニャ、ニャハハハハ!」
「わ、わらうことないだろっ!」
「ぷっ、くくっ、わるイ、おもわズ」
いやぁ、いるもんだな、ひとりはこういうやつが。
「で?いまなんにんめなんダ?」
「―――とりも」
「ん?」
「まだひとりもともだちいない!」
「えぇ……それでよくわたしにはなしかけれたナ……」
「だってひとりだったから、おれとおなじなのかなっておもって」
「あぁ……」
わかるぞ、俺も中学校入ってからそうだったから。いやさすがに早くね?すご、最近の子って。
「おれ、だれにもはなしかけれなくて、それで―――っ!」
わーんと、突拍子もなく泣き出してしまう彼。俺は慌てて鎮める。
「―――どうするのがもくひょうなんだっケ?」
「ぐすっ……どもだちひゃぐにんづぐるごと」
「まず鼻かめヨ……」
俺が差し出したティッシュでブ―――と音を出して鼻をかむ。
「じゃああと99にんだナ、つきあうヨ」
そう言って俺、いや私は彼に手をのばす。それを一瞬キョトンとした目で見た後、大きく見開き、「うん!」と返事をしてから私の手を握る。
「そういや、なまえきいてなかったナ、わたしはえとかわとわダ」
「!、おれただのゆーき!よろしく!とわ!」
「いきなりなまえよびかヨ、まあいいヤ、よろしくゆーき!」
コレが私とゆーきの腐れ縁の始まりだった。でも———
確かに私は、ゆーきに救われたんだ。
◇◇◇◇◇
「……」
鏡の前に立ち、目を閉じる。
あれから約3年、私はゆーきという人間に違和感を感じていた。どこかおかしな印象を得たわけではない。人見知りなくせに積極的で、自身があるのに落ち込み気味で。……たまに見せる本気の顔は元男である私がドキッとしてしまうくらいにかっこよくて。
私という人間はゆーきのことを知りすぎていると感じた。
そこで気づいた。前世に読んでいた漫画の主人公にそっくりなのだ。あな恋の只野祐希に………
それからの理解は早かった。そして、仲良くなるのも早かった。
だって私は、ゆーきの好物、好きなこと、嫌いなこと。
どんな場所が好きで、何をすることが好きで、誰といるのが一番良いのかがわかっているから。
そんな時、ついこんなことを思ってしまった。ぴったりじゃないか。あまりにも良くできすぎている。運命を疑った。
「わたしはただのゆうきのまけヒロインになル」
声に出して宣言する、そうでないと気後れしてしまいそうだ。
理由は単純、当時推しであった負けヒロインの気持ちを理解したいから。それと———
「このせかいでのわたしのやくわりは潤滑剤……」
悲しむのは1人でいい。『負けヒロイン』は私だけでいい。
……まず始めることは自分を好きになることからだった。
俺は鏡が嫌いだった。昔の自分と比べてしまうから。
どれだけ努力しても、整形を除いて顔は変えられるものではない。それが今はどうだ、大手アイドルグループも裸足で逃げ出すような美少女だ。
父親は現役の警察で母親は元女優モデル、ここまで恵まれた環境はそうないだろう。髪色もおばあちゃんの血を引き継いできれいな亜麻色、目の色もウルトラマリン、ほんの少しだけたれた目尻が優しい印象と勝ち気な表情を両立させ、目尻にある泣きぼくろが幼いながらも妖艶さを醸し出していた。形の整った小さい鼻、桃色の唇、白く、それでいて白すぎない肌、このまま成長していけば美女になるだろうな。
そう、私は自分についてどこか他人事なのだ。実際そうなのだろう、この世界が漫画の世界だと実感した次の日から視線を感じて眠れない夜が時折あった。そもそも自分が本当に高校生だったかの確認もできていない、そんな設定を与えられただけなのではないかと思ってしまうと怖くて眠れない。
でも、彼を見ているとそんなことどうでも良くなってくる。だってそうだろう?彼が原作にない動きを見せるたびに安心できるから。
この世界はただの創作物じゃないって言ってくれてるようで。
「……」
目を―――開く。
そこには無愛想な表情をした美少女が立っている。
コレが今の私だ。
そして―――少なくとも私を嫌わないでいてくれる彼の顔を思い出しながら、無色のリップを唇に塗った。
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