第37話 凍りついた記憶


 

〜〜〜〜〜〜〜【META-LOG(非通知)】〜〜〜〜〜〜〜

……………

▼『個体名:NO DATA:準肆位』を撃破しました。

▼410の存在値を獲得しました。

▼スキル【思考ジャミング】【スキルジャミング】を獲得しました。

……………

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 

 『存在値が一定値に達しました。位階の上昇が可能です』


 機械的なアナウンスが告げられる。

 思ったよりも早い、ランクアップの通達だ。


 今回ので大幅に存在値を獲得できたのか、それとも貯金がたくさんあったのか。


 何はともあれ、成長が見えてきて嬉しい限りである。



 ……まぁ、そのことも重要なんだけども。

 俺は別のあることに意識が向けられていた。


 それは、スケルトンの残骸に埋もれていた、明らかに人工物のだ。


 いやまぁ、俺の包帯みたいに種族としての付属品の可能性もあるが……。

 倒しても未だ残ってるし、それになんだか異様な雰囲気を醸し出しているような気がしてならない。


 もしかして魔法アイテム的なものなのだろうか。



 この空間の上部に張り付いていたが、魔力で足を再生し、張り巡らせた包帯を回収して地面に着地する。

 

 近くで見ることで、やはりこれが本物の首飾りであることを理解する。

 …ただ、というにはあまりにもボロボロで、つまらないものだ。


 宝石やキラキラしたものなんかはなく、ただ金属製の楕円のチャームに、方位磁針のようなマークが記されているのみ。


 先の戦闘によるものか、その模様さえガビガビに削られてしまっている。


 そんな面白みのないこのペンダント。


 未だに存在し続けているという点を除いて、興味を惹かれる点としては、これがロケットペンダントであるということ。


 つまりは、中に何が込められているのか、ということだ。

 おそらくは何かの写真やら小さな物なんかが入っていそうだが…。

 具体的にどんなものがあるのかは気になるところである。


 (プライベートを覗くようで、なんだか申し訳なくは思うけど…)


 もしあれが、元々は人間だった、ということなら少し憚れるような思いにはなる。

 ……が、まぁ死人に口無しというか、なんというか。

 興味には勝てないと言いますか。


 (……いや、これはせめての供養の意も込めての確認だ。)


 そういうことなら持ち主も何も言うまい。


 

 と、まぁどうでもいい正当化を繰り広げて、俺はロケットペンダントを開いた。


 そこにあったのは、やはりと言うべきか。

 男性のような人と女性のような人が並んでいる、写真であった。


 かなり古いものなのか、紙がボロボロに朽ちてしまっており、顔や詳しい姿なんかはあまり認識できない。

 ただ、まぁどちらも美男美女そうな雰囲気は感じられる。


 (どちらかが、これの持ち主か…?)


 夫婦なのか恋人なのかはたまた知らぬ人なのか、関係性はわからないけど、おそらくはどっちかが本人に違いない。


 正解がどれかは見当もつかないけど…。


 (……あ、いや、これって)

 

 女性の方の服装を見て、ピンとくる。


 藍色のケープ。

 金色のに花が咲き誇るヘッドドレス。

 

 髪は長く、手先はとても繊細である……とかはまぁ置いといて。

 その様相には見覚えがあった。


 もちろんそう、だ。


 先ほどのそれはもう、かなり色褪せ、錆びついてしまっていたけど、だが写真の中のものと瓜二つであった。


 スケルトンの生前の姿が、この女性であると見て間違いはなさそうである。


 (やはり、俺みたいな同族はいるということか。まぁ、自我が残っているか、というのはまた別なんだろうけどな)

 

 もともと別世界の住人である、ということも関係してそうだし、蘇り仲間と出会うのは難しそうだ。


 まぁ、会いたいともあんまり思わないけど。


 (…ん〜、これ。どうしようかな)


 死人の持ち物であることが確定したので、無碍に扱うことはできない。

 とはいえ、プライベートなものを赤の他人が持ち歩くというのもなんだかな、って感じだが。


 (とりあえず、首にかけておくか)

 

 どこかで供養できるその時まで、これは俺が預かっておこう。

 身勝手な理由をつけて、それに頭を潜らせ、首へとかけていく。



 

 ───その刹那。



 首元で、パキッパキッという妙な音が立った。

 何かがひび割れるような、いや逆に生成されていそうな、そんな音。


 反射的にその方向へ視線を送ると。


 そこには、霜を立たせ、ペンダントがあった。


 (え、は…?)


 突然のことに困惑する。

 思わずペンダントを外そうとするが、特段、その氷結が俺へと迫るということはなかった。


 ただ、ロケットの部分が結晶のように凍てついたのみ。


 何が起こったのか、何故それが起こったのか。

 全くわからないけれど。


 (いったい何が…)


 ようやく思考が追いついて、まともに考えようとしたところで。ー


 『位階の上昇を開始します』


 機械的なアナウンスがそこに差し込まれた。


 (…え、待て。まだ許可して──)


 唐突の連続で思考が追いつかない。

 咄嗟に制止を唱えるも、お構いなしに俺の意識はシャットダウンされた。

 

 

 

 

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