第40話◯逡巡
首にかけたペンダントに触れる。
凍りついたそれは、見た目通りとても冷たく感じられる。
手先からじんわりと冷気が侵食してきて、数秒も触れば凍りついてしまいそうなくらいの勢いだ。
中に封入された写真を大事に閉じ込めるように、その氷結は非常に強固である。
想いの強さに比例するかの如く、氷が溶ける気配はない。
やはり、彼女が施したものなのだろう。
───アレが、夢ではなかったのだと再確認する。
思い出そうとするとまだボンヤリ…という状態でしかないが、しかし夢の中の彼女の発言、頼みは本物だったのだろう。
俺は、彼女の悲願を一身に託されのだ。
(やるしか……ないな)
正気になっても無理難題であるとわかっているが、引き受けた以上成し遂げないわけにはいかない。
軍勢を率いる親分である、アンデッドのドラゴンを倒す。
そして、このペンダントを彼女の想い人に届ける。
どちらも別ベクトルで困難だ。
達成できるか非常に怪しい。
……ただ、引き受けなければ良かったなんていう感情は全くない。
俺は完璧善人だ、なんて言いたいわけではなく、無理難題を達成するということにある種の欲望みたいなものを抱いているのだろう。
俺の元々の精神性と、社畜時代に叩き込まれたモノが合わさった結果だ。
会社には都合のいい駒だったことだろう。
まぁそれはそれとしても、その性質自体を俺は恥じるつもりはない。
(まずは……親分の居場所を割り出さないとな)
たしか彼女は、「ペンダントが導いてくれる」だなんて言っていたっけか。
力の一部を込めたみたいなことや屍竜の居場所には覚えがある、なんてことも言っていたので、このペンダントが鍵になるはずだ。
(んでも、どうやって記憶を見るんだ?)
ロケットに触れてみたり、弄ってみたりして色々試してみる。
すると、とある景色が脳裏に
────広大な空間
────立ち並ぶ朽ち果てた柱
────四方八方に巡らされた樹木の根
────何よりも巨大な閉ざされた扉
────骨と血肉を剥き出しにし、咆哮をあげるドラゴン
────それに滅ぼされる人々
(これが、彼女の…記憶)
惨憺たる惨状が映し出され、なんともいえない感情になる。
何十倍もの巨体をもつ化け物に、果敢に抗戦する人々。
しかしそれも虚しく、剥き出しの骨の手により、無惨にも引き裂かれていく。
あたりが邪悪な瘴気に満たされ、まさの死屍累々ともいえる状態だ。
(………)
いや…、これ、イケるのか?
見た限り、結構な手勢を抱えての交戦だったようだけど、見るも無惨な状況だったんだが?
別に舐めていたわけでもないが、それにしてもドラゴンが強そう過ぎるし。
正直言って俺が太刀打ちできるようなレベルなのか。と言われると首を傾げざるを得ない。
一応今の能力を見てみるが──。
==============================
個体名:ーーー
種族名:マミー・タブー
位階:
存在値:9410
[能力]
生命力:563/563
魔力 :993/993
攻撃力:107
防御力:95
抵抗力:580
敏捷力:271
==============================
…う〜ん。
スキルでどうにかこうにかできる段階なのだろうか。
魔力と抵抗力の数値には目を見張るモノがあるけど、そのほかはかなり低いし…。
今からでもお願い取り下げとかは───。
(…いや、それはダメだな)
一瞬逡巡するも、すぐに思い直す。
ただの口約束、それも夢という曖昧な空間の中での物だが、それでも俺は無碍にすることなどはできない。
俺の信条からもそうだし、心の奥底のような部分が、裏切ってはいけないと叫んでいる気がするのだ。
まぁ結局感情からの理由なんだけど…。
(まぁ、実際に見ないことにはな)
もしかしたら、なんやかんやで上手くいくかもしれない。
結局目の当たりにしないとわからないことなんて、山ほどあるんだ。
今回がその例外になる可能性はあるけども…。
ま、とりあえずやってみよう。
映し出された記憶のロケーションは、おそらく先ほど見た大広間のような場所だろう。
もしかしたら屍龍が転々としている可能性もあるが、とりあえずは唯一の手掛かりだ。
ひとまず、これを元に追っていこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます