第42話 軍勢のドン
(おぉ…、すっごいな…)
夢の中のあの女性から受け継いだスキル、【氷獄】。
説明によれば、範囲にいるすべてのモノを凍結させるという、規格外じみた効果。
魔力はめちゃくちゃ持ってかれるものの、今目の前に広がる光景を見れば全くもって妥当な対価だとわかる。
(みーんな凍っちまったよ…)
眼前に構えるは、巨大な氷塊。
もはや氷山と言ってもいいのではないかというくらい、大きなそれが道いっぱいに存在している。
そしてその中には、先ほどまで元気よく俺に襲いかからんとしていた、アンデッドの軍勢が。
まるで剥製みたいにそのままの姿で閉じ込められていた。
(完璧に一網打尽だもんなぁ、だいぶ強いぞこれ)
棺桶と化した氷塊に触れてみる。
触るだけでもかなり分厚く、頑丈であることが窺える。
こんなのに閉じ込められたら、絶命間違いなしだろう。
(スケルトンの彼女に、これを打たれなくて良かったな……)
夢の中では思慮深そうな彼女だったけども、アンデッドの時は理性なんかなく、お構いなしにぶっ放してきそうだった。
もしこれを使われたらと考えると、ない肌が粟立つよ…。
(さて、雑魚をやっつけたところで大広間へと戻りたい、んだけど……)
気を取り直して本題へと戻ろうとするが、新たなる課題が今発生してしまった。
最初の計画ではアンデッドの行列について行って戻るんだったが…。
しかし今目の前に佇む氷塊。
それがアンデッドを凍結させてしまっているどころか、道自体を閉鎖してしまっている。
凍結解除とか、そういう器用なことはできそうもない。
天井との間に少しだけ隙間はあるが、入り込めるはずもなく。
(せっかくの手掛かりだったんだが……)
振り出しに戻ってしまった。
まぁ、まだこの軍勢は残っていそうだし、気長に探せばまた遭遇できそう…か。
とりあえず切り替えていくしかない。
(…引き返すか)
ここまでの道のりで分かれ道はいっぱいあった。
手当たり次第に潰していけばいずれ辿り着くだろう……たぶん。
ということで、氷塊から踵を返して、来た道を戻る。
────その時。
(!!?)
首にかけたペンダントが、突如として光を放つ。
そしてその光は小さな球状に帯び始め、ペンダントとから独立する。
そうしてできた光の玉が、眼前でフワフワと浮遊している。
(な、なんだ…?)
何が起こったんだかさっぱりだ。
彼女のペンダントにはまだ何か仕込まれていたのか…?
光の玉は不安定に浮遊しながら、ぼんやりと俺から離れていく。
まるで、ついてこいとでも言いたげな様子で。
混乱は収まらないものの、とりあえず後を追ってみる。
直進。
右。
直進。
左。
左。
右。
あまりにも予断したかのように、迷いなく光の玉は進んでいく。
いったいどこに向かっているのかすらわからないが───。
(あ、でもそういえば)
夢の中の彼女の、『ペンダントが導いてくれる』という発言。
【氷獄】といったスキルを獲得して新たな道を切り拓いてくれる……みたいな意図で言ったのかと思っていたんだが…。
もしかして、本当に導きという意味なのではないか。
(あれって道案内みたいな意味だったの…?)
まさか直々にナビゲーションしてくれるとは。
死者が案内してくれるというと少し聞こえが怖いが、こんなことができるなんてびっくりである。
……でも、最初からやってくれれば良かったのに、というのは少し傲慢だろうか。
あ、いや、もしかしたら俺がチンタラしているから、「さっさといけ」という意思表示なのかも…?
(だとしたら、なんか申し訳ないな…)
とりあえず彼女に聴こえているのかもわからない謝罪をして、光の玉が導くままに進んでいく。
そして────。
(おぉ…、本当に着いた…!)
結果から言えば、例の大広間に戻ってきた。
途中、導きが止まったり右往左往したり、アンデッド軍団が凸ってくることもあったが、まぁ難なく到着できた。
広間の様子は、少しだけ変わっている。
多種多様なアンデッド達が、一律にお行儀良く並んでおり。
目の前の大きな扉を見つめている。
先ほどよりも数は増えていそうだ。
やはりこの空間のアンデッドが集まってきているのだろう。
(いったい何が行われようとしているんだ…?)
奇怪すぎる光景に、俺は疑問符を浮かべるしかない。
……その一方で、俺を導いていた光の球体は、わなわなと震えていた。
恐怖か、はたまた怒りか。
そも感情を持っているのかもわからないけど、そんなふうに小刻みに揺れている。
(もしかして彼女の意思が───?)
────突如として、ざわっと空間が響めく。
もちろん、それは話し声等によるものではない。
一斉に、アンデッド達が跪いた音だ。
立ちん坊だった死体達が、前に向かって一息に膝をつき、地を見つめている。
より一層に俺が疑問符を頭に埋め尽くす中、何やら前方に、何かがツカツカと横から歩いてくる。
現れたのは、おそらくゾンビ系統のモノ。
しかし、凡百なそれとは違うオーラを放っていた。
冠を被り、色褪せてはいるもののかつてはゴージャスだったことが窺える服に身を包んでいる。
右手には杖のようはものを握っており、その先端は禍々しく捻れている。
この宗教じみた光景を加味すると、まるで教祖のような出たちであった。
(アレが、この集団を操っているドンなのか…?)
てっきり、話に聞くアンデッドドラゴンとやらが取りまとめているのかと思ったのだが。
眼前の情報からだと、どうもそれは違かったらしい。
(…ん?)
傍に控える、光の球に視線を移す。
目の前の光景を見て震えていたソレは、より感情的な雰囲気を纏って、狂気的光を放っていた。
今にも暴れださんという風に、ギラギラと輝いている。
そして。
(うぉっ!?)
突如として、俺に向かって突撃してきた。
あまりにも急なことで一瞬怯むが、物理的性質は持っていなかったようで、ダメージなんかはない。
ただ、氷結したペンダントにその光が収まるのみだった。
……しかし、それだけでは止まらない。
光を放つようになったペンダントは、まるで暴力的に俺を導いた。
(!!?)
自分の意思とは反対に、俺の体は勝手に動き出す。
物陰に潜んで様子を見ていたのだが……、勝手に体はそこから飛び出したのだ。
(まずっ!?)
慌てふためく俺とは反対に、体はまるで冷静。
右手を突き出して、俺という意識に、勝手にこう思考させた。
【氷獄】
今になってようやく理解した、彼女の中に潜んでいた怒りが、目の前の軍勢に牙を剥いた。
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