第41話 受け継いだ力



 ひとまず大広間に戻ろう、というわけだが、無作為に逃げ回っていたせいでどの道を来たかさっぱりわからない。


 なんとなくの方向はわかるけども、こんなに入り組んだ道じゃあ正確なところは不明確だし。


 何か目印のひとつでもあれば良かったんだが……。


 (あ、そういえば)

 

 少し、あることに思い当たる。


 ここまで到達したのは、アンデッド軍団からひたすらに反対方向へ走ってきたからだ。

 無駄な戦闘を避けるため、極力距離を取るよう努めていた。


 (なら、その逆を行けばあそこに戻れるんじゃないか?)


 つまり、アンデッドとかち合うようにすれば、

 やってきた方向に向かえば、戻れるんじゃなかろうか。


 いや、必ずしも奴らがあの大広間からやって来てるわけではなさそうだが、しかし結局そこに戻っていく確率は高い。


 最初に行列を見つけた時もそうだが、どうにもアイツらはあの場所へ向かうよう操られているらしいし。


 跡をつけたりなんだりすれば、引き返せるだろう。

 じゃあ単純に、アンデッド軍団を探せば良いかということになるのだが。


 (それも今見つかんねぇしな…)


 さっきから、スケルトン…もといあの女性と戦闘をしてから、軍団に遭遇していない。

 

 いきなり始まった位階上昇によって意識を失い、それから目覚めてみても何の気配もないということは、この近くに奴らはいないという可能性が高いだろう。


 操る者が引き上げたのか、それとも何か別の理由があるのか。

 忽然と消えたのは少し不気味だが、まぁそれはそれとして。


 

 (ま、とりあえず覚えてる範囲まで引き返してくか)


 特段、急ぐ必要はない。

 手がかりのないまま焦って変な行動することは、ないからな。

 

 それに、の方もちょっとばかし試してみたいし。

 


---



 (お、あれは)


 前方に敵発見。

 しかし、これまで見てきたのとは少し様相が違う。


 まず言えることは、ではない。


 なんやかんやあれど、今まで見てきたのはほとんど直立二足歩行のアンデッドばかりだった。

 最初の方に遭遇した骸骨鳥からそれっきり、人外死体と出会っていなかった。


 しかし今前方にいる奴を端的に言うなら、『血染めの馬』。


 真っ赤な肢体を持ち、炎のように流れていく毛を携えて、パッカパッカという風に歩いている。

 こんな洞窟じみた所にいるのはなんか不自然だけど、そんな奴が目の前に存在していた。


 (ちょっと喧嘩売ってみるか)


 俺にしてはやや珍しく、好戦的な構えを取る。

 

 これからアンデッドドラゴンと対峙するつもりではあるから、人型以外との戦闘も慣れておかなければいけないからな。


 それに先ほども言った通り、スキルの実験もしてみたい。


 (新しく獲得したスキルは──)



〜〜〜〜〜スキル詳細〜〜〜〜〜

・【思考ジャミング】

対象の思考を掻き乱す。

全能力に小規模なマイナス補正。

・【スキルジャミング】

対象の使用中、もしくは使用を開始したスキルを停止させる。

・【呪弾】

魔法スキル。

『呪い』をもつ弾丸を生成、照射する。

対象の抵抗力の3割を無視する。

・【氷弾】

魔法スキル。

『氷属性』の弾丸を生成、照射する。

・【氷結】

魔法スキル。

対象を『氷結』させる。敏捷力や特定の行動の精度にマイナス補正。

・【氷獄】

魔法スキル。

使用者を中心に、広範囲にわたるすべての対象を『氷結』させる。

また、これによる『氷結』は使用者の位階以上による者の回復でないと治らない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 例の如くレシートのようなウィンドウが展開。

 

 ひとつひとつ評定したいところだけども、今は目の先に獲物がいる。

 なので、使えそうなものだけピックアップして、実際に使ってみよう。


 まずは……。


 (【呪弾】)


 赤い馬に向かって指を向ける。

 するとその先から、禍々しいオーラを放ちながら、球体が生成。

 その後、異次元じみた急激な加速を持って射出された。


 結果は、奇襲だったこともあって命中。


 腹のど真ん中に突き当たり、そのまま黒い弾道の筆跡が馬の体の向こうに見えた。

 貫通した、と言うことで良いだろう。


 

