第36話 繃帯術の見せ所


 ────ヒュッ


 空を切る音。

 スケルトンのもつ木片から、高速の氷撃が照射される。

 

 それもひとつではない。


 ひとつ…ふたつ…、そんなふうに数えられる数ではない。

 まるでマシンガンのような氷塊の応酬が繰り出されていた。


 (うおっ!?そんなんアリか!?)


 おもわず面食らってしまうが、そんなことをしている場合ではない。

 対応できなければ蜂の巣だ。

 

 【【【呪斬】】】


 こちらも負けじと、斬撃の連射を試みる。

 円弧型のソレらは氷塊に向かって飛んでいき、そのままかち合う。

 

 お互い相殺はできているが、一部は競り負けて貫通してしまっている。

 その漏れた攻撃が、じわじわと俺を攻撃していた。


 (くそっ、常に【呪詛の外套】を展開しないと間に合わない…!)


 消えては展開、消えては展開を繰り返す。

 ステータスを見なくとも、ゴリゴリと魔力が削られているのがわかった。


 所詮は2発喰らえば霧散してしまう程度の耐久度である。

 無効化できるとはいえ、あまりにコスパが悪い。


 (っ〜〜!!この凍った足をどうにかできれば…!)


 いくらなんでも、直立不動でも応戦は無理がありそうだ。

 凍てついた体をなんとかしなければ、この戦いの負け線は濃い。

 

 (でも、氷を溶かすようなスキルなんてないしなぁ……)


 火を扱うようなスキルはからっきし。

 今の体では拳で砕くことも叶わなそうだ。

 以前の鎧化パンチならなんとかなっていそうな感じはあるが。


 …やっぱり、マミーの体になってから選択肢が狭まってる気がする…!!


 (……あ、そうだ)


 と、思ったところであることに思いつく。


 氷を溶かせないなら、壊せないなら。

 根本から取っ払ってしまばいい。


 つまりは、しまえばいいのだ。


 普通の人間だったなら阿鼻叫喚サイコパス案件だけども、今の俺はアンデッドで痛覚が全然ないので関係がない。

 むしろ合理的な策ですらあるだろう。


 ……しかし、その後の身動きはどうするか。

 氷をどうにかできても、足を失えば動けないことに変わり無い。


 再生はできるけども、無数の攻撃の応酬が迫り来る。

 足を治してる間に体がぐちゃぐちゃになりました、なんて笑えない。


 なら、やはり無謀な策であるのか?


 (いや、この体ならがある)



 俺の全身を取り巻く、このだ。

 

 まるで四肢のように、自由自在に動かすことにできるこの包帯。

 見た目はボロ臭いけど、頑丈さとしなやかさは一級品だ。


 これならあるいは、対抗策になり得るのでは?


 (そうとなれば……、やるぞ)



 【呪斬】



 呪いの刃を生成。

 しかし向かうところはあのスケルトンではなく、俺の足。


 スパンッと呆気なく分離した脚と足。

 急激に視界が下降し、俺の上半身は重力に従って地に伏さんとする。

 

 …しかし、そこで。


 (うおおお!唸れ、しなれ、俺の包帯!)


 全身から蛇のように、包帯が伸びていく。


 四方八方に伸びるそれは、かたや、まとまって太い一本に。

 かたや、そのまま細い個々として。


 壁や地面、天井の溝やでっぱりなんかに巻き付いた。

 それにより、落ちゆく体もぴたりと滞空する。


 (よし、これなら…!)


 一応成功はしたものの、奴の攻撃は止まらない。

 マシンガンの二波がもう迫ろうとしていた。


 (【呪斬】や受け身では対処が追いつかない。その前に魔力が尽きてしまうだろう。だが、これなら…!)

 

 さらに、全身の包帯を放出させる。

 見ようによっては千手観音のような様子になっているだろう。


 それほどまでに解放すると、やはり操作が難しくなるが……。


 (ここで、【META】を発動する!)


 フッ、と意識が三人称になる。

 体の主導権が別のなにかに受け渡される。


 御用達のオート機能。

 自力戦闘を心がけていたが、こういう時はやはり頼もしい。


 無造作に放出され、へにゃへにゃになっていた包帯は、いきなりピンってまっすぐに張る。


 かと思えば、ゆらりと揺らめき。

 まるで鞭のような挙動をとって、しなり始めた。



 ヒュンヒュンヒュンと風を切る音が聞こえる。

 嵐かのような包帯の連撃が、向かってくる氷塊を次々と粉砕していく。


 (うおぉ……、凄く…、すごいな…)


 その動きはもはや、達人の域をはるかに超えている。

 これにはもう、小学生みたいな語彙しか発揮できなくなってしまう。


 ……だが、そうボケッとしてもいられない。


 

 しばらくの間、オートでマシンガンをいなしていると、いつしかその応酬は止まっていた。

 なんとか、第二フェーズを乗り越えたようだ。


 (よし、今だ!)


 張り巡らせた包帯を収縮、延長、収縮。

 ゴムにも似た伸縮を繰り返して、俺の上半身を移動させる。


 上下左右、立体機動でスケルトンへ接近する。


 (これも、オート機能さまさまだな…)


 改めてありがたみを感じたところで、ついには奴の頭上、目と鼻の先にまで距離を縮めた。


 魔力がないのか、それとも気づいていないのか……。

 スケルトンはそのまま棒立ちしている。


 (さっきはよくもやってくれたな…!これでお返しだ!)


 【【【呪斬】】】


 空中に、呪詛の刃が出現。

 それは下の骸骨に向かって、一斉に降り注いだ。


 【剥奪の呪い】


 抵抗の余地も逃さない。

 魔力を剥奪して、防御展開を阻止する。


 ……だが、別にこれといって奴に動きはなかった。


 ただ、甘んじて刃を受け入れるのみ。


 (もう諦めってことか…?…なら、お望み通りにしてやる)


 雨の如く降りかかる刃は、やがて骸骨の体に亀裂を走らせる。

 そこからを起点に、強烈なダメージが全身に現れ始めた。


 身に纏っていた布は、もうボロ切れもボロ切れ。

 跡形もなく切り刻まれてしまう。


 そして体のほうも、ガシャガシャと音を立てて刻まれて。


 遂には、全身に走った亀裂が一点に収束し、体全体がバラバラに崩壊してしまった。



 (……倒した)

 

 念の為、しばらく警戒してみるものの、やはりそれは杞憂だったようで。

 スケルトンはもうこの場から消え去っていた。


 そこに残されていたのは、粉状になった骨の残骸と、その中に紛れただけだった。

 


 

 

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