 うん。

 なかなか使えるな。


 抵抗力を一部無視しつつ、これほどの速攻を仕掛けられるのはかなり汎用性がある。

 【呪斬】と合わせて、二台巨頭として活躍してくれるかもしれない。


 ただ、少し火力不足な気がしないでもない。

 燃費が良いとも言えるが、魔力消費が少ない故だろう。


 その証拠にか、命中させた馬はまだケロリと立ったままであり、こちらを見て怒気のようなものを孕ませている。


 (ま、アンデッドだしな)


 もとより一撃でやれると思っていない。


 【氷弾】【氷結】


 奴が先に動く前に、こちらから追撃。

 氷の弾丸、そして冷気の波動の応酬が馬に向かって飛んでいく。


 通路いっぱいになるように放った。

 もちろん全てとはいわずとも命中。


 赤い体をどぷりという効果音を立たせながら貫通し、冷気はその体をじわじわと凍結させていく。


 

 これらはあの女性からペンダントを介して受け継いだモノだろう。

 おそらくは、スケルトンになっても使用していたスキルだ。


 こちらもかなり汎用性が高い。

 …が、種族柄の適性や役割が似通ったスキルがあるなどで、割と目立たなくなってしまいそうだ。


 【氷弾】は先の【呪弾】

 【氷結】は同じ足止めの【呪縛】なんかがある。

 もちろん各前者にも使いどころは確実にあるわけだが…。


 それよりももっとインパクトのありそうなスキルもまた、受け継いでいた。



 「ヒ、ィィィイイイン!!」


 奴は、 見た目通りの馬のけたたましい鳴き声を響かせる。

 

 あの赤い体は液体なのか、氷結によって霜を張らせて固まっているものの、グンッと首を挙げて高らかに咆哮をあげている。


 (ぅおっ…!?なんだなんだ!、じゃなくて!)


 その強烈さに一瞬気押されるが、すぐに持ち直す。

 そしてすぐに牽制へ打って出た。


 【スキルジャミング】

 

 馬の周りを、小さな赤い彗星のようなものが廻る。

 そして何周かした後で、バチィッという音を立てて馬に電撃を浴びせた。


 一瞬びくりとすると、馬の咆哮はぴたりと止まる。

 

 スキルを妨害するスキル。

 あの咆哮もおそらくスキルだったのだろう、これによって封じることができた。


 

 赤い馬はまた何か仕掛けようと動きを見せるが、氷結によって思うように体を動かせない。


 そこを────。



 【呪斬】


 

 円弧上の呪いの刃が。断ち切る。

 バシャッと血のような液体をぶち撒けて、赤い馬の首と体はなき分かれることとなった。


 (ふぅ、これで…倒したか?)

 

 個人的に物珍しい相手だったが、奇襲がハマって快勝することができた。

 

 獲得したスキルも、今後の戦闘の幅を広げてくれるものばかり。

 棚からぼたもち的に手に入れたスキルもあったが、まぁ確実に成長している、といっても良いだろう。


 (これなら、少しは屍竜とやらに対抗できるかな…?)


 ちょっとばかし希望が持てた。

 いやまぁ、全然及ばなさそうではあるのだが、とりあえず気持ちとしてね。


 なんとか彼女の願いに報うことができるよう、しゃんとしなきゃな……。




 そう、少しばかりの決意をした刹那に。





 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」


 狂気じみた呻き声の束が、向こうから聞こえてきた。

 声の主らはすぐに視界へと入ってくる。


 それは、案の定というべきか、アンデッド達の軍勢だった。


 しかも、さっきよりも気持ち多い気がする。


 (なっ、は、突然!?)


 突然の応酬に、流石に肝を抜かれる。

 なんでそんな前触れもなく……。



 ……いや、もしかしたら。


 さっきの赤い馬の咆哮。

 アレが関係しているのかもしれない。


 ジャミングは入れたけど、それでも一応は叫びがあたりに響いていた。


 それを駆けつけてきたのが、こいつら……という説。

 十分ありえそうだ。



 だが、今はそんなことどうでもいい。

 問題はこの状況をどう脱するか。


 省エネの【呪弾】【氷弾】を連発するか?

 いや、それでも限界が来そうである。

 

 かといって逃げるという手も……この数では叶わないかもしれない。


 正直いって、かなりきつい状況ではある……が。



 (こ、これならいけるんじゃないか!?)


 思い至るは、彼女から受け継いだスキル。 

 説明からしてかなり強力そうだった、あのスキルだ。


 

 【氷獄】



 ごっそりと魔力が抜けていく感覚と共に、一瞬にして視界がめっきりと変貌した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る